「犬は飼い主に似る」とはよく聞かれるコメントですが、感情においてもシンクロすることがあるようです。
研究によれば、犬のストレスレベルは飼い主のストレスレベルと関連しているそうです。人間が犬のストレスをコピーすることはなく、あくまでも相手に合わせてしまうのは犬の方。感情を敏感に察して寄り添うことにかけては、人間より犬の方が優れているのかもしれません。
論文はScientific Reportsに掲載されています。
集団で生きる種の間では、感情が他の人に”感染る”という現象がわりとよくみられます。そして過去の研究からは、ストレスは、同一種の個体内で強い伝染性があることが示唆されています。たとえば高いストレスレベルにある教師がいる場合、学生もストレスレベルが高くなる(高いコルチゾール濃度を示す)という研究結果があります。
感情の伝染は同じ種だけでなく、たとえば犬と人間の間でも起こることがわかっています。短期間のストレスが犬と人間間で伝染しうることは、ドッグスポーツを題材にとった別の研究でも示されているところです。
本研究では、犬と飼い主の間で、短期的ストレスだけでなく長期的な(慢性的な)ストレスも伝染するのかどうかを調べています。研究者らは毛髪サンプル内のコルチゾール濃度を測り、ストレスが同期するかを調査しました。
結果、慢性的にストレスや不安を感じる飼い主は、ストレスを愛犬に伝染している可能性があることが示されました。研究の筆頭著者で動物学者のロス氏は、「人間が犬を理解するより、犬の方がよりよく私たちのことを理解している」とコメントしています。
うーむ、やっぱりそうか〜。
研究を行ったのは、リンショーピング大学(スウェーデン)の研究者ら。彼らは、58匹の犬と女性飼い主の協力を得て、ライフスタイルの要因や同居する人間によって犬のストレスレベルがどう影響されるのかを調べました。
論文によれば、急性のストレスレベルは唾液や血液のコルチゾール濃度で評価できますが、長期的な影響を調べるには毛髪サンプル中の濃度を調べることが必要なのだそう。人間の研究では、母子間のストレス同調が毛髪中コルチゾール濃度を調べることにより明らかになったということです。
さて、本研究では飼い主と犬は、分析に供するための毛髪サンプルを2回提出しています。季節による影響を考慮するために、2017年冬から2017年夏までの間の異なる季節の毛髪サンプルが2回提出されたというわけです。ライフスタイルがストレスレベルに影響するかを確認するため、服従訓練やアジリティなどのトレーニングや競技会に参加する犬に協力を求めています(58匹の内訳は、ボーダー・コリー25匹、シェトランド・シープドッグ33匹)。
モニターの方法は、計測機能付き首輪によるものと、飼い主による毎日の報告です。コルチゾールの分泌は18の身体活動の影響を受ける可能性があるため、犬モニター機能のついた首輪を着用するとともに、飼い主は毎日活動の様子をレポートしました。さらに、犬と飼い主の両方について質問票による性格調査を実施し、ストレスレベルが性格特性と相関しているかどうかについても調べられました(犬用は“Dog Personality Questionnaire” (DPQ; Jones 2008) 、飼い主用は”The Big Five Inventory”(BFI; Zakrisson 2010)。ちなみに犬の性格調査への回答は飼い主が行った)。
結果、研究者らは、犬と飼い主の間には長期的なストレスも同期する可能性があることを見出しました。
- 犬のストレスレベルは身体的な活動量には大きく影響を受けていなかった
- 犬のストレスレベルは季節に影響を受けていた(冬はコルチゾール濃度が高い)
- 飼い主の性格は犬に影響するが、犬の性格が飼い主のコルチゾール濃度に影響することはなかった。これにより、犬は飼い主のストレスレベルに影響を受ける(同期する)可能性があると言えそうである
- 高い毛髪中コルチゾール濃度を示した犬の飼い主の性格特性は、神経症的傾向(Neuroticism)、開放性(Openness)、誠実性(Conscientiousness)であった
- 研究に協力した犬ー飼い主の全てにおいて同期がみられたが、雌犬の方がオス犬に比べて高いコルチゾー濃度を示した。女性がより高い感情的反応を示すという性差は、他の種(人間、チンパンジー、ラット)においても確認されている
この結果についてロス氏は、「この結果には最初は驚かされましたが、考えてみれば犬にとっての飼い主は、日常生活のかなりの部分を占める存在です」と述べています。
「犬は飼い主の苦しみを受け止め、これを慰める行動で応えてくれるのです」
とは言え、飼い主と犬のストレスレベルが相関するかどうかについての結論を出すためには、さらなる研究が必要です。犬種が変われば、あるいは飼い主の性別が異なれば、結果は違うものになるかもしれません。
また、この結果は「精神的に不安定な人間は犬を買ってはならない」ことを示すものではありません。犬の前で無理に明るく振舞わなければならないということでもありません。ただ、もしも愛犬があなたを心配して慰めてくれるなら、その気持ちになんとか応えて、早めに気分を盛り立てることができたらいいな思います。
ストレスは、犬にとっても人にとっても健康に害を及ぼす嫌なもの。お互いのストレスレベルを下げるよう、一緒に遊んでワイワイして嫌なことなんか忘れてしまうのが良さそうですよ。
◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Long-term stress levels are synchronized in dogs and their owners, Scientific Reports (2019). DOI: 10.1038/s41598-019-43851-x , https://www.nature.com/articles/s41598-019-43851-x
Featured image creditIonut Coman Photographer/ unsplash