こんにちは!the WOOF専属ライターでトイプードル8歳オスのライチです。
みんな、ノーズワークって知ってる?ライチはこのまえ挑戦しちゃいましたの。「すごく上手」「よくできてる!」ってほめられたけれど実はあんまりよくわからなかったわけ。
「ノーズワークって、オヤツ探すやつじゃなかったっけ?」とか「クラスに参加した方がいいの?」とか、気になることがたくさんあったから、先生してくれた藤田りか子さんに根掘り葉掘り聞いてきちゃいました!
[icon name=”comments” class=”” unprefixed_class=””] お話を伺った方
藤田 りか子
スウェーデン、ヴェルムランド県にて、カーリー・コーテッド・レトリーバーのラッコ、ラブラドール・レトリーバーのアシカと暮らす。オレゴン州立大学を経てスウェーデン農業科学大学の野生動物管理学卒業。生物学修士(M.sc)、動物ライター歴21年。主な著書に「最新世界の犬種大図鑑(誠文堂新光社)」がある。今夢中のドッグスポーツはノーズワークとレトリーバーのフィールド・トライアル競技
ライチ
りか子先生こんにちは!早速ですが、ノーズワークの良さってなんですか?
藤田さん
誰でもできるってことですね。高価な道具も必要なければ遠出をする必要もないし、長い時間も必要ない。犬であれば、鼻さえついていればできちゃいます。
ライチ
ほぉ
藤田さん
家でも外でもできるし、狭いとこでも十分に楽しめます。普通の人がふだんの環境でできて、犬にも人にもいいことたくさん!そんなこんなをお伝えしたいので、今日はじっくりお話させていただきますよ。
ライチ
よろしくお願いします!
ノーズワークってなぁに?
ライチ
ではまずは基本から。ノーズワークってなんですか?
藤田さん
ひとことでいえば、麻薬探知犬などのプロの探知犬の仕事を模倣したドッグスポーツです。特定のニオイ(ターゲット臭)を覚え、それが隠されているところを探知するというのが基本です。
ライチ
ライチ、オヤツを探すんだと思ってましたからビックリしました。
藤田さん
あ、良いところに触れてくれたね。
ドッグスポーツとしてのノーズワーク(NW)は、あくまでも決められたニオイの探知です。食べ物など犬が本能的に探したいニオイではなく、人が決めたニオイを探知するものなんですよ。ちょっと歴史を振り返ってみましょうか。
ノーズワークの発案者は、アメリカで活躍していた3人のトレーナー、Ron Gaunt、Amy Herot、Jill-Marie O’Brien。彼らはそれぞれプロの探知犬を訓練していたんだけど、その訓練の中で「嗅覚を使った活動が、犬に精神面でも肉体面でも良い影響を与えている」ってことに気がついたのね。
そこで彼らはこの”嗅覚で探す”という活動を、家庭犬にも教えることにしたわけ。初期のころ、2007年のクラスでは、モノ(オモチャやオヤツ)など探す遊びとして教えていたものが、どんどんチャレンジングなものになり洗練されていき、「ある一定のルールのもとで、ターゲット臭が隠されている場所を示すスポーツ」にまとまっていったのだそう。
だから、スポーツとして考えると”オヤツ探し”というのはちょっと違うんだけど、広い意味で”探索アクティビティ”と考えるならオモチャ探しもオヤツ探しも含まれる感じかな。
- 特定のエリアにターゲット臭が隠されているが、ハンドラーもその場所は知らされない
- 犬は嗅覚のみに頼ってその場所を探しあてる
- ハンドラーは犬のボディランゲージを読んで見つけたかどうかを判断する
- 手をあげてジャッジに「見つけました」と告げる
ライチ
アクテビティかスポーツか、決めてからはじめなきゃダメですか?
