飛行機の旅は、人間にとってもストレスですが、犬にとってはかなりの苦痛です。今年3月、ユナイテッド航空で起きた一連の事件・事故は、愛犬家を震撼させました。
ペットと飛行機(空港)は相性が悪い
「犬を連れて旅行に行きたい」というのは、多くの愛犬家の夢でもあり希望でもあります。最近ではペットを歓迎するホテルや施設も増え、公共交通機関も輸送に前向きなことから、愛犬連れの旅行は難しいことではなくなっています。
飛行機も例外ではありません。日本であれば国内線では、手荷物として預けることと貨物として輸送することが可能です。航空機の種類や持ち込み可能な季節、ケージのサイズなどに規定はありますが、犬と同じ飛行機で旅をすることは不可能ではありません(機内で一緒に過ごすことはできないとしても)。
とはいえ、ペットと飛行機は相性がいいとはいえません。毎年数百万が空の旅をするアメリカでは、負傷、死亡、迷子などの事件・事故が発生しています(※1&2)。
2015年から17年にかけての動物輸送数と死亡の数は、以下のとおりです[2]。
- ユナイテッド: 輸送数344,483 /死亡41
- デルタ: 輸送数235,179 /死亡18
- アメリカン: 輸送数210,216 /死亡9
- スカイウエスト: 輸送数123,612 /死亡3
- アラスカ: 輸送数330,911 /死亡7
空の旅での犬の死亡事故は、センセーショナルに扱われるので「酷い!」と印象が先行しますが、輸送の全体数に比べればそう多いものではありません。もちろん、死亡事故の中には航空会社の不当な扱いによるものもありますが、どんなに手厚く扱われても具合が悪くなったり死亡したりする犬もいるのです。それは、ペットと飛行機は相性が悪く、飛行機旅はペットに大きな負担をかけるからです。
※1 ペット関連事故は米国運輸省(DOT)に報告することが義務付けられています。かつては大手15社のみが報告義務を負っていましたが、現在は60席を超える航空機を飛ばす計画のある航空会社の全てに報告義務が課されています。
※2 日本では、ANAが「過去の死亡事象について」を発表しています[3]。これによると過去5年の死亡事象は8件(犬7、猫1)となっています。ペットの輸送に関する統計は取られておらず、事故の数はわかっていません。ニュースになったところだと、2016年9月には、日本航空機からペットのボーダーコリーが逃走、2017年に10月には同じく日本航空機からプードルが逃走し滑走路が閉鎖される事案が発生しています。
なぜ犬の飛行機旅は大変なのか
まず、フライト中の犬たちに襲いかかるストレスが、飛行機旅を大変なものにする一つの大きな理由です。犬は、飼い主と引き離されて慣れない場所に閉じ込められ、見知らぬ人や大きな音に晒されます。温度や湿度は不快ですし、気圧も大きく変化します。環境のストレスにより、変化が苦手な犬なら体調を崩してしまうこともあるでしょう。フライトの時間中、ケージを引っかき続けたり吠え続けて体力を消耗する犬がいてもおかしくありません。
また、天候や気温の急激な変化も、空の旅を困難なものにします。もちろん空調により温度や湿度は管理されていますが、気温の急激な上昇や下降に完全に対処することはできません。
加えて飛行機に乗せる前の手荷物(貨物)置き場が温度湿度管理がなされているとは限らないことにも注意が必要です。犬が暑さに弱いことを知らない担当者だと、外気温だけで「このなら大丈夫」と判断し、危険が見過ごされてしまうこともないとはいえません。
一方で、受け入れ側の航空会社(の担当者)は動物の専門家ではありません。ペット輸送に関わる全ての人が動物を扱う訓練を受けていることが理想ではありますが、限られたリソースで経営を行う航空会社に獣医師のような行動を求めるのは無理というものでしょう。
すなわち、空の旅はペットにとって心身の健康が脅かされるリスクが高いのが現状です。機内で一緒に過ごせる「ワンワンフライト」などの企画ものを除いては、あまりオススメはできません。
どうしたら良いのか?
そうはいっても、どうしても飛行機で移動しなければならないペットもいますよね。そんなとき私たちは、どんなことに気をつけて準備をしなければならないのでしょうか?
- 航空会社の規定を確認する:自分の愛犬が規定に合致しているか、どんなリスクがあるのかを事前にチェックしましょう
- 航空会社のスタッフやクルーに「うちの犬が乗っています」とアピールする:意味はないかもしれないけれど、もしかしたら気を配ってくれる人がいるかもしれません
- 夏季および冬季のフライトは避ける:できるだけ春か秋を選びましょう
- 繁忙期は避ける、できれば週半ばを選ぶ:忙しい時期はスタッフの目配りが難しくなります
- 直行便を利用する:乗り換えは遅れの可能性を高め、間違った目的地に送られる事故の可能性が高くなります
- 適切なクレートの準備:航空会社の規定に合致したクレートを準備し、事前のクレートトレーニングを徹底しましょう。クレートに、愛犬が慣れ親しんだオモチャや衣服を入れ、住所などの基本情報をつける(あるいは直接書く)ことを忘れずに
- 体温調節の工夫を:潜り込むことが出来る毛布を敷いておきましょう
- 犬の健康に留意する:非常に若い犬猫や老犬・老猫は搭乗を避けましょう。また、全てのペットは獣医師の健康診断とアドバイスを受けること
- 目的地の空港近くの動物病院を確認しておくこと:緊急時用に診療記録を持参すること(かかりつけ獣医師に相談しましょう)
- ペットの首輪にIDをつけること:IDタグに、到着する場所での滞在先や連絡先(電話番号)をつけておきましょう
残念ながら、動物を飛行機輸送する場合の安全の保証はどこからも得られません。一緒に旅行をする場合は、飛行機に乗せない旅程を組む方が安心です。また、旅先で動物病院を探すより、地元で信頼できるペットシッターやホテルを探す方がより簡単だし安全です。
◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Dog dies after United Airlines flight attendant forces it into overhead bin | The Independent
[2] Why is it so hard to keep pets safe on a plane? | MNN – Mother Nature Network
[3] 過去の死亡事象について|ANA | Service & Info | ANA
[4] Tips for airline cargo hold pet travel -dog and cat safety
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