犬のアトピー性皮膚炎とマイクロバイオーム

健康管理
この記事をシェアする

かゆっ!痒っ!、痒~いっ!10頭中1頭の割合で発生するといわれているワンコのアトピー性皮膚炎。そんなワンコを見守る飼い主さんはきっと辛い思いをされているかと思います。

今回は、最近発表された研究をもとに、犬のアトピー性皮膚炎とマイクロバイオームについてお話しさせていただきます。

マイクロバイオームとは何か

マイクロバイオーム!?あまり聞き慣れない言葉ですね。それもそのはず、マイクロバイオームとは、人の健康増進や疾患との関連性において最近注目され始めた新しい用語なのです。

マイクロバイオーム(microbiome)あるいはマイクロバイオータ(microbiota)は、「ある環境中の微生物あるいは微生物が持つゲノム情報の総体を指す用語」です。どちらも似たような話題の中で出てくる言葉ですが、厳密にいうと異なります。

私たち人間やワンコの体には、たくさんの微生物(細菌やウィルス、真菌など、肉眼で見ることのできない小さな小さな生命体)が生息しています。どのような微生物がどのくらい生息しているのかは、マイクロバイオータ(微生物相)で示されます。一方、マイクロバイオーム(微生物叢)は微生物がもつゲノム情報の総体を表す用語です。

これまでは、人や動物のマイクロバイオータを調べるためには、培養という方法しかありませんでしたが、近年はDNAや遺伝子を解析する新たな手法が次々と登場しています。これにより、どのような微生物がどの程度生息しているのかがより正確に把握できるようになり、マイクロバイオームと宿主の生理現象が極めて密接な関係にあることが示されつつあるのです。

犬にもあるマイクロバイオーム

2107 thewoof

image by Laula The Toller / unsplash

人だけでなくワンコにも、たくさんの微生物が住んでいます。お腹の腸内細菌がよく知られていますが、その他にも、臓器や皮膚など、体のいたるところに様々な微生物が生息しているのです。

微生物、特に細菌と聞くと「退治しなくてはならない悪いもの」というイメージをお持ちかもしれませんが、ワンコたちが健康に生きていくために、身体をシェアすべき微生物もたくさんいるのです。

では、退治しなくても良い微生物とはどんなものなのでしょう?彼らはワンコの健康にどう役に立ってくれるのでしょうか?今回は、アトピー性皮膚炎との関連性に注目し、犬の皮膚におけるマイクロバイオームについて概観してみます。

犬のアトピー性皮膚炎とは

 

外界には、細菌やウィルス、粉塵など、体に害を及ぼすような物質がたくさん存在しています。このような物質が体の中に入ると、体は“悪者(=抗原)”と認識して退治しようとします。これは抗原抗体反応という、私たちやワンコにとって必要不可欠な生理機能です。

アレルギーとは、特定の抗原(アレルゲン)に対して、抗原抗体反応が過剰に起こることを指します。

犬のアレルギー性皮膚炎には、食べ物がアレルゲンとなる食餌性アレルギー皮膚炎、ハウスダストや花粉、ダニなどを吸引することにより発生するアトピー性皮膚炎、食器(合成樹脂)やじゅうたんなど、外界の特定物質(アレルゲン)と接触することにより発生するアレルギー性接触皮膚炎があります。犬のアレルギー性皮膚炎の発生率はとても高く、東京の動物病院で行った調査によると、来院した全症例犬のうち、約41%は皮膚の病気が原因で、そのうち、およそ20%がアレルギー性皮膚疾患だったと報告されてます。

どのアレルギー性皮膚炎もマネージメントすることは大変ですが、特にアトピー性皮膚炎は、アレルゲンが環境中に存在するため、原因を除去することができず、悩まされている飼い主さんは多いのではないでしょうか。そして、この犬のアトピー性皮膚炎は皮膚疾患の中で最も発生率が高く、およそ10%の犬が罹患しているといわれています。

犬の皮膚のマイクロバイオーム

2107 2 thewoof

image by ATP Photographer / unsplash

犬の皮膚には、いろいろな常在細菌が生息していることが明らかにされています。

最近の研究、“The Skin Microbiome in Healthy and Allergic Dogs(健康な犬とアレルギー犬の皮膚におけるマイクロバイオーム)”では、犬の皮膚の各部位に生息する微生物の種類を調べると共に、健康犬とアトピー性皮膚炎犬の皮膚の微生物の比較が行われました。

