”犬の自殺橋”オーバートンブリッジから考える「そもそも犬は自殺をするのか?」という問題

生態・行動
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はやいもので、もう11月。どんどん気ぜわしくなっている今日この頃、皆さんお元気でお過ごしでしょうか。

今日は、少しどんよりとした日に読んでいただきたい記事をばひとつ。肌寒い日は背中にゾゾゾ感が走る「犬の自殺橋」のお話です。きゃ〜〜〜。

「犬の自殺」で一躍有名になったオーバートンとは

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121124 Overtoun House, Dunbartonshire” by dave souzaOwn work. Licensed under CC BY-SA 3.0 via Wikimedia Commons.

英国はスコットランドのミルトン(Milton, Scotland)にあるオーバートンブリッジ(Overtoun)をご存知でしょうか。

19世紀に建てられたカントリーハウス(Overtoun House)への架け橋であるオーバートンブリッジ。一見すると古き良き田舎の橋といった風情ですが、なんとここは多くの犬が飛び降り自殺をする橋として有名なのです。日本でも2010年ごろからWeb上で話題となっているようですから、「そんな橋があるらしいよね」とご記憶の方も少なからずいらっしゃると思います。

この橋から飛び降りた犬は、おおよそ600頭。50頭近くが命を落としているといいます。橋から飛び降りる前になんの前触れもないといいますから、飼い主さんにとっては悪夢以外のなにものでもないでしょう。英国ではリードをつけての散歩は義務化されていないことも、飛び降り件数の多さにつながっているかもしれません。

近頃は、橋の近くに飼い主の注意を促す立て札も設置されているようです。しかし同様の事件は、後を絶ちません。

一体なぜ?不思議現象の原因は特定されていない

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© Elena Grigorieva / Shutterstock

橋から続くオーバートン・ハウスそのものが呪われているという説もあります。領主夫人であったレディ・オーバートンは、1908年に夫を喪って以来、正気を保つことができなくなったといいます。1994年10月には、2週齢の赤ん坊が橋から投げ捨てられ、死亡する事件が発生しています。赤ん坊が悪魔に取り憑かれたと信じた父親の凶行でした。

そんな「呪われたオーバートン」ですから、エピソードにも事欠きません。オーバートン・ハウスの窓には、女性の白い影が映る(”オーバートンの白い女”)と言われています。この場所で「何かを感じた」という人もいます。グラスゴーで宗教と哲学を教えているポール・オーウェンスは「2年前あそこに経ってた時に指で強く押される様な感覚がしたんです。何か、もしくは誰かがこの橋から私を押し倒す様な感覚です。あの犬達と同じ様にね」と語っています。

こうした不思議な現象に犬が反応したのではないかという人もいます。もちろん、ただの犬の好奇心からきた事故ではないかという人もいます。

より科学的根拠からこの不可解な現象を説明するのであれば、匂いを原因だとする説が有力ですこの地域に生息するミンクの匂いが架橋下から漂ってきて、その匂いを追うべく犬達が橋から飛び降りるのではないかという説もあります。狩猟犬や牧羊犬のような嗅覚が鋭い犬に飛び降りが多く、マズルが短い犬たちに少ないことも、この説を支持する一つの要因になっているようです。

もう一つの説は、錯覚が原因だというものです。飛び降りる事故の特徴の一つに、飛び降りる場所が同じというものがあります。犬にとってこの「場所」が、錯覚を起こしやすいのではないかという説明です。犬は色を認知する能力が発達しておらず、視覚による遠近感を掴むことが得意ではない。それゆえ、犬たちは地面に降り立つことができるように錯覚してしまい、飛び降りてしまうというものです。

犬は自殺をするのか?

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© Sevendeman / Shutterstock

2014年にこの橋で命を落とした3歳のスプリンガー・スパニエル、キャシーの飼い主であったトレバロウさん(Alice Trevorrow)は、Mail紙の取材に対し、こう語っています。「キャシーがうめき声をあげていたのを昨日の事の様に今でも鮮明に覚えています。キャシーがそんな事を自らする理由が見つかりません、きっとここで何か不可解な事があったんだと思います。だって彼女のキャラクターを考えるとそんな事起こりえる筈がないんです」

私たちに癒しを与えてくれる犬たち。彼らは自殺をするのでしょうか?自分で死を選ぶことがあるのでしょうか?

自殺は人間しかしない、と語るのは、マンチェスター大学のウィルソン氏(Duncan Wilson)。「犬は死という概念をもたないし、動物は自らを保全する本能によって突き動かされるもの」としています[3]。脳の働きから抽象的概念が像を結ぶことは困難であるというのが通説であり、ゆえに「死」「自死」は動物たちには存在しない=自殺はしない、ということです。

一方、昆虫については、家族や仲間を捕食者の脅威から守るために「自殺」をする現象が確認されています。2011年に発表された”Myths about Suicide“によれば、エンドウヒゲナガアブラムシ(pea aphids)は天敵であるテントウムシから仲間を守るために自らの体を吹っ飛ばして、テントウムシと傷を負わせる(ときに死亡することもある)といいます。

ただ、深い悲しみや寂しさゆえに、誤って命を落としてしまうことは、あるのかもしれません。深い絆で結ばれていた飼い主を失ったために、普段の習慣に変化させ、死に至る行動をとってしまう、というようなことです。たとえば、飼い主からしか食べ物をもらわかなった犬は、食事を拒否するといったことは十分にあり得ますし、狭い場所に閉じ込められっぱなしであれば、正常な行動をする感覚を失ってもおかしくはありません。

そうだとしても橋を訪れる犬のすべてが、普段の習慣を見失うほどの深い悲しみの最中にあったとは考え難く、そうであれば何らかの刺激があった、あるいは、(危険を察知させるような)なんらかの刺激がなかった、と考えたほうが自然なのではないかと思います。


科学的にせよ非科学的にせよ、はっきりとした原因は未だ不明であるとのこと。犬を連れて行かない、というのが解決策に思えますが、どうしても橋を渡らなければならないのであれば、不幸を未然に防ぐための対策を万全にしておいたほうが良さそうです。

 
翻訳協力:Yoko Suto-Murphy


◼︎以下の記事を参考に執筆しました

[1] Scotland: 600 dogs mysteriously jump off haunted suicide Overtoun bridge
[2] Why have more than 50 dogs leapt to their deaths from Overtoun bridge? | Daily Mail Online
[3] Do animals commit suicide? | Can animals get depressed?
[4] Do animals commit suicide? — Hopes&Fears — flow “Question”

 
Featured image from Image – Overtoun bridge.jpg – Creepypasta Wiki

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