犬が人間の真似をする…というのは、愛犬家の皆さんには驚きでもなんでもないかもしれません。赤ちゃんと真似っコ遊びをする動画や、飼い主さんと同じ行動を取っていると思しきワンコたちの動画は、ネット上でいくつも確認することができます。
「私の真似をしてごらん」研究のはじまり
犬が飼い主を模倣する能力に優れていることを示した恐らく最初の研究は、2006年のTopálらによるベルジャン・シェパード・ドッグを使った研究[1]です。訓練技術”Do as I Do!(私の真似をしてごらん)(※)”を使って、犬が人間の模倣ができることを示しました。4歳の犬フィリップの模倣成功を受けてTopálらは、「犬は複雑な社会行動を要する状況で上手くやるために、観察により力を得ることができる可能性を示している」と結論しています。
※ ”Do as I Do!(私の真似をしてごらん)”は、1950年代にKeith & Catherine Haysがチンパンジーを訓練する研究の中で開発した訓練技術。現在も、動物の学習の研究などで使用される。
あなたの行動を犬は覚えている〜犬にもエピソード的記憶が存在する(かも)(研究) | the WOOF
犬は自発的に人間の真似をする
フィリップの素晴らしい能力はしかし、世間にあまり注目されませんでした。Topálの研究チームの一員であったMiklosi氏はHuffingtonpostに、「犬が世界をどのように学び、どのように見るかに関心を持つ人は誰もいなかった」と語っています。
それから4年後の2010年、ウィーン大学とオックスフォード大学の研究者チームは、犬が自然発生的かつ自発的に人間の真似をするという研究成果を発表しました[2]。Range博士が率いるチームは、10匹の成犬とその飼い主の協力を得て、犬が飼い主の行動を模倣することを実験により示しました。犬たちがオヤツを与えられるか否かに関わらず、飼い主の行動(扉を開ける)を真似した結果を受け、「これは(犬に)自動的な模倣(Automatic imitation)の性質が備わっている最初のエビデンスである」と論文では結論付けています。また、この結果は「イヌの模倣行動は、進化の歴史(家畜化)により形成されたというよりは、人間との発達的相互作用により形作られたことを示唆している」としています。犬たちの行動は、人間の子供と同じように外から影響を受けるということ、社会化を通じて正しいとか間違っているなどを学んでいく可能性を示したという訳です。
犬も”自動的な模倣’ならできる
さて、2010年の研究によって、犬たちが自動的な模倣ができることが示されました。これは何を指しているのでしょうか。
模倣とは、他者の行動パターンを見てそれと同じ行動を行うことです。これは意識的に行うか、非意識的に行うかで大きく2つに分けることができます。
自動的な模倣(Automatic imitation)とは非意識的に行う模倣です。相手が笑顔になるとつられて笑顔になる、といった状況がこれに該当します。一方、意図的に行う模倣は行動学習のメカニズムとして定義されるものです。これを行うためには、相手の行動(動作、言語)を認知し記憶する能力、自己と他者の別が理解する能力、相手の運動意図を理解する能力(社会的認知能力)、さらに動作をコピーするための運動能力などを要します。
すなわち、2010年の研究では「犬は自動的な模倣はできるが、意図的な模倣ができるかはわからない」ということが示されたに過ぎなかったということです。
犬には真似っこして学習することはできないのでしょうか。
◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Topál, J., Byrne, R. W., Miklósi, A., & Csányi, V. (2006). Reproducing human actions and action sequences:“Do as I Do!” in a dog. Animal cognition, 9(4), 355-367.
[2] Range, F., Huber, L., & Heyes, C. (2011). Automatic imitation in dogs. Proceedings of the Royal Society of London B: Biological Sciences, 278(1703), 211-217.
[3] 模倣 – 脳科学辞典
Featured image credit dogsbylori / Flickr
犬はイヌ友の’真似っコ’をする〜模倣を通じて社会的な絆を強める(研究) | the WOOF
相手の楽しそうな笑顔を見て笑顔になる、というのは、皆さん日常生活の中で経験していることだと思います。 他の人の感情を知覚して自分も同じ感情を経験する現象を情動伝染といい、人間やチンパンジーなどの霊長類では顔の模倣としてその多くが発現します。 では、犬たちはどうでしょう?彼らも’友達’と感情を共有するのでしょうか?共感するために模倣という手段を使うのでしょうか? …