藤田さん
ダメってことはないです。遊びでオヤツ探しから入って、難易度を上げていくというのも一つの方法です。
でもね、少しでも競技会に興味があるなら、最初からスポーツとして一定のルールに基づいて取り組んだ方が良いと思います。競技会ではいくつかの”NG行動”があるのですが、遊びの中ではこれらを覚えられません。一度悪い癖がついてしまうと、修正するのはとても大変。はじめから”NG行動”を意識して練習した方が、犬も人も楽できます。
”庶民と庶民の犬のためのスポーツ”
ライチ
さっき「ノーズワークは誰でもできる」ってお話ありましたよね。
藤田さん
できますよ。嗅覚を完全に失った犬でなければ、大型犬でも小型犬でも、パピーでもシニアでも、目や耳が不自由でもできます。犬種も問いません。飛んだり跳ねたりはしないので、身体が少しくらい不自由でも大丈夫です。事前に別の訓練を受けた経験があるかないかも問われません。
ライチ
ライチのお友達には「犬が苦手」ってコがいます。そういうコは無理ですよね。
藤田さん
大丈夫!競技においては「エリアに他の犬を入れない」というルールがあり、犬は1匹のみで競技します。別の場所や車の中で待機していて、自分の番がきたら練習したり競技にのぞんだりするのが一般的です。だから、他の犬が苦手な犬や興奮しがちな犬でも大丈夫。行動に問題がありとされる犬のセラピーとしても使われることもあるんですよ。
ライチ
お金はたくさんかかりますか?おかあさんが、「お高いと無理だわぁ」って言っていました。
藤田さん
ドッグスポーツの中ではかなり安い部類に入ります。もちろんどれだけクラスに参加するかにもよりますが。
ノーズワークの練習は、どこででもできます。家でも外でも大丈夫。都会でも問題なし。遠征の必要もなし。練習のために大金を積む必要はなし。だから”庶民と庶民の犬のためのスポーツ”なんて呼ばれています。
ライチ
貴族の犬じゃなくてもできるのねぇ。
藤田さん
そう。庶民には嬉しいわよねぇ。
準備するものもあんまりないの。ターゲット臭(エッセンシャルオイルやアロマ芳香蒸留水、綿棒、容器)と報酬(オヤツやオモチャ)くらい。私はエッセンシャルオイルを含ませた綿棒を誤食させないように小さな容器に入れたり、家具の滑り止めに香りを含ませて貼り付けたりするんだけど、エッセンシャルオイルを除いてはどれも百均で買ったものを使っています。初心者用クラスでは、オイルや消耗品がまとめられたスターターキットが用意されているところもあります。
ライチ
クラスには参加した方が良いですか?
藤田さん
参加をおすすめします!「何をしたら良いか」「しない方が良い行動は何か」などの知識はネットなどの情報でも学ぶことはできますが、個別の犬の特徴をふまえたアドバイスはクラスなどでしか得られません。つまずいてしまったときは、それを乗り越え次のステップに進むためのアドバイスをすることもできます。
褒めるタイミング一つで、犬のリアクションは変わってきます。ターゲット臭までの距離や高さがちょっと変わるだけで、難易度は大きく変わります。トレーナーは犬の様子や飼い主さんの様子をみながら、「次はこのやり方を試してみましょう」「報酬はオヤツではなくコングを使いましょう」など調整を加えていくので、悩む時間も停滞の時間も短くて済みます。
他の犬や他の飼い主の動きをみたり、他の飼い主へのアドバイスを聞いたりするのも、学びが多いものですよ。仲間で集まって練習会を開くのも楽しいよねぇ。
ノーズワーク〜2つの”すべからず”
ライチ
やっちゃいけないことってありますか?
藤田さん
ひとつは、先ほどお話した「エリアには他の犬を入れない」ということ。もうひとつは、間違ったことをしても決して罰しないということです。
逆に褒めるのはオッケーで、ターゲット臭をみつけたら競技会でもオヤツやオモチャで褒めて良し!ですよ。
ライチ
ライチ、練習のときたくさんオヤツもらえて嬉しかったです!
藤田さん
たくさん練習してターゲット臭を覚えたら、その臭いがするだけで「美味しい!楽しい!」ってなりますよ。
ライチ
ライチはまだそこまで到達してなくって、ターゲット臭に向かうよりオヤツが気になっちゃう。いまは、二つの容器を並べてターゲット臭がする方をクンクンできたらご褒美もらうってやつを練習してます。
藤田さん
まだ「ターゲット臭=美味しい!楽しい!」という連想ができていないんだね。
ライチ
ライチもおかあさんも、なんか自信もてない感じです。「ちゃんとできてるかなぁ」ってお互い顔を見合わせちゃう感じで…。
藤田さん
大丈夫。自信を持って!とにかくタイミングが大事だから、ターゲット臭が入った容器をクンクンできたら、すぐにご褒美しっかりご褒美っていうのが大事。おかあさんに言っておきますね。
あと、おかあさんのボディランゲージの読みがまだまだなんだと思う。ライチくんが「これだ!」って発してるメッセージを、受け取ることができていないんだね。ターゲット臭を見つけたときのボディランゲージは、犬それぞれに違うもの。ハンドラーはそれを読み取れるように自らを訓練しないといけないのです。
ドッグスポーツ全般にいえることですが、競技に参加するのは犬だけではありません。人間の側もスキルを磨かねばならないの。ノーズワークでは、犬は探知のスキルを磨き、ハンドラーは犬を読むスキルを磨くことが大事です。
”犬を読む”ってところ、ノーズワークの最大の面白さであり醍醐味だって私は思います。通じ合った瞬間は、最高に嬉しいもんね。ぜひみんなに楽しんで欲しいな。
集中力、自信、スタミナが培われる
ライチ
ノーズワークの良さとか面白さって、他にどんなところにあると思います?
