糖尿病探知犬は人間の息に含まれる化学物質から低血糖症を探知する(英研究)

サイエンス・リサーチ
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糖尿病1型の患者が低血糖発作を起こした時、その呼気にイソプレンという化学物質が含まれていることがわかりました。ケンブリッジ大学の研究者によるこの発見は、犬たちが低血糖症を嗅ぎ分けられる説明になる可能性を示しています。医療ジャーナル”Diabetes Care”に発表されました。

低血糖発作は様々なタイミングで起こり、死に至ることもある

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糖尿病は、インスリンの量や作用が不足して、高血糖状態が続く病気です。高血糖を治療として血糖を下げる飲み薬やインスリンを使用することがありますが、これが効き過ぎて血糖が下がり過ぎるのが低血糖です。

糖尿病ネットワークによれば、食事の間隔をあけ過ぎたとき、食事の量が少なかったとき、朝食前に運動したときなど、日常の様々なタイミングで低血糖になるそうです。血糖値が下がりすぎると発汗、手足の震え、めまい、ろれつが回らないなどの障害が起こり、さらには意識障害や昏睡を起こします。意識障害が出ると、自分では何もできなくなるので、自分以外の人にその状態になり処置が必要であることを周りに知らせる必要があります。

ただ、前述のとおり、低血糖はいつ起こるかわかりません。寝ている間発作が起きることもあります。そして、血糖値は徐々に下がるとは限らず、急激に低下して意識障害や昏睡を引き起こすこともあります。患者自らが周囲に知らせることは、困難なことも多くあります。

現在、血糖値の低下を感知し周囲に知らせる役割は、特別な訓練を受けた糖尿病探知犬が担っています。欧米では訓練所なども整備されており、多くの糖尿病探知犬が糖尿病患者を命の危険から救っています。

犬たちは患者の呼気に含まれるイソプレンを探知している

犬たちはその優れた嗅覚によって異変を感知し、私たちに知らせてくれるのは多くの実績からわかっていました。しかし、彼らが何を根拠に「異変が起こった!」と感じるのかは、これまでに正確なことはわかっていませんでした。

糖尿病探知犬について知った研究者たち(the Wellcome Trust-MRC Institute of Metabolic Science, University of Cambridge)は、犬が患者の呼気に含まれる化学物質を嗅ぎ分けるのではないかと言う仮説を立てます。仮説をもとに予備研究として、40代の1型糖尿病患者8人(女性)の協力のもとに、低血糖時の状態について調査を行いました。データを質量分析(粒子を分離・検出する方法)にかけた結果、呼気に含まれるイソプレン量について有意レベルの上昇が見られることがわかったそうです。

イソプレンとは、消防法に定める第4類危険物 特殊引火物に該当する。産業のみならず生体物質としても有名ではあるが、場合によっては環境や人体に多大な影響を及ぼす恐れがある炭化水素。人間ってそんなものを呼吸によって吐き出しているの?と半信半疑で調べてみたら、人の呼吸でも吐き出されると環境省のレポートに書いてありました。へー。

ケンブリッジ大学のエヴァンス教授は、「(イソプレンは)コレステロール合成の際に作られる副産物ではないかと推測している。しかし、なぜ患者が低血糖発作を起こす時にイソプレン量が増えるのかは、まだわかっていない」とコメント。

人間はイソプレン量の変化に気づかないものですがが、トレーニングを受けた犬ならば検知するのは難しくないようです。研究者たちは、呼気中に含まれるイソプレンレベルを測定できる新たな医療器具の開発につなげられると、今後の可能性に期待をしています。


現在の、血糖値測定器は指に針を刺すような、患者さんの負担が大きいもの。呼気を測定するだけで血糖値の変化がわかったり、危険を脱することができるようになれば良いですね。

犬たちの活躍が仮説を生んだ研究。やっぱり犬は人間の最良の友なのだと、誇らしくも嬉しく思います。

◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Neupane, S., Peverall, R., Richmond, G., Blaikie, T. P., Taylor, D., Hancock, G., & Evans, M. L. (2016). Exhaled Breath Isoprene rises during Hypoglycemia in Type 1 Diabetes.
[2] 20. 低血糖 | 糖尿病セミナー | 糖尿病ネットワーク -生活エンジョイ物語
[3] イソプレン – Wikipedia

トップおよび文中の画像は”Wildrose Diabetic Alert Dog Conference” by Frank Wisneski / Flickr 

嗅覚?それとも”母”の直感?8キロ離れた場所から低血糖を感知した糖尿病探知犬 | the WOOF

犬たちの嗅覚は非常に優れていることは、皆さんもご存知のとおり。 嗅細胞の数が多いこと、鼻の構造、脳における匂い分析エリアの大きさなどにより、犬が匂いを嗅ぎ分ける能力は人間の1000倍から1万倍優れていると推定されています。

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