ブルドッグがは遺伝的多様性が極端に低い〜健康な個体を産み出すのは困難(米研究)

サイエンス・リサーチ
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イングリッシュ・ブルドッグといえば、頭部が大きくつぶれ顔。皮膚はたるみがちでいつもしかめっ面をしているように見えるワンコさん。ユニークな外見は多くの人を虜にしてきましたが、この外貌を守るための選択的交配は「犬の健康を損なう」として強い批判の対象となっていました。

外貌を守りたい愛好家にとこれを批判する人々の溝は、今に至るまで埋まっていません。愛好家は「外見を変えずとも健康上の問題は解決出来る」と主張し、「健康重視で交配や審査基準を見直すべき」とする人々に対抗してきたからです。

ここに一石を投じる研究論文が、7月28日の”Canine Genetics and Epidemiology”に発表されました。論文の中で研究者たちはイングリッシュ・ブルドッグの遺伝的多様性は極めて低く、現在のブリーディングを続ける中で健康な個体を産み出すことは極めて困難であると結論付けています。

健康問題と闘ってきたイングリッシュ・ブルドッグ

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image by Roozbeh Rokni / Flickr

常にハァハァと苦しそうに呼吸をし、動きもゆったり。下顎が出っ張りすぎているために、噛み合わせも悪く、噛むこと自体が苦手。暑さに弱く、夏季は外でのお散歩もままならないというのが現在のブルドッグの置かれた現状です。

個性的な外見が人気のブルドッグですが、その劇的とも言える外見は健康上の問題も引き起こしています。眼病、呼吸器不全、先天性心臓疾患、歯科的な問題、皮膚病、脊髄変形などは潰れた鼻や短い四肢など外見上の特徴が原因ですし、癌やてんかんなども多く発症しています。この原因とされてきたのが選択的交配や近親交配で、ブリーダーや愛好家は「外見を守るために犬の健康を犠牲にしている」と批判を浴びていました。

ブルドッグが外見的特徴を守りつつ、健康を取り戻すことはできるのか?この疑問に対し、今回の研究はノーを突きつけることとなりました。研究者たちは、クロスブリーディングなくしてこの犬種の健康を取り戻すことは極めて難しいとしています。遺伝的多様性が極めて低いことが、健康な個体を産み出すことを難しくしているというのです。

ブルドッグは遺伝子多様性が極めて低い

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image by Vivian Chen / Flickr

研究(A genetic assessment of the English bulldog)は、現在の遺伝子プールからイングリッシュ・ブルドッグの健康な個体を産み出すことができる遺伝的多様性を有しているかを確認する目的で行われました。

対象となったのは、計139匹のイングリッシュ・ブルドッグ。ケネルクラブに登録された102匹(ほとんどが米国在住)と、付属病院を訪れた患畜37匹についてDNAの調査が行われました。結果、イングリッシュ・ブルドッグの遺伝的多様性は極めて低く、それが外貌の特徴を維持するために行われるブリーディングの結果であることがわかったということです。

遺伝的多様性とは、一つの種のなかで集団や個体が示す遺伝的な違いのこと。生物多様性センターは、「遺伝子の個性」と表現しています。遺伝的な多様性が低いと、正常な免疫反応を引き出すことができません。すべての個体が同じ病気にかかったり、繁殖の成功率が低下したり(近交弱勢)、遺伝的障害が起きやすいといった健康上の問題が起こります。それだけでなく、狭い遺伝子プールの中で交配を続けることになるので、ブリーディングを重ねて様々な問題が繰り返されるだけという事態を招くというのです。

同研究では、ケネルクラブ登録のグループと後に追加された病気の37匹とを比較する調査も行われましたが、このグループ間に遺伝子レベルでの違いは見られませんでした。つまり血統重視の犬舎出身犬とそれ以外の犬の間には、遺伝子レベルの違いや優劣は見られなかったということです。

アウトクロスがもっとも早く改善できる方法

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image by hschmitz / Flickr

論文の共著者であるペダーセン教授(Niels Pederse)は、「論文によって批判をしようとしたのではない。取り組むべき問題があることを伝えたかった」とBBCのインタビューに答えています。「(遺伝子を建材のブロックに例えて)この犬種を再生産したいなら、手持ちの選択肢の少ないブロックを使えばいい。でも、同じブロックを使うなら、新しい家を建てることはできない」

加えて「遺伝的多様性を高めるもっとも早い方法は、似たような特徴だが遺伝子的には異なる系統の犬の組み合わせて繁殖を行うこと。この犬種内で操作しようとするのは極めて困難」だと述べています。

2009年、英ケネルクラブはブルドッグを含む76犬種について審査基準を改めました。犬の健康に配慮した形での変更と言われています。血統や犬種特性に係る一連の問題について英国王立動物虐待防止協会(RSPCA)は、心身の健康より外見維持に重きを置かれる状況に懸念を表しており、(ケネルクラブなどの)審査や登録のルールを改定することが望ましい旨の声明を発表しています。

◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] A genetic assessment of the English bulldog | Canine Genetics and Epidemiology | Full Text

Featured image credit Peter Holzmann / Flickr

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