老齢犬は注意力が低下するが、訓練で予防できる可能性がある(研究)

サイエンス・リサーチ
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年齢を重ねて穏やかになった愛犬。ゆったり寛ぐ様子は微笑ましいものですが、ときに「ぼんやりしすぎ!?」と不安になることはありませんか?

どうやら犬も、年を取るにつれて、「注意」の力が落ちてくるようなのです。一方で、”脳トレ”は犬にも効果があって、認知機能の低下に歯止めをかけてくれる可能性があるそうです。

ウィーンに拠点を置くリサーチセンターは実験を通じ、生涯にわたる訓練が犬の認知機能低下の食い止めに役立つ可能性があることを示しました。

犬の認知の加齢は訓練により遅らせることができる

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image by SpeedKingz / Shutterstock

認知機能の低下は、犬と人間のコミュニケーションに大きく影響するものです。犬も年齢を重ねると注意力が低下することは確認されていましたが、対象となるビーグルとボーダー・コリーに限定されており、他の犬種についてはよくわかっていませんでした。

そこで今回の研究では、対象をボーダー・コリー以外にも広げ、年齢と注意力の関係が一般化できるのかを探ろうとしました。研究の目的は、年齢を重ねるごとに犬の注意力がどう変化するか、生涯にわたる訓練が犬の注意力にどう影響するかを評価することです。

研究を行ったのは、ウィーンに拠点を置くClever Dog Labに属する研究者チーム。研究協力犬は185匹で、75匹のボーダー・コリーと110匹の他の犬種で構成されていました。6歳から14歳弱のペット犬を、成年後期(6歳から8歳)、シニア(8歳から10歳まで)、および老齢(10歳以上)の3つのグループにわけ齢層に分けられてテストが行われました。

研究は、所有者への事前のアンケートと2つの課題(実験)で構成されていました。アンケートは主に、犬がこれまでに行ってきた訓練に関するもので、研究者らはこれに0〜52の範囲で得点をつけ生涯訓練得点として計算されました。2つの課題はそれぞれ、犬の注意力をテストする目的で設計されています。

結果、以下のことがわかりました。

  • 老齢の犬は他の年齢グループと比較して、注意の捕捉 と持続的注意について最も大きな低下を示した
  • 選択的注意は、年齢が上がるにつれた変化は示されなかった(人間も同じ)
  • 生涯にわたる訓練は、持続的注意と選択的注意にプラスの効果をもたらす
  • 身体活動および認知の訓練は、老化する脳に(構造的にも機能的にも)一時的あるいは永続的な変化を誘発し得る
  • 犬は人間の認知的加齢のモデルになりうる。犬を使うことで、実験室設定から得られた知見を実際の環境設定でテストできる可能性がある

乱暴にまとめると、「犬も年齢によって認知機能が衰えるが、トレーニングにより歯止めをかけることができる」という結果です。なにやらいろんな「注意」が出てきてますので、実験の設定と絡めながら「注意」について掘り下げてみたいと思います。

注意の低下は認知機能の役割に大きく影響する

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image by Yuankuei Cheng / Flickr

加齢による認知機能の低下、というと「認知症」という言葉が思い浮かびます。認知症とは病名ではなく、脳に後戻りのない変化がおこったことで生じた状態を総合的に指す言葉です。認知症の症状は、脳の変化にともなう認知機能が低下することであらわれます。認知機能には、記憶力、注意力、言語能力、動作を行う機能や周囲の状況を把握する機能があり、この中でも注意の低下は、目標指向行動や他の知覚的および認知的機能に影響するため非常に重要であることががわかっています。

今回の研究は「年齢を重ねることは、犬の注意力という認知機能にどう影響するか」を探ろうとするもので、実験1では注意の捕捉と持続的注意を、実験2では選択的注意が、それぞれ評価されています。

なお、注意の捕捉(attentional capture)とは「意図にかかわらず視覚的注意がある空間位置に対して (もしくはある対象に 対して)向けられてしまう現象」のこと。持続的注意(sustained attention)とは「長時間にわたって課題の遂行に注意を維持・保持する機能」で、選択的注意(selective attention)とは「複数の情報の中から必要な情報のみを特定して選択する機能」のことです。

実験1では、刺激(オモチャと人間)を与えたときに、犬がそちらを見るかと、どれくらい長く見るかという2つの点が確認されました。結果、9歳以上の犬(シニアと老齢)は8歳以下の犬に比べて刺激に注目するまでに時間がかかること、年齢が上がると注意を持続できなくることがわかりました。なお、注意の捕捉については訓練による影響はないことがわかりましたが、持続的注意については高度な訓練を受けている犬の方が長く注意を向けられることが示されました。

実験2では、選択的注意を評価するためのクリッカートレーニングセッションが行われました。飼い主が犬にアイコンタクトをしつつ(クリック)床にソーセージを投げ、また犬の名前を呼んで注意喚起をした後にアイコンタクトしたら(クリック)にソーセージを投げるを繰り返し、それぞれの刺激に対して注意を振り向ける時間を測る(分析する)という方法です。結果、選択的注意には年齢の影響は大きくないことがわかりました。関係していたのはクリッカー訓練の経験の有無で、訓練を受けていた犬は受けていない犬に比べて素早く食べ物を発見することができたのです。

ポジティブなトレーニングは生涯にわたり有効

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image by Matt Jones / unsplash

「訓練していた犬がうまくできる」というと当たり前な印象を受けますが、「報酬ベースのトレーニングは後年にわたっても犬の認知機能に影響する」というと印象は変わるでしょうか。実験ではクリッカートレーニングが使われていましたが、他の訓練や刺激との違いは明確ではないようです。子犬から老齢犬までの時間を豊かで刺激的なものにしてあげることが、愛する犬の若さを保つために必要だということは間違いなさそうです。

なお、この実験を通じて全ての犬がアイコンタクトについての改善がみられたそうです。老犬でも新しいことを学ぶことができるというのは、なかなか注目のポイントです。

脳と感覚に刺激を与え、犬種特性に合った運動をさせること。様々な人や犬と触れ合わせ、様々な環境の中で遊ぶこと。これらの全てが、未来にわたって犬の豊かな生活をつくるのです。ぜひ犬たちにたくさんの刺激を与えてくださいね。

◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Chapagain, D., Virányi, Z., Wallis, L. J., Huber, L., Serra, J., & Range, F. (2017). Aging of attentiveness in border collies and other pet dog breeds: the protective benefits of lifelong training. Frontiers in aging neuroscience, 9, 100.
[2] Companion Animal Psychology: Dogs’ Attention Declines with Age – But Training Helps
[3] 認知症を知り、認知症と生きるe-65.net
[4] 日本認知科学会

Featured image credit schankz / Shutterstock

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