薬が効かない!?動物医療における薬剤耐性菌と抗菌薬

健康管理
この記事をシェアする

今回は、動物医療における薬剤耐性菌と抗菌薬についてお話させていただきます。

このトピックを選択しようと思ったきっかけは、昨年末から今年のはじめにかけての日本への一時帰国でした。約7週間の滞在の中で、日本では今でも、ヒトや動物の病院で、抗菌薬の処方があたりまえになんだということに改めて気づいたのです。

ここ10年ほど、オーストラリアのヒトの病院では、数日間の発熱程度で抗菌薬が処方されることはなくなっています。医師は、抗菌薬をすぐに処方しない理由や薬剤耐性菌について説明したうえで、市販の解熱鎮痛薬を服用して様子をみるよう伝えます。それでも悪化したり長引いたりしたときにようやく、抗菌薬などの薬が処方されるのです。

オーストラリアでは動物病院でも、細菌性感染が疑われる場合以外、抗菌薬を処方することはありません。ヒトの病院で、抗菌薬が処方されることはあまりないため、動物病院で抗菌薬が処方されなくても、特に疑問を持つ人は少ないように思えます。

薬剤耐性菌ってなに?

2110 1 thewoof

image by Drew Hays / unsplash

そもそも、薬剤耐性菌とはなんでしょう?薬剤耐性菌とは、これまで効果を発揮してきた抗菌薬(※)に対して抵抗性をもち、これらの抗菌薬が効かない、あるいは効きにくくなった菌のことです。

※ 抗菌薬:抗菌薬は、細菌の増殖を抑制したり細菌を退治したりすることにより、感染を抑える薬です。抗生剤(抗生物質製剤)や合成抗菌薬が含まれます。

薬剤耐性菌は、ヒトの医療では世界的に深刻な問題と捉えられています。そして残念ながら、ワンコの世界、すなわち動物医療においても、薬剤耐性菌による影響は及びつつあります。

人の医療で問題となっているのは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)、多剤耐性緑膿菌(MDRP)、基質拡張型ベータラクタマーゼ(ESBL)産生菌などの耐性菌ですが、動物医療、すなわちワンコの世界では、メチシリン耐性ブドウ球菌(MRS)とESBL産生性グラム陰性桿菌(ESBL)が問題となっています。特に、ワンコに多くみられる膿皮症(細菌感染による皮膚炎)や外耳炎の原因菌であるS.Intermedius groupには、薬物耐性菌(メチシリン耐性S.Intermedius group (MRSIG)) が見つかっています。膿皮症や外耳炎の治療はさらに難しくなっていくかもしれません。

また、人の医療で大問題となっているメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が、ワンコから分離(検体から病原体が取すこと)されることがあります。MRSAがワンコに病害を起こすことはあまりないと考えられていますが、飼い主の方や動物病院関係者に伝播することが懸念されています。

薬剤耐性菌は、比較的最近になって登場してきた印象があるかもしれませんが、一部の菌は生来の特徴として薬剤耐性であり、大昔から生息していたものです。一般的な細菌に比べ、かなりひっそりと暮らしてきたマイナーな存在でしたが、抗菌薬が普及し始めた1940年代ごろから次々と見つかるようになり、急速にメジャー化していきました。

さて、抗菌薬の普及と薬剤耐性菌はどう関係しているのでしょうか。そもそも、薬剤耐性菌たちはどのように力を持ち、どのように増えるのでしょうか?

豆知識1:抗菌薬と抗生物質は違うの?
 細菌感染した時に処方される薬、この薬を“抗生物質”と呼ぶ方は多いのではないでしょうか?厳密には、抗生物質とは、微生物が作り出す化学物質のことなので、必ずしも薬を意味する用語ではないのです。抗生物質から作られた薬は抗生物質製剤や抗生剤と呼ばれています。また、細菌を退治する薬には、抗生剤以外にも人工的に合成した合成抗菌薬もあります。このような薬を総称して、抗菌薬と呼んでいます。

薬剤耐性はどのように起こるの?

