「男と女、どちらが賢いか?」という疑問を犬の世界に投げ込むと、どういう答えが出て来るのでしょう?2011年に発表された研究[1]は、「少なくとも1つの課題ではメスの方が上手く解決できる」ことを示しています。
メスの方が物事をよく理解する!?
研究を行なったのはウィーン大学の認知生物学者、ミュラー(Corsin Müller)博士らの研究チーム。50匹の犬を使って、単純な認知課題(物の永続性課題)で「犬の物事の理解度」を確認しようとしました。50匹の内訳は25匹のオスと25匹のメスで、全て一般の家庭犬から選ばれました。
物の永続性(object permanence)とは、「物を見ることができなくても、その物は存在していること」を指し、人間だと生後7-9ヶ月に達した乳児はこの概念を理解できると言われています。研究者らはこのテーマでよく使われる課題を犬にも使い、「目の前で自然の摂理に反する起こり得ないことが起こったら、それが理解できるか」を確認しようとしたのです。人間の場合、起こり得ないことを目にした小さい子供は、そのものをより長い時間見ることがわかっています。犬についてもこれを適用し、より長く見るか、理解をしているのかを探求しました。
用意された課題は、(1)小さなボールを隠し、再び見せる、(2)大きなボールを隠し、再び見せる、(3)大きなボールを隠し小さなボールを見せる、(4)小さなボールを隠し大きなボールを見せる、の4つ。(1)と(2)は自然の法則に則ったもの、(3)と(4)は不自然かつ予測ができないものでした。
結果、犬についても”予測ができない課題”を長く凝視することがわかりました。研究者らはデータをさらに検証し、そこにオスとメスの違いがあることを発見しました。オスはすべての課題について凝視する時間が同じであった一方、メスは(3)(4)の設定だとより長く見続けることがわかったのです。メスは平均で30秒見続けており、(1)や(2)の課題を見つメル10秒という時間を大きく上回る結果となりました。
犬に「男脳」「女脳」はあるのか?
ミュラー博士らはこの結果を「哺乳類全般に、認知過程での性差が存在する可能性があると示唆するもの」だと述べています。さらに、動物の認知におけるデータ分析や解釈の際には、可能な限り性の影響をみることに意義があるとも述べています。
認知に性差があるというと、脳に違いがあるという「男脳」「女脳」の議論が思い起こされます。進化的圧力が男性と女性の脳を微妙にシフトさせたとか、出産のために脳に相違が生じたとかの可能性から、脳には性差があるとする見方が喧伝されてきましたが、これをはっきり示す結果は出ていません[2]。一方で、2015年に発表された研究からは脳の性差は実際には存在しないことが示されています[3]。
とはいえ、この研究ではオスメス間には差があるという結果が出ています。これについてミュラー博士は、「性ホルモンが脳に影響した可能性が高い」と述べおり、進化的圧力や出産の影響で脳が変化したというのは犬については考えづらいとしています。
犬についても、女のコがより活躍できる場もあれば、男のコの方が強みがある場もあるのかもしれません。しかし、犬種による違いに比べれば、男女の差など微々たるもの。こと知性においては、「男女の違いはない」と考えて差し支えはなさそうです。
◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Müller, C. A., Mayer, C., Dörrenberg, S., Huber, L., & Range, F. (2011). Female but not male dogs respond to a size constancy violation. Biology letters, rsbl20110287.
[2] 第5回 「男脳」「女脳」のウソはなぜ、どのように拡散するのか | ナショナルジオグラフィック日本版サイト
[3] 「男性脳」「女性脳」は存在しない?:英国の研究結果|WIRED.jp sMRIに関するメタ研究に関する記事。海馬と脳梁の大きさに性差がないこと、言語処理の方法に大きな違いが見られないことが示されている
[4] Are Female Dogs More Intelligent Than Males?
Featured image credit Kisialiou Yury / Shutterstock
ヨークシャー・テリアの問題解決〜機敏で賢いおチビ犬は、大型犬の背中を借りた | the WOOF イヌメディア
ああ、ヨークシャー・テリア。あなたはやっぱりテリアなのね…。 思わずそんな呟きが漏れてしまう、ちゃっかりヨーキーさんの動画です。 飼い主さんの待つプールサイドの2匹の犬。