考えてみればカリカリって、すごい食べものですよね。
栄養価もバランスよく配合されているし、長期間保存もできる。しかも、歯垢もつきにくいときています。まぁ、ワンコからの人気は今ひとつかもしれませんが、それでも飼い主さんにとってはお助けフードであることに変わりありません。
カリカリはどのように作られ、いまのような形になったのでしょうか。
カリカリの登場
1800年代、産業革命が起こり、人々の暮らしが豊かになってくると、ペットの飼育そのものが「ラグジュラリーなもの」と捉えられるようになります。ペットたちにも洗練を求める雰囲気が高まり、生肉などの野蛮な食べ物は避けられるようになってきます。
そんな中、若き電気技師の米国人、ジェームズ・スプラット(James Spratt)が仕事のために渡英します。目的は避雷針を売ることだったスプラットさんですが、到着した港で目にした光景から、新しいドッグフードのアイディアを思いつき、ドッグフード・ビジネスを開始することになるのです。港で目にしたのは、船員たちが与える”Ship’s biscuits(小麦粉に水と塩を混ぜて焼いたもの。乾パンのイメージがぴったりです)”を大喜びで食べる犬たち姿。この「乾パン」は、犬を惹きつけるらしく、しかも保存が簡単で消費期限も長いわけですから、こんなフードができたら売れるのではないかと考えた訳です。
こうして生み出されたスプラット氏のドッグ・ビスケットは、1860年にイギリスで販売を開始。当時のビスケットの原料は、穀物、ビートの根、野菜、そして乾燥させた食塩無添加のプレーリービーフのゼラチン(実際にはバイソンの肉)。1袋(50ポンド/約23㎏)の価格は、熟練した職人の日給に相当する高級品でしたが、富裕層はこぞって買い求めたそうです。ショードッグはみんな食べているという宣伝文句も功を奏したのでしょう。順調にビジネスを拡大し、1870年にはNYで販売を開始、1895年にはスプラット社をアメリカに設立し、NYタイムズに、「(ショードックには)欠かせないフード」と言及されたほどの成功を収めました。
さまざまなカリカリ
可愛らしい骨型ビスケットは、1907年に登場しました。アメリカの発明家エリス(Carleton Ellis)が考案したもので、自身の飼い犬にビスケットへの関心を持ってもらうために、骨型にしたのだといいます。この工夫が功を奏したのかという問題には、エリス氏本人も「わからない」としており、1936年発刊の『ポピュラー・サイエンス』誌上で、「犬が骨の形に騙されたのか、犬の好みに合わせようとする飼い主に「興味を持った」と騙すことへの義務感からそうしたのかは、いまだわからない」と語っています。
骨型ビスケットはベナー・ビスケット・カンパニー(The F.H. Benner Biscuit Company)から発売されます。その後、ベナー社はパピー用のフードや犬種ごとにサイズの異なるフードも発売しました(※)。1930年代には、食料雑貨店にドッグフードが並ぶようになります。馬肉が使用されはじめたのもその頃で、高まる需要に応えるために年50,000頭の馬が屠殺されました。
※ Milk-boneブランドとして現在でも有名。ブランドの歴史は、こちらの動画でも確認できます。
1950年代には、ラルソン・ピューリーナ・カンパニーが独自のドッグフード製造装置を開発します。空気を孕んだ原材料を高圧で焼き上げるというもので、ミルクに浸してもカリカリとした食感が続くフードへと進化します。この技術は「エクストルージョン」と呼ばれるもので、現在見られるカリカリの形はここで登場します。
日本におけるカリカリ
ちなみに我が国初のドッグフード、愛犬の栄養食「ビタワン」が登場したのは1959年。家畜飼料メーカーの社長、大津利氏によって開発、発売されました。犬たちの殆ど人の食事の残り物を食べていた時代に、「日本にもドッグフードの時代が必ず来る」と見た大津社長が商品開発に乗り出したのです。1960年には初代ビタワンを発売した後、粒型、ビスケット状と新商品を発表し続け、さらにアメリカからエクストルーダー(※ 押し出し造粒機)を輸入して、ペレット(小粒のかたまり)状のビタワンを発売しました。日本に、日本のカリカリが登場しました。
※ ドライフードと分類されるフードの大部分はエクストルーダで製造される。
現在のドッグフード市場の盛り上がりは、皆さんが目にしているとおり。2013年のペットフードの出荷総額は2681億円。同年のドッグフードの出荷量は351,725トンで、そのうちドライフードは251,217トンと70%超を占めています[5]。最近では、犬たちの健康やライフステージ、生体の特徴に配慮した商品やおいしさを追求した商品など、高価格カリカリも登場しています。
翻訳:吉川ろっこ
◼︎ 以下を参考に執筆しました。
[1] Who Made That Dog Biscuit? – The New York Times
[2] Kibble Me This: The History of Dog Food
[3] ビタワン ニッポン・ロングセラー考 – COMZINE by nttコムウェア
[4] 大島誠之介. (2012). フードの形態による分類. In 『ペットフード・ペットビジネスの動向』 (pp. 15–101). シーエムシー出版.
[5] 平成25年度ペットフード産業実態調査の結果
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