犬の問題行動とは何か?

しつけ・トレーニング
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犬の”問題行動”は、犬と人間の関係に大きな影響を及ぼします。問題行動は犬と人間の関係の悪化や、シェルターへの引き渡し、飼育放棄や安楽死などの大きなリスク要因なのです。

犬を飼っている家庭では、少なくとも1つは犬の行動上の問題を指摘することでしょう。「吠える」「飛びつく」「威嚇する」などは、人間にとっては困った行動です。

行動とは何か

行動とは、人間を含む動物が行うあらゆることです。「行為」が意思をもってする行いを指すのに対し、「行動」は条件反射などの無意識の活動も含む言葉として用いられます。

動物の行動は、遺伝、経験と学習、環境、および生理学により影響されます。犬では気質が遺伝することが報告されており、たとえば臆病な気質を親から引き継ぐこともあります。しかし、幼いうちに母犬から引き離され全く別の環境で育てられれば、その環境からの影響や学習により臆病な行動が少なくなることもあります。

ホルモンなどの神経伝達物質も行動に影響します。その犬が持つ体質だということもありますが、なんらかの病気によりホルモン分泌に影響が出ることもあります。

ここで覚えておきたいのは、「行動は様々な要因により影響を受ける」ということです。たとえば「飼い主の手に噛み付く」という問題は、飼い主に抱いた怨恨からの行動などという単純なものではなく、「関節に痛みを持っており朝は痛みが特にひどいから触ってほしくない」のかもしれません。

私たちが見ている成犬は、親から受け継いだ遺伝と、生後の環境のふたつの要素から作り上げられたものです。このふたつの要素のいずれが重要ということはできず、非常に良い遺伝をもって生まれても、生後の環境がよくなければ、そのよさは失われてしまいますし、反対にいくらよい環境で注意深く育てても、悪い遺伝を消し去ることはできません。ーー『犬の行動学』(中央公論社, 1996)

犬の問題行動とはなにか

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image by Aneta Jungerova / Shutterstock

犬の問題行動といえば、「吠える」「噛む」「追いかける」「掘る」などでしょうか。しかし、犬の立場になって考えてみれば、吠えるのも噛むのも掘るのも、人がすればおかしな行動ですが犬にとっては正常な行動です。

人にとっておかしな行動を問題行動として止めてしまえば、犬たちは息苦しい生活しかできなくなってしまいます。一方で、犬たちに思う存分吠えたり噛んだりさせていては、保健所に送られてしまうリスクを高めるだけです。

問題の深刻度と対処の必要性を検討するために、”問題行動”と一括りにされているものをランク付けしてみましょう。以下は、動物プラットフォームのVCAに掲載されている分類です。

  1. 年齢と犬種に応じた正常範囲の行動:犬にとっての普通の行動で、なんらかのきっかけ(歯の生え変わり、身体の衰え、日常生活の中での退屈)により一時的にみられるもの。効果的に対処することで、永続的な問題にならないようにできる。
  2. 正常の範囲をわずかに超えた行動:犬にとっては正常な行動ながら、管理が困難になりつつあるもの。たとえばマーキングは正常な行動だが家でソファに向かって行うなら範囲を超えている。
  3. 正常の範囲外、病的・異常な行動:早期社会化が不十分であること、医学的な問題、遺伝的素因などにより影響を受ける。必要に応じて行動修正や薬の処方など専門家との協力が必要である。

幸いなことに”問題行動”の多くは1か2のような、一時的で対処可能なものです。犬の行動が単に迷惑なものであったりする場合には、おそらくは正常範囲の行動です。しかし破壊的・攻撃的で、自分や人や他のペットを危険にさらすような行動であれば、それは正常ではありません

圧倒的に多いのは、動物としては正常な行動であるが、それをされては飼い主が困るというものである。ーー『イラストでみる犬学』(中央公論社, 1996)

犬の問題行動の根本に潜む原因

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image by Jeroen van den Broek / Shutterstock