研究者らはまず、健康な犬の皮膚にはどのようなマイクロバイオームがみられるのかを、犬の体の12箇所からサンプルを採取して調査しました。その結果、犬の皮膚には、予想をかなり上回る数・種類の微生物が生息していることがわかりました。また、被毛のある部位とない部位では、生息する細菌の種類はかなり異なることも明らかにされました。例えば、鼻の穴の中には、25~41種の微生物が確認されましたが、鼻梁(眉間から鼻先まで)では486~833種と、かなりたくさんの微生物がみられています。さらに、体の各部位により生息する微生物の種類と数は大きく異なること、そして、個体差がかなり大きいということも発見されました。これは、環境中微生物は、住んでいる場所や生活スタイルにより異なるためと考えられます。

次に、健康な犬とアトピー性皮膚炎の皮膚マイクロバイオームを調べたところ、体の各部位の皮膚に生息している微生物の種類はほとんど同じでした。しかし、アトピー性皮膚炎を患う犬の皮膚では、生息している微生物の種類が若干少なく、また生息する微生物の割合にも違いがみられました。つまり、健康な犬の皮膚の方が、たくさんの種類の微生物が住んでいるというのです。これは、どういうことなのでしょうか??

皮膚常在菌の変化がアトピーに関与か?

アトピー性皮膚炎の要因にはいろいろな因子が関与していると考えられていますが、その一つに、角質層のバリア機能低下があげられます。

人のアトピー性皮膚炎に関する研究によると、皮膚の常在細菌叢のバランスが崩れることにより、角質層の皮膚バリア機能に異常が生じると考えられています。

犬のアトピー性皮膚炎と皮膚常在菌についての研究はまだまだ始まったばかりなので確定的なことは言えませんが、もしかすると、犬のアトピー性皮膚炎の発生には皮膚常在菌の変化が関与しているかもしれません。

今後、犬の皮膚常在菌についての研究が進み、各個体に適切な皮膚常在菌バランスを整える方法や、これを維持する方法が解明されれば、アトピー性皮膚炎を含め、様々な皮膚のトラブル治療が一歩前進するかもしれません。
 


健康増進のためには、適当な腸内細菌バランスを維持することがとっても大切!これまで、数々の研究結果から、腸内細菌バランスの重要性については明らかにされてきました。私もその風潮に乗り、4年ほど前からプロバイオティクスやヨーグルトを欠かしたことはありません。そして、その恩恵を受け続けています。

ワンコたちの腸内細菌バランスを整える(善玉菌を増やす)方法として私がおすすめしているのは、犬用プロバイオティクスと繊維質(カボチャやサツマイモ)おやつを与える方法です。プロバイオティクスについては、『プロバイオティクスのマルチな効果~尿石症にもプロバイオティクス!?』で紹介しておりますので、ぜひそちらもご覧ください!

これからは腸内細菌だけでなく、皮膚の常在菌についてももっと注目されるようになるかもしれませんね。 

◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] The Skin Microbiome in Healthy and Allergic Dogs
[2] 園田開, 林屋早苗, 林屋牧男, & 長谷川篤彦. (2005). 一動物病院における犬のアレルギー性皮膚炎の発生状況. 獣医臨床皮膚科, 11(4), 199-204.
[3] Ursell, L. K., Metcalf, J. L., Parfrey, L. W., & Knight, R. (2012). Defining the human microbiome. Nutrition reviews, 70(suppl_1), S38-S44.
[4] 小野 憲一郎, 今井 壯一, 多川 政弘, 安川 明男 『イラストでみる犬の病気 (KS農学専門書)』(1996)講談社
[5] 川名林治ら 『標準微生物学』第3版, 医学書院

Featured image creditNatchaS/ shutterstock

the WOOF イヌメディア > すべての記事 > イヌを育てる > 健康管理 > 犬のアトピー性皮膚炎とマイクロバイオーム

暮らしに役立つイヌ情報が満載の「theWOOFニュースレター」を今すぐ無料購読しよう!

もっと見る
ページトップへ