7月11日に発表された研究によれば、犬に特異的に見出される細菌の菌株B. canis(犬ブルセラ菌)が、ヒトにインフルエンザのような症状を引き起こすことがあるとのことです。
これは幼児や免疫系が弱っている人、および妊娠を危険にさらす可能性があることが示されました。
ブルセラ症(Brucellosis)は,ブルセラ属菌(Brucella spp.)による人と動物の共通感染症で、人に感染するものとしてBrucella melitensis(自然宿主:山羊,羊),B. suis(豚),B. abortus(牛,水牛),B. canis(Brucella canis、犬ブルセラ菌)が知られています。
B. canisは、犬では流産など繁殖障害(犬ブルセラ症)を引き起こすもので、日本でも施設などでの集団感染が複数報告されています。人にも感染するものですが病原性は弱く、感染しにくく、感染しても発症しないか軽微であると言われます。
しかし、今回発表された研究では、B. canisは「ヒトでは発熱、悪寒、倦怠感、末梢リンパ節腫脹、および脾腫を引き起こす可能性」があるとのこと。研究者らは、感染犬(主に去勢前の犬)の尿または生殖器官と接触することにより、ヒトに病気が伝播すると考えています。
ただし、ヒトへの犬ブルセラ症への罹患は非常にまれであり、犬の生殖器官や尿に常に長時間接触する人(獣医、保護施設等で働く人)でなければ、感染のリスクは大きくはないそうです。同研究の主任研究員であるマーサ・ヘンセル氏は、「平均的な健康な成人は、非常に高濃度の細菌にさらされない限り、罹患することはないだろう」とコメントしています。
一方で、犬ブルセラ症は幼児や免疫系が弱った人、そして妊婦にとっては危険な人獣共通感染症です。
たとえば2012年には、ニューヨーク市の3歳の女の子が、ペットショップから購入した子犬を介してブルセラ症を発症しています。また、HIV患者の中にもブルセラ症を発症したケースがあり、それらはすべて飼い犬を介して感染したと診断されています。
犬ブルセラ症はまた、ヒトの妊娠にも悪影響を及ぼす可能性もあるとのことです。国際感染症学会(International Journal of Infectious Diseases)に発表された2015年の研究では、ブルセラ症によるこれらの胎児の問題には早期陣痛、早期娩出、さらには胎児死亡が含まれる可能性があることが示されました。
これらは人々に、犬との接触を禁ずるべきだというものではありません。動物との接触は、ブルセラ症に限らず他の病気の感染の原因にもなるものです。病原菌の広がりを防ぐ最善の方法は、手を洗うこと。そして過剰な接触をしないことです。
犬ブルセラ症を罹患した場合は、抗生物質による治療が可能です。この病気の存在とリスクに気づくこと、そして不安があれば早期に医療機関に相談し治療を開始することが望ましいと、研究者らは語っています。
本研究は2018年7月11日、Emerging Infectious Diseasesに掲載されました。
◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Martha E. HenselComments to Author , Maria Negron, and Angela M. Arenas-Gamboa, Brucellosis in Dogs and Public Health Risk, Emerging Infectious Diseases Volume 24, Number 8—August 2018, ISSN: 1080-6059
[2] Report warns of dog illness that can spread to owners – UPI.com
[3] 今岡浩一. (2009). 犬ブルセラ症の現状と課題. 日本獣医師会雑誌= Journal of the Japan Veterinary Medical Association, 62(1), 5-12.
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