前述のとおり、犬が問題行動をする原因は、個体によってまちまちです。しかしその根本には、共通の原因が潜んでいます。

まず第一に、犬を取り巻く環境が大きく変わり、犬の自然の欲求が満たされなくなってきていることの影響があげられます。家庭犬は”仕事”を持たず、クレートや部屋や塀に囲まれた庭で家族を待つことが最大の仕事という犬も少なくありません。かつては犬と人は共生していましたが、現在の犬は家に閉じ込められたcaptive(捕虜)のような存在です。これが行動の問題の一つの大きな原因です。

第二の原因は、無責任な繁殖です。先天性の問題を抱えた犬でも利益のために繁殖させたり、適切な社会化がなされないことは、深刻な行動上の問題につながります。

第一としてあげた環境変化に対しては、犬の欲求を満たしてあげるように生活環境を整え、犬との付き合い方を見直すことで対処できるでしょう。犬についての知識を持つことで、以下のような誤りを回避することができます。

  • 子犬の社会化を行わない
  • 犬のニーズを理解できず、それを満たす方法を知らない
  • 不適切な食事や健康管理
  • 犬の問題行動のサインを認識せず、適切に対処しない

しかし第二に示したような、先天的な問題を抱えた犬や適切な社会化が行われない犬によ病的・異常行動は、その後の解決は極めて困難なものになります。これもまた知識を持つことにより回避できます。どこから迎えようとしているかを十分に調査し検討するのです。

経験が豊富なブリーダーや、犬の気質や行動を見極められる専門家を味方につけましょう。将来起こりうる問題を予見して、それを一時的なもので終えるようしっかり準備をしておきましょう。

犬の問題行動の分類

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image by Miriam Doerr Martin Frommherz / Shutterstock

犬と猫の健康 メルク・メリアルマニュアル 家庭版』では、犬の問題行動を次のように分類しています。

  • 攻撃性に関連する問題行動
    • 優位性攻撃行動(衝動的なコントロール攻撃性)
    • 恐怖による攻撃行動
    • 食物に関連する攻撃行動
    • 突発性攻撃行動
    • 犬同士間の攻撃行動
    • 母性攻撃行動
    • 痛みによる攻撃行動
    • 遊びに関する攻撃行動
    • 所有に関する攻撃行動
    • 捕食性攻撃行動
    • 保護に関する攻撃行動
    • 攻撃行動の方向転換
    • 縄張り性攻撃行動
  • 排泄に関する問題行動
    • 興奮による排尿
    • マーキング行動
  • その他の犬の問題行動
    • 異常な摂食行動
    • 関心を求める行動
    • 認知障害
    • 過剰行動(犬ではまれ)
    • 新しいもの嫌い
    • 騒音恐怖症
    • 強迫性疾患
    • 偽妊娠
    • 分離不安症

犬の問題行動に対処する

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image by Africa Studio / Shutterstock

犬の問題行動に直面したとき、飼い主がやってはいけない対処には以下のようなものがあります。ほとんどの場合問題は悪化します。

  • 問題を無視する:いつかは自然に消えると決め込み、問題をなかったことのように無視する。
  • 犬が自然に成長する:子供の思春期と同じように考え、犬がそこから成長すると考えて対処しない。
  • 他の犬を迎える:「兄弟姉妹がいれば寂しくない」「問題解決の手助けになるはず」と考えて犬を迎える。

問題が自然に解決するわけではない以上、飼い主が主体となって対処しなければなりません。この場合、問題の程度によっても異なりますが、少なくとも最初は専門家の意見や助けを求めた方が良いでしょう。行動の問題への対処には、行動修正や薬物の使用などさまざまな選択肢があります。行動修正の方法には、順化、消去、脱感作、逆条件付け、反応形成(条件付け)などがあり、専門家についてこれらの基本を学ぶことで将来の問題にもうまく対処できるようになる可能性が広がります。

問題行動に対処するにあたっては、これが健康問題に起因するものでないかを最初に確認しなければなりません。全ての獣医師が犬の行動学に精通しているわけではありませんが、問題行動の多くは健康上の問題が影響していることを考えれば、まずは動物病院に相談してみることをお勧めします。

◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] イラストでみる犬学

Featured image creditSundays Photography/ shutterstock

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