犬の唾液が示すこと〜高ストレスはカラダの”調整不全”を起こす

サイエンス・リサーチ
この記事をシェアする

犬のストレス評価においては、唾液中のコルチゾール分泌量を測定する方法が多く利用されます。

コルチゾールは、副腎皮質から放出されるステロイドホルモン[1]で、心理的・身体的な急性ストレスに対し増加を示すと言われています。ただ、「ストレスレベルが高い=コルチゾール濃度が高い」という単純な図式にはならないことには注意が必要です。

オーストラリアの研究チームは、唾液コルチゾールに関する横断的研究を行い、コルチゾール濃度は外部変数から影響を受ける可能性があること、「高い=悪」「低い=良」を意味しないことを示しました。

犬のよだれ研究を集めて分析

1666 1 thewoof

たくさん調べました! image by cdk / Flickr

研究を行なったのは、コブ博士(Mia Cobb, Monash University)らオーストラリアの研究者たち。犬の唾液コルチゾールの参照範囲の確立と、コルチゾールとパラメータ(犬個体、実験、環境)との関係を探るために、メタ分析の手法を用いて行われました。

メタ分析(メタアナリシス)とは、「過去に独立して行われた複数の臨床研究のデータを収集・統合し、統計的方法を用いて解析した系統的総説[2]」のこと。この研究では、1992年から2012年までの文献データをレビューし、61論文に使用された31の生のデータセットを分析の対象としています。雷雨恐怖症、公園で遊ぶ犬、シェルターにおけるプレイグループ、シェルターに長期・短期滞在する犬、動物介在活動に参加する犬、動物病院を訪問した犬などをテーマにした研究から、1205匹の犬による5153サンプルが集められました。

これらを統計的に分析した結果、犬のコルチゾール濃度は個体内及び個体間変動がかなりあること、外部変数がコルチゾール濃度に影響を及ぼす可能性があることがわかりました。

”コルチゾール濃度は個体内・個体間で大きく変動する”というのは、ざっくりと言って”犬によっても違う、同じ犬でも日によって違う”という感じでしょうか。コレステロール値などのように、基準値があってそれより高ければ良くないという見方はできないということです。「個体のパーソナリティが、ストレス表現(行動や身体)いんどう影響するのかは、まだわかっていません。ですから、犬の福祉を評価する時には、複数の方法を採用し、全体像を見ることが大切です」

コルチゾール濃度の見方は単純ではない

1666 2 thewoof

ストレス、高め… image by [Paturo] / Flickr

研究はまた、唾液中コルチゾール濃度に関する興味深い事項を明らかにしています。

  • 飼い主が近くにいる実験環境にあった犬はコルチゾール濃度が低かった
  • 避妊していないメス犬は、それ以外(避妊済み、去勢・未去勢のオス犬)よりコルチゾール濃度が高かった
  • 2週間以上シェルターで過ごした犬は、家庭で過ごしたり仕事に従事する犬よりコルチゾール濃度が低かった

最後の項目、「あれ?」と感じませんか?ストレスフルなシェルターでの生活は、コルチゾール濃度を上げそうですが、下がるという結果が見えてきたそうです。

ほとんどの犬にとっては、騒々しく、家族もいないシェルターでの生活は、辛く苦しいもののはず。それにもかかわらず低い数値を示したことは研究者たちに、「コルチゾールはストレス反応での”調整不全(dysregulation)”があるのではないか」という仮説を抱かせることになったようです。シェルターでの暮らしはストレス反応を疲弊させ、正常の機能を喪失する可能性があるというのです。慢性的にストレスを感じたり、睡眠障害をもつ人間も、同様のことが観察されるとコブ博士は言います。


研究者らは、唾液中のコルチゾール濃度だけを見るのではなく、コンテクスト(背景情報)を総合的に判断すべきといいます。気質、タイミング、環境、育ってきた歴史など、多様かつここの要因によって変わることに気をつけなりません。

コブ博士は、尺度が一つだけの研究には注意が必要だと強調しています。「『犬はこれが好き、これが嫌い』といったタイトルは要注意。良い研究には身体や行動などの複数の尺度が用いられる<もの/strong>です」

◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] 井澤修平, 小川奈美子, & 原谷隆史. (2010). 唾液中コルチゾールによるストレス評価と唾液採取手順. 労働安全衛生研究, 3(2), 119-124.
[2] メタアナリシス – 薬学用語解説 – 日本薬学会

Featured image credit Delaney Dawson / unsplash

the WOOF イヌメディア > すべての記事 > イヌを知る > サイエンス・リサーチ > 犬の唾液が示すこと〜高ストレスはカラダの”調整不全”を起こす

暮らしに役立つイヌ情報が満載の「theWOOFニュースレター」を今すぐ無料購読しよう!

もっと見る
ページトップへ