犬の繁殖機能衰え〜ペットフードに含まれる環境化学物質が原因か(イギリス研究)

サイエンス・リサーチ
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英国で26年にわたり行われた調査によれば、犬の繁殖力が衰えつつあるそうです。原因は、環境化学物質ではないかとみられています。

26年間にわたり5犬種を調査

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カーリーコート・レトリバーの赤ちゃんimage by Mattias Agar / Flickr

研究は、ノッティンガム大学獣医学科(Nottingham University’s school of veterinary medicine)のリー博士(Richard Lea)らによって、1998年から2014年の26年間にわたり行われました。研究に協力したのは、同じ介助犬育成施設で育つ健康な犬たち(ラブラドール・レトリバー、ボーダー・コリー、ジャーマン・シェパード、ゴールデン・レトリバー、カーリーコート・レトリバー)。同じ環境、同じ場所で育つ5犬種の犬たちのデータを、統一された方法で記録したのです。

研究者たちは毎年、42匹から97匹の精子サンプルを集め、正常な精子の運動率を計測しました。結果、1988年から1998年間での10年間では運動率が2.5%減少し、2002年か2014年の8年間では1.2%減少していることがわかりました。

また犬たちに潜在精巣(停留精巣、陰睾)の割合が増えつつあることもわかりました。潜在睾丸とは、精巣の下降が不完全で陰嚢内に収まっていない状態のこと。潜在睾丸では、正常な精子の生産ができないため、生殖能力がないか低下するといわれています。

同じ期間に生まれた子犬についてみると、若干ではあるもののメスの数がオスの数を上回っており、胎児と周産期脂肪率についてもメスの数の方が多かったとのことです。

原因はペットフードに含まれる環境化学物質か?

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え…、そうなの⁈ image by odonata98 / Flickr

原因とみられているのは、環境化学物質です。研究者たちは、繁殖の務めを終えた犬、または何らかの事情で去勢した犬の精巣[睾丸]組織を調査し、そこに塗料やプラスチックなどに含まれる化学物質を発見しました。直近3か年で行われた追加調査では、この化学物質が精子の中にも発見されたということです。化学物質にはポリ塩化ビフェニル(PCB)やフタル酸ジエチルヘキシル(diethylhexyl phthalate)など、現在は使用が禁止されているものの、私たちの身の回りに溢れるものでした。

論文には、これらの化学物質がペットフードの中にも含まれていたことが言及されています。ペットフードのブランドおよび調査を行った施設名は伏せられていますが、リー博士ら研究者によれば、世界中で販売されるフード(ウェットおよびドライ)とのことです。これらの化学物質の混入過程は不明ですが、水やその他の原材料に含まれたのではないかと推測されています。

フードが直接的な、または唯一の原因であるとは結論付けものではないが、「主要な要因だろう」とリー博士は述べています[3]

この研究は、人間の生殖能力と環境曝露の関係について明らかにするための一助となるのではないかとみられています。過去70年間で、人間の精子の質は低下し、精巣腫瘍や生殖器の異常が増えていますが、環境化学物質が直接的に影響しているか否かは、論争の対象となっていました。この結果をもって人間への影響に言及することはできませんが、さらなる研究への布石になるとみられています。

また、この研究はオス犬のみが対象となっていたため、その意味での限界がありました。環境と繁殖との関係をさらに明らかにするために、研究者たちは対象をメス犬にも広げ、卵巣組織の調査も行っているということです。

◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Lea, R. G., Byers, A. S., Sumner, R. N., Rhind, S. M., Zhang, Z., Freeman, S. L., … & England, G. C. (2016). Environmental chemicals impact dog semen quality in vitro and may be associated with a temporal decline in sperm motility and increased cryptorchidism. Scientific Reports, 6, 31281.
[2] 潜在精巣 – Wikipedia
[3] A Warning for Dogs, and Their Best Friends, in Study of Fertility – The New York Times

Featured image credit Cyril Lookin / Flickr

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