犬も年齢を重ねると、ソファにいる時間が長くなりがちです。ゆったりと身体を休めることは良いことですが、刺激の少ないリラックスばかりの生活は、犬の老化を加速させてしまいます。
身体機能とともに認知機能も低下する
幸福とは、単に痛みや恐怖がない状況にあることを指すのではなく、ポジティブな感情があることが大切だと考えられています。人間では、肯定的な感情や前向きな活動が幸福を促進することが、先行研究により示されています。動物でも、肯定的な感情が繰り返されると健康が改善され、生活の質が向上する可能性があることがわかっています。
シニア期に突入すると犬はグッと落ち着きを増し、睡眠時間が増えて活発な遊びの時間が減少します。そして飼い主も、こうした犬の変化を、「シニアだから」と受け止め、訓練や運動や散歩などを減らす傾向にあります。こうした飼い主による関与の減少は、犬の喜び感情を減らし、老化を加速させる要因となりえます。
身体に負担をかけすぎず犬に刺激を与える方法を探るため、研究者たちはタッチスクリーンを使った技術が犬の生活の質改善にどう影響するかを探索しました。
彼らが”犬の数独”と呼ぶシステムを使った訓練では、犬はゲームを楽しむことができる可能性と、ゲームをすることにより退屈や不安を跳ね飛ばす事ができる可能性が示されました。
犬はタッチスクリーンのゲームを楽しんだ
ウィーン大学の研究者らは、ペットのボーダー・コリー100匹と他の犬種115匹に”犬の数独”を試してもらい、研究期間の彼らの変化を飼い主からの聞き取り調査により記録しました。
”犬の数独”は、タッチスクリーン上に示された画像から正しいものを選ぶと言う単純なもので、概念的には人間の数独とは全く違います。犬たちは3段階の訓練を経て、スクリーン上の画像とフードという報酬との関連付けを学びます。
実際のゲームでは、犬は画面上に表示された絵を鼻タッチし、スクリーン下から吐き出されるオヤツをゲットする”初級編”にチャレンジします。上手にできた犬は上級編にすすみ、少し難しい”選択ゲーム”にトライします。2つの画像のうち正しいものを選択しないと、犬はおやつをもらえません。
研究者によれば、犬はタッチスクリーンに慣れてしまった後は、熱心な”ゲーマー”になるそうです。タッチスクリーンを使った研究は、通常は若い犬を使って行われるものですが、この研究に参加したのは全て老犬でした。老犬も新しい技術に親しみ、認知訓練に積極的に取り組むことができることを示したともいえます。論文の筆頭著者であるWallis氏は、「シニア犬でも、抽象的で困難を伴う作業ができた。非常に勇気づけられた」と語っています。
なお、参加した実験協力犬のうち、脱落したのはわずか6匹だけだったそうです。
“脳トレ”は良さそう。タッチスクリーンが必須かは「?」
犬が”ゲーマー”と言われるほど楽しんだのは嬉しいことですが、それだけで彼らの生活の質が向上したとは言えません。生理学的あるいは神経学的に測定されることが望ましいのですが、この研究では飼い主のフィードバックを分析することで測られています。
犬の飼い主の多くが、”数独”セッションの後の犬の疲労度合いに驚き、精神的訓練の重要性を認識するようになったと答えています。また、犬が週1回のセッションに熱心に参加していたことに驚き、一部の犬と飼い主は週に2回参加することもあったそうです。セッション参加後に、(知育オモチャなどの)他の”脳トレ”にチャレンジするようになるといった、副次的な効果も見られました。多くの飼い主は犬との関わりが強くなったと感じ、成果に誇りをもつようになったとしています。
タッチスクリーンを使った”脳トレ”は、どうやら犬に(そして飼い主に)、良い影響を与えるもののようだと言うことは言えそうです。ただ、「タッチスクリーンの介在」が必須であるかどうかは、わかっていません。飼い主がフード隠しなどの脳トレを工夫することでも、同じ効果が得られる可能性も十分にあります。
タブレット端末を使った犬の脳トレアプリは近い将来登場しそうですが、それまでは飼い主DIYの”脳トレ”で訓練を続けましょう。「できた!」という喜びと、飼い主さんからの褒め言葉は、愛犬の幸福度をアップすることは間違いないのですから。