なぜ犬はGPSを持たずに家に帰れるのか

生態・行動
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犬に限らず動物は、GPS搭載のスマホをもたずに、離れた場所から家に帰りつくことができます。

自力で家に帰ったペットたち

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image by Susn Matthiessen / unsplash

ペットの両雄、犬猫では、たとえばこんな長距離旅行ストーリーがあります。

2018年1月、グレートピレニーズ・ミックスのキャサリーンは、高齢の飼い主の元を離れ、新しい家に住むことになりました。しかし、どうしても新しい家に馴染めなかった彼女は、家を抜け出し、約32km離れた元の家に自力で戻ったのです。驚くことに彼女は、家までの最短距離を歩いていました。

元の家族に会うために、犬は32kmを2度も歩いた | the WOOF イヌメディア

長く住んだ場所でなくても、その位置を正確に把握できる犬もいます。2015年、ホワイトシェパードのハンクは、正式な譲渡先に行く前の、一時預かりで出会ったレイチェルさんに一目惚れ。2日間過ごした彼女のことが忘れられず、保護施設のドアの鍵を開けて逃走し、約17kmを歩ききってレイチェルさんの家までたどり着きました。

Dog travels two days and 11 miles to return to foster mom

猫は、フラリと出て行って自力で家に戻るイメージがありますが、長距離旅行に関してはそれほどたくさんの記録はありません。2013年、旅行先で行方不明になった猫のホリーは、2ヶ月後に320km以上離れた自宅に戻ってきました。マイクロチップで本人であると確認された猫は、体重こそ減っていましたが元気に家に戻ってきました。

Cat Travels 200 Miles to Return to Owners and Baffle Scientists | TIME.com

犬猫の移動に関する研究は、これまでそれほど熱心に行われておらず、彼らがどのようなプロセスで、どんな手がかりを使って特定の場所に戻る/向かうのかは、あまりよくわかっていません。

しかし他の動物種については、その驚異的な移動能力の源が明らかになっています。

コンパスをもつ動物たち

どうやら動物たちは、種によって異なる種類の”地図”や”コンパス”を持っていて、それに従い動いているようです。

たとえば砂漠のアリは、環境情報と匂い刺激を利用して、食料源へと向かいます。

ウミガメやその他の両生類、鳥類などは、磁場を知覚することで特定の標的位置に向かって移動します。鳥は磁場の知覚にくわえて、太陽や星という”コンパス”を使い自らをナビゲートしています。

寄生性線虫は、地面の揺れに応答して新しい宿主に向かって移動します。海洋哺乳類は、ソナーや超低周波の助けを借りて、場所を特定することができます。

それでは犬はどうでしょう?何をたよりに遠くから家に戻ることができるのでしょう。

犬は視覚と嗅覚に頼って家に帰る

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image by Avi Richards / unsplash

犬の帰巣性についての研究はあまり多くありません。一般的には、視覚と嗅覚に頼っていると考えられています。

犬は、風が吹く条件が正しい限りは、15kmほど離れた場所からでも特定の匂いを追跡できると言われています。そして、馴染んだ匂いを頼りに家への道を見つけるのではないかと考えられています。親しい人間や動物の匂い、おしっこの匂い、木の匂い、あるいはレストランのゴミ箱かもしれません。それらの匂いを頼りに犬が帰ってくる可能性は十分にありそうです。

もう一つの可能性は、犬が視覚的な目印を記憶しているという可能性です。オオカミの研究では、彼らが視覚的なランドマークを利用して、自分たちの領土に戻っていることが示されています。

非常に素晴らしい能力ではありますが、これらの手がかりには弱点があります。匂いは永遠に続くものではありませんし、雨風という環境の影響を大きく受けるものです。視覚情報は大事な情報ですが、犬は視覚が発達していないため、それほど強力な手がかりにはならなさそうです。

環境に左右されないパワフルなツールはないの!?と探してみたら、我らがワンコたちも鳥類のように磁場の知覚を備えている可能性があるというのです。2016年発表の研究には、「磁気の知覚」という能力を犬が備えている可能性が示されています。

犬も磁場感覚をもつ可能性

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image by Martin Dufosset / unsplash

磁場の知覚は他の条件と異なり、気象条件、明暗のサイクル、季節性などのの影響を受けにくいものです。もし犬たちがこの感覚を備えているとしたら、彼らの驚異的な”旅する能力”の謎が、少し紐解けそうでうよね。

鳥などが磁場を感知できるのは、彼らが網膜に「クリプトクロム1a」という青色光受容体が含まれているからだと言われています。クリプトクロム1aが起こす生化学反応により、磁場の変異を感知するのだと考えられているのです。

2016年、研究者はクリプトクロムが犬やオオカミ、キツネ、熊、アナグマ、オランウータン、マカクザルなどの哺乳類の網膜にも存在することを発見しました[4]

そんな可能性を聞いてしまうと、「哺乳類動物も鳥たちと同じように、磁場がわかるのかも!」と結論を急ぎたくなってしまいますが、哺乳類ではこの分子がなぜ網膜に存在しているのかは、明らかになっていないのです。磁気の知覚とは関係ないのかもしれません(そう主張する研究者も多くいます)。

とはいえ、犬は磁場に反応して排便することが指摘されていることを考えると、彼らにもそうした能力が備わっている可能性は十分にあり、今後の研究に期待したいところです。


素晴らしい感覚をもつ犬たちは、家路を辿る能力も私たちより格段に優れています。しかしそうした優れた能力があっても、環境や時間の経過により発揮されないことはあります。
残念ながら、毎年多くのペットが迷子になっています。彼らの帰巣能力だけに期待をかけず、マイクロチップやIDタグという便利なグッズの助けも借りましょう。ワンコの帰宅の可能性が、ぐぐぐぐぐっと上がります。

◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] How dogs find their way home (without a GPS)
[2] The Science Behind Pets That Find Their Way Home | Time
[3] 渡り鳥は磁場が見える:青色光受容体と磁気の感知|WIRED.jp
[4] 「渡り鳥」の磁場感覚、哺乳類にも存在すると判明|WIRED.jp

Featured image creditMartin Dufosset/ unsplash

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