犬を飼ったらむち打ち74回の刑、イラン議会に法案提出ですと!?
AFP通信がこの驚くべきニュースを伝えたのは、去年の暮れのこと。イランでタカ派の議員たちが、犬を自宅で飼育することや公共の場で散歩させることを禁じる法案を議会に提出したというのです。たくさんの人がワンコさんと暮らす日本からみれば、とてもびっくりさせられるニュースですよね。
イランではなぜ、こんな法案が提出されたのでしょう? どうやら政治的な理由と宗教的な理由があるようです。
犬を飼うことは西洋文化への憧れの証なの?
イラン生まれのコラム二スト・翻訳者、エッテハディー・サイードレザさんによれば、犬を家族の一員として扱う最近の流行は、西洋化の負の影響だとして、政府が懸念しているのだそうです。政府が眉をひそめる一方で、犬を飼う流行は広まる一方なんだとか[1]。
ワンコはイスラム教では「ナジス(不浄なもの)」
そして、イランが国教に定めるイスラームの教えが、もう一つの大きな理由みたい。イスラームで犬は、「ナジス(不浄なもの)」で触ってはいけない動物の一つなんだそうです。「イスラム教信者にとって、犬に触れることは穢れを意味し、清めの行為が必要とされる[2]」のだとか。ちなみにもう一種は豚さんです。豚を食べてはいけない、という決まりは有名ですよね。
イスラム教のハディース(預言者ムハンマドの言行録)という書物によれば、特に犬の唾液は忌むべきものとされ、もし触ってしまったら7回洗浄しろという教えがあるほどです。「犬が食べたり飲んだりした椀は、七回洗ったあと砂でこすって清めてからでなければ、人間は使えない
[2]」など徹底しています。
このような扱いを受けるようになった原因は諸説あり、「これ!」というものはわかっていません。メジャーどころは、(1)キリスト教、イスラム教成立当時の犬はオオカミに近く、獰猛さから危険視されていたというものと、(2)野良犬が残飯やくず、ときには屍体までも食料とした、(3)狂犬病その他のさまざまな病気を運んできた、といったところでしょうか。
他にもムハンマドが猫派だった、なんてほんとかなあ?と首を傾げてしまう説など、探してみるといろいろでてきます。もしそれが本当なら、イスラム教圏のワンコさんもワンコ好きさんもガックリしちゃいそうですね。
ユダヤ教でもキリスト教でも待遇はイマイチ・・・
ところで、ユダヤ教でもキリスト教でも、ワンコさんの待遇はあまり良いものではなかった、というのはご存知でしょうか。たとえば、「豚に真珠、犬に聖書」という諺の元になったのは聖書にある記述なんです。マタイによる福音書にはこう書かれています。「神聖なものを犬に与えてはならず、また、真珠を豚に投げてはならない」
どうやらワンコさんたち、キリスト教の聖書でもあんまりいい待遇を受けていなかったみたい。三宗教で似たような扱いになっているのは、イスラム教、ユダヤ教およびキリスト教は「「姉妹宗教」と呼ばれ、その「奉ずる神は同一」[3]」であるからだと思われます。ユダヤ教をベースにキリスト教が派生し、キリスト教からイスラム教が生まれたのだそうです[3]。それでもキリスト教では、伝承されるなかで犬に対する否定的な見方は薄められ、次第に肯定的な物語も伝えられるようになったのだとか。よかったね! ワンコさん!
法案提出の背景には、富裕層を中心に犬をペットとして飼う人が増えていることに見られるような、人々の「意識の変化」があるようです。でも、イスラム教圏に根付いた「犬は不浄なもの」という考え方も根強いため、肯定派と反対派の摩擦が生じてしまっている模様。
信仰が絡むなかなか難しい問題ですが、決まりを重んじる人も、ワンコ好きさんも、そしてもちろんワンコさんも住みやすい環境が整っていけば良いなぁなどと、しみじみと思います。
[1] エッテハディー・サイードレザ 『犬をペットにするのは忌むべき西洋化 滅亡する動物を救おう』日経ビジネスオンライン, 2014/3/13
[2] スタンレー・コレン(2000)『デキのいい犬、わるい犬』文春文庫
[3] 小澤克彦(岐阜大学・名誉教授)『西洋と中東の宗教的葛藤ー「ユダヤ教」「キリスト教」「イスラーム」三つの宗教の関係』
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