意気揚々とオシッコを引っ掛けたり、少量の排尿を繰り返したりをする愛犬。尿マーキングと言われる行動ですが、犬のオシッコの全てがマーキングであるとは限りません。犬の身体が必要とする通常の排泄もありますし、医療上の理由による排泄もあります。
マーキングか、それ以外か
犬の排尿は、生理学的なもの、医療上の問題によるもの、そしてマーキングの3つがあります。
生理学的な排泄は、膀胱の尿が一定以上になると、尿道からからだの外に排出される自然な身体機能です。自然な行為と言っても、トレーニングを受けた犬ならば、意識的にオシッコを我慢することができます。トイレできっちり用を足すコは、自分で意図的に我慢している偉いワンコさんだということです。
一方、医学的に問題がある場合には、膀胱に尿を貯めることが難しくなることがあります。生殖器に異常がある場合、病気や薬物などの影響がある場合には、頻尿や失禁（お漏らし）といった問題が起こります。
このほか、犬が恐怖を感じている時や興奮しすぎた場合にも、犬は排尿することがあります。トレーニングが不足している場合や、分離不安によっても尿の問題は起こります。
尿マーキングはこれらとは異なり、犬が意図的に目的を持ってする行為です。通常の排尿に比べ、極端に少量の尿を垂直な物質に向かって頻繁にかけるような場合は、尿マーキングである可能性が高いです。
マーキングか？通常の排泄か？
生理学的な排尿と意図的な尿マーキングの区別はどこでつけられるのでしょう。以下に、判断のポイントをまとめています。複数のポイントが観察されるようならば、通常の排尿ではなく尿マーキングだと考えて良いでしょう。
- 極端に少量というのが一つのポイントです。犬によっては意図的に尿を貯めて、少量ずつ出すコもいます。ただし寒い日や雨の日だと、膀胱内の尿排出が困難になる犬もいますから、寒い雨の日のチョビチッコは例外と考えましょう。
- 尿マーキングというと雄犬のイメージがありますが、雌も行うことがあります。雄の多くは片足を持ち上げますが、中には両足を持ち上げる犬もいます。避妊していない雌犬は、ヒート（発情期）の直前直後に頻繁に起こります。
- 尿マーキングの多くは垂直の物質に対して行われます。これは、匂いを嗅ぎやすい高さにオシッコを引っ掛け、注目を多く集めるためだと言われています。そして、犬の多くは、他の動物の尿が掛けられた場所にマーキングする傾向があります。このため、電柱や街灯といったお馴染みの場所への排尿は、尿マーキングの可能性が高いです。
- ASPCAが行った、尿マーキングが観察される年齢調査によれば、3ヶ月齢が10%、6ヶ月齢が20%、12ヶ月齢が40％、1歳半が70%、2歳までで90％となっています[1]。
犬がマーキングをする理由
犬の尿マーキングは、コミュニケーションの通常の形です。尿には性別、年齢、感情の状態、発情期かどうか、健康状態などの様々な個体情報が含まれています。尿という”身上書”を使って、他の犬とのコミュニケーションをとっているという訳です。
犬たちのニオイによるコミュニケーション〜お散歩はSNSに似た楽しさを提供するもの | the WOOF イヌメディア
場所やモノに自分の尿の匂いをつけることによって、地位やなわばりを誇示するというのが一つの説です。「この電柱は僕のものです」と主張する目的という訳です。排尿後に土を跳ね飛ばす行為は、尿の匂いを分散させる目的と、視覚に訴える目的があると言われ、いずれも縄張り誇示の目的と言われています。
この他に「僕ちゃん、参上！」と知らせる目的でマーキングすることもあります。名刺を置いてくるようなイメージですね。
雌の尿マーキングには、発情を知らせる目的もあるようです。発情期の雌の尿にはエストロゲンの代謝産物が含まれており、これが雄を惹きつけるのです[2]。雄はヒート（発情期）の雌が近くにいると、自らをアピールするために尿マーキングをより頻繁に行う傾向があります。
このほか、不安を感じることが尿マーキングを引き起こすことがあります。留守番や新しい家族の登場、引越しや新しい家具の到着などの不安を経験すると、マーキングが起こります。
◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Urine Marking in Dogs: Why do Dogs Urinate to Mark Territory?
[2] Doty, R. L., & Dunbar, I. (1974). Attraction of beagles to conspecific urine, vaginal and anal sac secretion odors. Physiology & Behavior, 12(5), 825-833.
Featured image credit Don DeBold / Flickr