藤田さん
犬が自然にもっている「嗅覚で探したい」「共に仕事をしたい」という欲求を満たせるところかな。
家庭犬は普段の生活では、人間の1万倍以上に優れていると言われる嗅覚を活かして飼い主と何かをなしとげる局面があまりないんです。ノーズワークでは犬がニオイを嗅ぐことに集中し能力を発揮する機会をもてるだけでなく、ハンドラーと協働ができるのです。犬にとっては嬉しいし、達成感も得られます。
臭いによる刺激は脳の活動にも良い影響を与えますし、退屈や不安を軽減し犬をリラックスさせることすらあります。臭い刺激に探索が加わるノーズワークでは、ニオイのみに集中することが求められるため、自信やスタミナ、集中力がが培われます。
ライチ
ライチはオヤツを探すのにも時間がかかっちゃう犬だから、「犬としてイマイチ」なんて言われることもあります。
藤田さん
練習の仕方で大きく変わりますよ。普段ポケェ〜っとしてる犬がノーズワークでは意外にすごくて、バンバン探し当てちゃうってケース、結構ありますから。
世界に広がるノーズワークの世界
ライチ
あ、そうだ。りか子先生はスウェーデンにお住まいですけれど、スウェーデンワンコもノーズワークしますか?
藤田さん
とっても人気がありますよ。私自身、2016年から本格的にトレーニングをはじめ、2017年からはスウェーデンの競技会に参加しています。愛犬アシカ(ラブラドール・レトリバー)はこの前の競技会で3枚目のディプロマをいただき、NW3に昇格したんですよ〜(ウキウキ)。
ライチ
エヌ・ダブリュ・スリーってなんですか?
藤田さん
競技会は、レベルごとに行われます。最初がNW1(Nose Work 1)で、NW2、NW3とレベルアップしていきます。昇格には100点満点を3回、つまりディプロマを3枚もらわなければなりません。
ライチ
アシカ、競技会でたくさん頑張ったんですね。ふむふむ、Facebookによればスウェーデン・ノーズワーク・チャンピオンシップ2020の出場資格もある…と。将来はチャンピオンになっちゃうかもしれませんね〜!
藤田さん
うふふ〜(ウキウキ)。
ライチ
他のお国でも人気があるって聞きました。
藤田さん
アメリカはもちろん、イギリス、カナダ、オーストラリアは特に盛んで、団体も設立されています。
どの国でもどの団体でも基本コンセプトは同じだけれど、レベルの設定や競技のルールなどは独自に定められています。使用するターゲット臭もそれぞれ違っていて、たとえばNW1の場合アメリカではバーチが使われますが、スウェーデンやノルウェーではユーカリが使われます。
ライチ
え〜っ。ライチ、ラベンダーからはじめちゃいました。どうしよう…。
藤田さん
ターゲット臭のチョイスは、それほど重要ではないから大丈夫。一つのニオイを覚えられれば、次はすぐに覚えられます。犬は7つか8つのニオイを覚えられると言われていますから、一つ目をしっかり覚えて次に進めば問題ありませんよ。
むしろ注意したいのはターゲット臭の取り扱いです。ニオイがあちこち移らないようにきっちり密閉し冷蔵庫に入れるくらいの注意が必要です。
ライチ
いろんなところにニオイがついてたら、全部正解ってなってたくさんオヤツもらえるようになりますか?
藤田さん
なりませんね。おかあさんがそこににおいをつけたのを自覚してないからね。
ライチ
ワンコは正解してるのに、おかあさんがわかっていない…と。うーむ、ちゃんと管理してもらわなければ…。
あ、最後に、日本の状況を教えてください!
藤田さん
少しずつではありますが、人気は高まってきています。続けるコも増えていますよ。私も年に何回か日本で講習会を開催しているのですが、参加犬の中には”「競技会に出ても大丈夫」レベルのコもちらほら出てきています。
ノーズワークは個人的にも大好きなドッグスポーツ。日本でも広まって欲しいと思っています。まずは多くの人にトライしていただきたいし、続けてほしい。競技会など目標になるものができると、もっともっと盛り上がってくるのかも!
お散歩のときのクンクンには自信アリですが、訓練なんて受けたことのなかったライチ。ノーズワークのレッスンは緊張しちゃったけれど、クンクンもちゃんとできました。誰でもできるって、ホントだと思います。
最後にりか子先生からメッセージ。「練習前後はたくさんお水を飲みましょう」だって。脳細胞や神経細胞を機能させるには水分補給がたいせつなの。さぁみんな、お水を飲んでレッツクンクンよ〜!
6月に清里でノーズワーク合宿を行います!
6月15日(土)〜16日(日)の1泊2日。個別指導、練習競技会のほか座学あり、ゲームありの盛りだくさんスケジュール。BBQ懇親会もあり、イヌもヒトもたっぷり楽しんでいただけます。
詳細はこちらをご確認ください。ご不明点は主催者(Scent Line)までどうぞ。
〈取材・文=釜口祥子(@kero269)〉
トップのお写真は、ライチとおんなじクラスに参加していたチワワの塚元カウさん。クンクン中の表情がイキイキしてて、すごくイイよね!