ペットは老人、病気、障害者に強力な治療法を提供することができます。しかし一方で、精神的な苦しみをもたらすこともあるようです。
専門誌に掲載された研究では、慢性の病気や末期のペットを介護する飼い主は、ストレスや不安、うつ症状などを経験し、生活の質の低下にもつながる可能性があることが示されました。
飼い主が経験する「介護負担感」
介護負担感(Caring burden)とは、「認知症高齢者の介護を在宅で継続していく際に派生する慢性的な疲労やうつ・怒りなどの精神的苦痛など[2]」のことで、最近では広く介護者の心の状態を表す用語として研究などの分野で使われています。ケント州立大学のSpitznagel准教授(Mary Beth Spitznagel)は、飼い主も病気ペットのケアをすることで、この介護負担感を経験する可能性があることを明らかにしました。
研究では、ペット所有者238人(ほとんどが白人女性。平均年齢48歳)を対象に、心理状態を評価するために質問票及び検査尺度を用いた調査が行われました。対象者のペットは犬が174匹で残りは猫、慢性疾患または終末期にあるペットは119匹でした。
分析の結果、慢性または終末期のペットの飼い主は、より大きな負担感、ストレス及びうつ・不安の症状を示し、生活の質の低下を示していることがわかりました。論文では、「病気ペットの飼い主は、心理社会的機能の低下とリンクする介護負担感を示している」として、介護のストレスにより人や社会との交流がうまくできなくなる可能性をも示唆しています。
知識とスキルの提供が支えになることも
この結果についてSpitznagel准教授は、「ペットの飼い主はペットを家族の一部とみなしているので、ペット介護者の感情的な反応は、病気の家族の世話をしている人々によく見られる反応と本質的に似ているようです」と語っています[3]。
こうした心の状態は、獣医師やそのほかの動物のケアを行う専門家も経験する可能性があると示唆していますが、今回の分析の対象にはなっていません。
介護経験者や、彼らを間近に見る獣医師にとっては、この結果は驚くものではないでしょう。「ペットは家族」だからこそ、ペットと人間の間の問題も複雑なものになりつつあるのかもしれません。今後はより一層、ペット介護者やペットを失った飼い主の心のケアが重要になることが考えられます。
ペット介護者に、人間の介護者へのアドバイス応用することを推奨するのは、ピッツバーグ大学のSchulz教授です。病気ペットを適切にケアする知識とスキルの提供や、家族や友人または専門家による心のケアの提供が、ペット介護者を精神崩壊から守ることにつながると述べ、獣医師ら専門家が重要な役割を果たすとしています[4]。
Spitznagel准教授「ペットの介護が認知症の親や脳卒中を経た配偶者の介護と同等だと言うつもりはありません。しかし、慢性疾患や終末期のペットの介護者がストレス下にあることは明らかです」と述べています。
終生飼育が当たり前となる社会においては、病気のペットをケアは全ての飼い主が経験しなければならないものです。ペットが健康なうちから、信頼できる獣医師や看護師を見つけておくことは、私たちの心を守るためにも必要なことなのかもしれません。
◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Spitznagel, M. B., Jacobson, D. M., Cox, M. D., & Carlson, M. D. (2017). Caregiver burden in owners of a sick companion animal: a cross-sectional observational study. The Veterinary record.
[2] 杉浦圭子, 伊藤美樹子, & 三上洋. (2007). 家族介護者における在宅認知症高齢者の問題行動由来の介護負担の特性. 日本老年医学会雑誌, 44(6), 717-725.
[3] Caring for a Sick Pet Can Really Drain You
[4] When caring for a sick pet becomes burdensome – CNN
Featured image credit Andy Omvik / unsplash