小型犬症候群〜”小さな犬ほどよく吠える”はなぜか?

しつけ・トレーニング
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小さな犬が大きな犬に果敢に挑んでいくのは、それほど珍しい光景ではありません。ワンワンと吠えつくだけでなく、時には牙を剥き向かっていこうとする犬もいます。

彼らはなぜそんなにも勇猛果敢なのでしょうか?

ナポレオン・コンプレックスは犬にも当てはまるのか


image by John Flannery / Flickr

小さい犬が大きな犬に挑む状態は、しばしば「弱い犬ほどよく吠える」や「ナポレオン・コンプレックス」という言葉でで説明されてきました。

「弱い犬ほどよく吠える」とは、実際の自分より大きく見せようとする人を指す言葉。そして「ナポレオン・コンプレックス」とは、身長の低い人にみられる過度に攻撃的または横暴な行動によって特徴づけられ、自らの足りない部分を攻撃性などで補おうとする状態を指すとして一般に使われてきた言葉です。

小さな犬の攻撃性をこれらの言葉で説明するのは適切か…ということを考える前に、まずこれらの”理論”が信頼にたるものかを確認してみます。「弱い犬…」は理論ではなく昔から言われてきたことなので、とくに根拠となる説明はありません。一方の「ナポレオン…」は、そのような状態は現実にはみられないということが、いくつかの研究で確認されています。例えば2007年に行われた研究では、平均身長の男性と比ベると背が低い男性はカッとなりにくいことが確認されています[1]し、英国で行われた地域密着型の発達研究では、身長が人格や日常生活に影響することはないことが示されています[2]

すなわち、「弱い犬…」も「ナポレオン…」も、なんの根拠もなく言われ続けてきた言葉なのです。小さな犬の攻撃性をこれら言葉で説明するのはちょっと無理がありそうですね。

小さきものは攻撃性で大きなものに対抗するのか?


image by bby_ / Flickr

動物たちの世界では、小さきものは大きなものより攻撃的ということはあり得るのでしょうか?

生存の観点から考えると、小さなものが大きなものより攻撃的というのは、何と無くありそうな話です。体格にで劣る小さきものは、逃げ足が早いか攻撃的でなければ、大きなものに常に”食われて”しまいますからね。

2012年、スウェーデンの研究者がデザートゴビー(小さいハゼ)の行動を追跡し、小さなオスほど侵入者に対して素早く、激しく攻撃したことを発見しました[3]。ハゼの行動を犬に適用するのはかなり無理がありそうですが、専門家の中には「(小さなものが攻撃的というのは)自然の中ではそれほど珍しいことではない」と言う人もいます。

小さな犬はより大きな犬を恐れており、身を守るために敵意を見せているのかもしれません。しかし、身体的特徴が原因で犬の行動が変化することは科学的には確認されておらず、遺伝や環境の影響についてもはっきりしたことはわかっていません。

飼い主のせいで攻撃的になる!?


image by Ferran Pestaña / Flickr

小型犬による攻撃的行動を、英語圏では”Small dog syndrome:SDS(小型犬症候群)”などと言います。病気のなまえではなくトレーニングの場面などで一般的に使われる、小型犬に見られる望ましくない行動を称する言葉です。

小型犬は本当に”勇ましい”行動をするのでしょうか。2013年、オーストラリアの研究チームは、犬の外的特徴が行動に関連しているかを探索し、より小さな犬はより高いレベルの「飼い主主導の攻撃性、フードのおねだり、尿マーキング、愛情/注意喚起行動がある」ことを発見しました。この研究のみに基づけば、小型犬は特定の状況において他のサイズの犬より攻撃的であることが観察されたのです。

ただし、研究では「なぜそうなるか」は示されていません。現在のところ小型犬の中に凶悪な遺伝子が発見されたという話はありませんので、その答えは飼育環境に求めた方が良さそうです。

トレーナーの多くはこの原因を、飼い主のしつけの問題として説明します。小さな犬だと問題行動をしても、しばしば「可愛い」で片付けられてしまうため、そうした行動が助長されることがあるというのです。小さいがゆえに飼い主が過保護になり、社会化の機会が奪われた結果だとする人もいます。

この問題に関しては、皆が口を揃えて「全ての犬は同じように訓練されなければならない」と言います。体重が1kg台だとしても犬は犬。大型犬に対するのと同じ真剣さをもって訓練し、飛びつきを禁じ、コマンドに従うよう練習しなければなりません。

ポイントは「大型犬と同じルールを課すこと」


image by Beatrice Murch / Flickr

最大のポイントは、小型犬でも大型犬と同じルールを課すことです。愛らしいチワワやポメラニアンを威風堂々のマスティフだと想像するのは難しいことですが、5kgでなく50kgにのし掛かられることを考えて飛びつきはやめさせましょう。唸り声や甘噛みも絶対禁止です。

小型犬症候群を防ぐには、早期に社会化訓練を受けさせることが役立ちます。また、子犬の時期の甘噛みをコントロールすること(人の手ではなく歯固めオモチャを与えるなど)も非常に重要です。

成長した「手がかかるコ」も、適切な訓練によりさらに”イイコ”に変身させることは可能です。トレーニングは老化防止にも繋がりますし、たくさんの犬友を作るきっかけにもなります。訓練のスタートに遅すぎることはありません。小さな問題児をみんなに好かれるナイスワンに脱皮させてあげましょう。

◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] BBC NEWS | UK | Short men ‘not more aggressive’
[2] Ulph, F., Betts, P., Mulligan, J., & Stratford, R. J. (2004). Personality functioning: the influence of stature. Archives of disease in childhood, 89(1), 17-21.
[3] BBC – Earth – Why small dogs might really be more aggressive than big ones
[4] Why Do Some Small Dogs Have “Napoleon Syndrome”? – iHeartDogs.com
[5] Ask an Expert – Small Dog Syndrome | Modern Dog magazine

Featured image creditMonica Martinez Do-Allo/ shutterstock

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