2110 2 thewoof

image by Marc / Flickr

薬物耐性は、不適切な抗菌薬の処方と不適切な服用によって起こることが指摘されています。

・不適切な抗菌薬の処方

各抗菌薬は、特定の細菌にしか効果を示しません。そして、ウィルスや真菌など、細菌以外の感染に効果はありません。

しかし昨今は、“病院を訪れたら、抗菌薬が処方してもらえる”ことがあたりまえで、抗菌薬が必要な場合以外でも、使われていることがあるようです。この場合、抗菌薬が効く菌だけが死んで効かない菌(薬剤耐性菌)だけ生き残ったり、抗菌薬の反復投与や長期投与により細菌が徐々に耐性を持つように変化したりがあるのです。

不要な症例にまで抗菌薬が使用されることや、抗菌薬使用頻度が高まることで、薬剤耐性菌が生み出される、もしくは増加している可能性が指摘されています。これは、ヒトおよび動物の両方の病院で起きていることです。

・不適切な投与期間

抗菌薬の種類によって、決められた期間継続して投与するよう指示を受けると思います。しかし症状が改善されると、飼い主さん方が「もういいかな?」自己判断して投薬をストップしてしまうことがよくあります。

そのような投薬法は、耐性菌を増やしている可能性があります。しっかり使っていればやっつけられたはずの耐性菌が生き残り、薬に弱い菌だけが生き残る環境を身体に作ってしまうからです。

抗菌薬は、決められた期間継続して投与しないと、ターゲットとなっている細菌をすべて消滅させることができません。また、抗菌薬治療を途中でストップすると、その時点で生き残った強い菌が抗菌薬に対する耐性を獲得し、薬剤耐性菌へと変化する可能性もあります。

豆知識2 :ワンコの抗菌薬
日本の人口は1億2652万人(2018年3月時点)なのに対し、ワンコの飼養数は892万(2017年時点)頭。日本では、なかなかたくさんのワンコが暮らしているのに、承認されているワンコ用抗菌薬の数は意外と少ないのです。しかし、ワンコに起きる感染症は様々で、それらの病気に対応するため、たくさんの種類が開発されている人体用抗菌薬を適用外使用して治療が行われています。

薬剤耐性菌を増やさないために

2110 3 thewoof

image by Christopher Ayme / unsplash

薬用耐性菌を発生させないため、そして増やすことがないように、以下の点を心に留めておきましょう。

  • 抗菌薬のリクエストは控えましょう。抗菌薬が必要&効果的と思われる場合には、適切な抗菌薬が処方されるはずです。
  • 処方された抗菌薬は、たとえ症状がよくなっても、獣医師に指示された期間、しっかりとすべて服用させましょう。
  • 残った抗菌薬を、その後、自らの判断で短期間だけ使用することは避けましょう。

余談ですが、オーストラリアの動物病院では、原因が分からない時点で、抗菌薬を処方することはありません。ワンコ様の経過を見て、必要と判断された場合に、適切な抗菌薬が処方されます。


薬剤耐性菌についての研究は、今後ますます進められていくと思います。抗菌薬についての新たな正しい知識を身につけ、薬剤耐性菌をこれ以上増やさないよう、一人一人が気を付けていければと願います。 

◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Antimicrobial Use and Antimicrobial Resistance FAQ
[2] 原田 和記, 『家庭飼育動物由来耐性菌の現状』
[3] 原田 和記、獣医療分野で注目されている多剤耐性菌・MRSについて
[4] 露木勇三・髙橋孝, 『伴侶動物(犬,猫)における細菌検査について』, 日本臨床微生物学会2016
[5] 田村豊, 『動物用抗菌剤の使用状況と耐性菌の現状ーヒトにいたる耐性菌の伝播経路』
[6] 医療従事者の方へ | かしこく治して、明日につなぐ~抗菌薬を上手に使ってAMR対策~
[7] 統計局ホームページ/人口推計(平成29年(2017年)11月確定値,平成30年(2018年)4月概算値) (2018年2月20日公表)
[8] 平成29年(2017年) 全国犬猫飼育実態調査結果、一般社団法人ペットフード協会
[9] 抗菌薬の基礎と疑問 小久江栄一・著 Clinic Note,No25

Featured image creditLightField Studios/ shutterstock

the WOOF イヌメディア > すべての記事 > イヌを育てる > 健康管理 > 薬が効かない!?動物医療における薬剤耐性菌と抗菌薬

暮らしに役立つイヌ情報が満載の「theWOOFニュースレター」を今すぐ無料購読しよう!

もっと見る
ページトップへ