前回に引き続き、犬の腫瘍についてのお話です。今回は悪性腫瘍、すなわち「がん」に着目し、「もし愛犬ががんになったら」というテーマでお話します。
がんになった愛犬のお家ケア
ワンコのがん発生率は、3頭に1頭、10歳を過ぎたワンコでは、2頭に1頭といわれています。ワンコががんに罹ってしまったら、動物病院で適切な治療を受けることも大切ですが、お家でのケアも欠かせません。
・食餌コントロール
がんに罹ってしまったワンコには、特別なごはんが必要です。具体的には、がんの栄養源となる炭水化物を減らし、がんにより消費されてしまう蛋白質を増やし、がんにより起こる脂質代謝の変化に対応するため高脂肪食にすることが重要です。また、オメガ3脂肪酸やアルギニンの補給も効果的だといわれています。まずは、がんに罹ってしまったワンコのための処方食を試してみるとよいかと思います。もし、ワンコの食欲が低下している場合には、ちょっと大変かもしれませんが、お家で作るホームダイエットで食欲が増進することがあります。
・痛みのコントロール
がんの進行に伴い、痛みをコントロールすることはとても重要になります。痛みのコントロールは、薬剤で行うほか、鍼灸治療も効果的です。鍼灸治療でがんを治すことはできませんが、がんの進行を遅らせたり、痛みを緩和させる効果があるほか、手術や抗がん剤治療、放射線治療などと併用することにより、このような治療に伴う副作用を軽減させる効果も期待できます。
※ 注意:弱ってしまったワンコに何かしてあげたいという気持ちから、マッサージを試みる飼い主さんもおられるかもしれません。が、がん罹患時には、マッサージは禁忌なのでご注意ください
安楽死について
私が住むオーストラリアでは、動物の安楽死はほとんどの動物病院で日常的に行われています。病気や怪我により、苦痛をコントロールすることができない動物や、治療しても回復が望めない動物がほとんどですが、オーストラリアでは治療費が高いため経済的に治療が困難という場合や、問題行動などの理由により対処せざるおえない場合もあります。
日本では、動物の安楽死を実施している動物病院は多くないと思います。ので、ここで安楽死についてお話しするのはどうかと迷ったのですが、安楽死を選択することにより、苦痛を味わうことなく、安らかな最期を迎えた動物がいたことは事実なので、それについてお伝えさせていただきます。
がんだけではありませんが、重篤な病気では、進行に伴って激痛を伴うことがあります。そのような痛みは、薬で完全にコントロールすることはできず、動物は苦しみと戦うことになります。オーストラリアでは、悪性腫瘍“がん”と診断された場合や、回復が難しく、これから痛みが増していくことが予想される場合には、動物のクオリティオブライフ(QOL)を考慮したうえで、安楽死を選択する飼い主さんが多く、獣医師が安楽死を勧める(選択肢の一つとして)こともよくあります。実際に、がんなどで弱ってきた動物の安楽死に立ち会ったことは何度もありますが、家族に見守られ、激痛に苦しむこともなく、家族の腕の中で最期を迎えた動物たちをみたときには、これが最良の方法だったのかもしれないと思いました。
安楽死を推奨するわけではありませんが、そのような選択肢があるということを心の片隅に留めていただければ幸いです。
◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] The Role of Diet & Supplementation in Cancer Care – IVC Journal
[2] Acupuncture Can Manage Pain in Cancer Patients – IVC Journal
[3] Richard W.Nelson.,C.Guillermo Couto et .Small Animal Internal Medicine. 3th ed. Mosby. 2003.1018
[4] Theresa W F et al. Small Animal Sugery.2nd ed.Mosby.2002
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