犬がお腹を見せている様子は実に愛らしいもの。なんとも不自然かつ不安定で、思わず笑ってしまう可笑しさもありますよね。
彼らはなぜ、クルリンとひっくり返ってお腹をみせるのでしょうか?
犬はなぜお腹をみせるのか?
犬の行動はこの腹見せに限らず、置かれている状況(文脈)によって解釈すべきです。たとえば自分のベッドで完全にリラックスしているときは、「気持ち良いなぁ」「少し暑いかな」「背中がかゆい!」などの理由が考えられます。私たちがリラックスしているときとおんなじで、特に大きな意味が含まれる行動ではありません。
一方であなたにお尻をくっつけて「撫でるが良い」と言わんばかりにひっくり返る場合や、お友達と遊んでいるときに突然ゴロンしてお腹をみせるときは、なんらかのメッセージを含めてその行動をとると考えられます。2個体以上いる「社会」における行動は、環境と相互に作用した結果として生じるものですから、そこにはなんらかの原因やメッセージがあるのです。
古典的に腹見せは、積極的に攻撃性を減らすための身振りであり、服従をあらわすものだと解釈されてきました。Schenkel(1967)ではこれは「ある種の臆病さと無力感を表現する」と述べられており、攻撃を防ぐために用いられると考えられています。
一方であなたにくっついてお腹を見せるときは、「おねだり」のためにこの行動をしているのでしょう。これは人間に服従しているというより、人間との生活の中で「お腹をみせる→ナデナデしてもらえる」「お腹を見せる→飼い主さんが喜んでくれる」ということを学習した結果と考えられます。
しかし最近の研究では、犬の腹見せは「服従」や「おねだり」以外のメッセージを含んでいるという解釈もみられます。順に紹介していきます。
遊びの中の腹見せは「戦術」かもしれない
2015年に発表された研究によれば、遊びの中での犬の腹見せは服従ではなく「戦術」なのだそう。研究者は犬が遊ぶところを撮影した20のYouTube動画の248の腹見せ(roll over)を分析しました。その結果、以下のことが示されています。
- 明らかな闘争性がないときは、腹見せが起こる頻度は主に遊びの時間の長さによって決定された。
- 相手の犬のサイズに不一致(片方が大きく、片方が小さい)は、腹見せの発生可能性に影響を与えない。小さい犬が大きな犬より腹見せをすることが多いわけではなく、小さい犬の方が腹見せを長く維持するわけでもない。
- ほとんどの腹見せは防御的(うなじを噛まれることを回避する行動)、あるいは攻撃的(攻撃を開始)のいずれかで、従順と分類できたものはなかった。
- 2匹の犬が遊んでいる場合、腹見せにより遊びが促進される様子が観察された。
また、腹見せの意味について研究者は、これが自分にハンディキャップをつけて遊びを面白くするための行動ではないかと分析しています。大きな犬が小さな犬と戦っても互角にならず面白くありませんが、大きな犬が自らに制約を課す(Self-takedownsという言葉が使われています)ことで、遊びを促進するためではないかという指摘です。実際、今回の分析では大きな犬の方がゴロリと転がる可能性が高かったということです。
犬は耐えることを学んだ
一方、人との関わりの中で見せる「おねだり行動」に異議を唱える研究者もいます。
エジンバラ大学の研究者は、犬がお腹を見せるのはナデナデのお誘いではないし、犬はお触りを喜んでもいないとする見解を発表しました。
「犬はよく寝っ転がり、お腹を見せて足を高くあげますが、これは「お腹ナデナデして」というリクエストではありません」と語るのは、エジンバラ大学のマッケイ博士(Dr. Jill MacKay from Royal School of Veterinary Studies at the University of Edinburgh)。博士の見解によれば、犬は実際にはお腹を触られることを好んでいないが、人間が喜ぶから耐えることを学んだだけだというのです。
犬が別の犬に対してお腹を見せる時は、「あなたを信じるよ」とか「周りにいても平気だよ」ということを意味すると、博士は説明します。「だから、信頼する人間にもこの行動をしますが、この時に人間が犬に接近し、お腹というデリケートな場所に接触することは、本当は犬にとって脅威を与えるものなのです」
「犬たちは単に、耐えるということを学んだだけです」
犬がお腹を見せたらナデナデを誘いかけているとする認識は、人間がペットにもつ誤った認識の一つだと博士は説明します。これは例えば、犬より優位に立たなければならないとか、ドアに向かって吠える犬を大声で叱りつける行為と似た勘違いなのだといいます。
撫でるべきかやめるべきか、それが問題だ
お腹を見せたからといって、撫でて欲しい訳ではないし、撫でたからといって楽しんでいる訳ではない。犬たちは奇妙な人間の行動を、「飼い主が喜んでいるから」という理由で耐え忍んでいる…。
もしそうなら、私たちは犬のお腹ナデナデを、やめるべきなのかもしれません。しかし、あなたの犬が演技派でなければ、あなたの手があるところに寄り添い”ヘソ天”を披露するのなら、それはマッサージやコミュニケーションを求めている合図だと思っても差し支えはないでしょう。犬の中にはお腹を触られるのが苦手なコがいるかもしれませんが、好きなコだっているでしょう。犬があなたと触れ合っていて、背中や首の後ろなどの他の場所を触っている中で転がってお腹を見せたのなら、きっとそれは「OKよ」のサイン。前足を使って積極的に「撫でて」というコもいるでしょう。
一方で、お腹ナデナデを避けるべきケースもあります。以下のような場合には、仮に犬がゴロリンしてお腹を見せていたとしても、テリトリーに踏み込むことはやめましょう。
- 初対面の犬がゴロリンした
- 家族以外の子供に対してゴロリンした(子供を近づけないように)
- 犬が眠っているとき(驚かす恐れがある)
- 病気や怪我がある犬(嫌悪感を見せられたら、手を出すのは危険)
犬の気持ちを探るのは、本当に難しいものです。クルリンごろりんとお腹を見せてくれる行動ですら、さまざまな発見や解釈があるのです。
私たちがここから学ぶべきは、ただただひたすら「犬の行動の解釈は簡単なものではない」ということではないでしょうか。わかったつもりにならず、できる限り犬の気持ちに寄り添おうという姿勢でいることが必要なのかもしれません。愛犬のことをもっとも教えてくれるのは、愛犬です。常日頃から観察し、「ホントのきもち」を教えてもらいましょう!
◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Norman, K., Pellis, S., Barrett, L., & Henzi, S. P. (2015). Down but not out: Supine postures as facilitators of play in domestic dogs. Behavioural processes, 110, 88-95.
[2] Rolling Over: What’s Your Dog Saying? – Dognition
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