褒めるドッグトレーニングとは

しつけ・トレーニング
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犬のしつけ教室、犬の訓練所、犬のようちえんなどなど、愛犬をおりこうさんにするための場所は沢山ありますが、訓練の方法はすべて同じではありません。

我が家で初めての犬を迎えた1985年ごろのトレーニングの主流は、一般的に「強制訓練(Force-based methods)」といわれるもので、嫌悪刺激を与えて犬を服従させようとする手法でした。リード(引き綱)を使って犬を押したり引っ張ったりするものでしたが、当時一般飼い主だった私は「プロがやっているのだから、間違いないやり方なんだ」と、信じて疑いませんでした。

しかし、それから10数年。代替わりした我が家の犬を自分でイチからトレーニングするようになって、私は「強制訓練では教えきれないことが沢山ある!」と気づいたのです。頭をかかえてしまいました。

そんなときに出会ったのが、陽性強化法でした。私が知っていた方法とは異なる「報酬をベースにした褒めるトレーニング法」に、私はどんどんハマっていったのです。

褒めるトレーニングとはなにか


image by 三井 惇 CPDT-KA, WanByWan

報酬をベースにした褒めるトレーニング(陽性強化法)とはどういうものなのでしょうか。

陽性強化法(Positive Dog Training)とは、「嫌悪刺激、特に痛みを伴うやり方を避け、適切な行動を誘導・強化する目的で快刺激を用いる方法[1]」のこと。

わかりやすく言い換えると、犬にとってご褒美となるトリーツ(オヤツなどの食べ物)を一次強化子、クリッカーや「Good!」や「おりこう!」などの褒め言葉を二次強化子として使って「正の強化」を行い、犬に人間にとって好ましい行動を学習させていくトレーニング方法です。

強化子とは犬にとって「報酬」となるもののこと。一次強化子(無条件性強化子)は「食べ物や遊ぶことなど、犬が本能的に好むもの」を、二次強化子(条件性強化子)は「本来犬にとっては無関係のものであるが、一次強化子と結び付けられることで犬にとって価値のあるものとなるもの」を意味します。両方を上手に組み合わせることにより、好ましい行動を犬に確実に伝えられるようになるのです。


嫌悪刺激(強制による体罰や大きな音など)を与えられて、好ましくない行動が一時的に出なくなったとしても、嫌悪刺激を与える人間がいなくなれば再びその行動は出現してくる可能性がありますが、正の強化によって身に付いた行動は、例えハンドラーが変わったとしても、褒められることがなくならない限り変わりません。

「正しい行動を覚える」うえでは叱るより褒める方が有効であるというのは、私のトレーナーとしての実感とも合致するものです。例えば、犬に「オスワリ」を教えようとするとき、犬のお尻を押さえつけながら座らせようと力を使うより、犬が自発的に座った瞬間を捉えて、「おりこう!」と声をかけておやつを一粒あげた方が速くオスワリを覚えてくれます。

ぴょんぴょん飛びついてかまって欲しいと要求する犬に、「飛びついたらイケナイ!」と叱り続けるより、飛びつき疲れて腰をおろしたその瞬間を褒めてご褒美(オヤツ)をあげた方が、「オスワリ」という行動はすぐ身に付くものです。

「出来たことを褒めて報酬を与え、犬も正しい行動を取りやすくする」というのが陽性強化の考え方です。「Aという行動をすれば必ず自分にとっていいこと(褒められる、ご褒美)があると犬に理解させると犬はAという行動が取りやすくなります。もしAという行動と相反する、人間にとって好ましくないBという行動をとる犬がいる場合にAという行動を陽性強化すれば、必然的にBという行動は出づらくなります。

つまり陽性強化法を使えばNG行動を正しい行動に”置き換える”ことができるのです。。叱ればNG行動は”引っ込む”かもしれませんが、時間の経過に伴い出てくることがあるうえ、「正しい行動」を教えていなければ、NG行動はいつまでも残りつづけます。

座るのを待つのは大変だと思われるかもしれませんが、犬だって疲れれば座ります。そのタイミングを狙って「強化」すれば、力を使わなくても犬に教えることができるというわけです。

褒めるトレーニングでは叱っちゃいけないの?

飼い主さんにも心地よい「褒めるトレーニング」は、ここ数年で大きく広まってきました。それに伴い、いくつか気になる解釈がされることも少なくないなぁと思っています。「褒める」という言葉だけがひとり歩きしてしまい、真の意味が置き去りにされてしまったように思えるのです。

ひとつは、「犬がどんな悪戯をしても叱らないで放っておかなくてはいけない」という解釈です。これは大きな誤りで、放置しても犬が正しい行動を学習することはありません。しかし、叱る必要はありません。「ダメ」「コラ」と犬を叱りつけたところで、正しい行動ができるようになるわけではないからです。

わたしたちのゴールは、愛犬にそのお宅に合った正しい行動をしてもらうことです。理想とするのが「帰宅したときにお座りをして迎えてくれる」ということであれば、「お座りをする」という正しい行動を教えてあげなければいけません。

犬も教えていないことはできません。放っておくのではなく、正しい行動がなんであるかを褒めることで教えてあげることが必要なのです。

もうひとつの誤りは「褒めるトレーニングは効果が薄い」というものです。覚えが悪いという人もいます。私が思うに、もし犬がこちらの希望通りの行動がとれなかったとしたら、まだきちんと身についていないというだけのこと。犬は一度や二度では物事を覚えません。学習には繰り返しが必要なのです。

正しい行動は毎日繰り返されることで確実に身についていきます。子供が九九を覚えように、毎日「ニニンガシ・・ニサンガロク・・」と声に出して繰り返すことで頭に入っていくものです。

必要なのは焦らず繰り返し教えることです。叱る必要はありません。

愛犬を叱らないでおりこうさんにする方法は?

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口で言うのは簡単ですが、実際やろうとするのはなかなか難しいものです。目の前で愛犬が困った行動をしているときに、どうやって愛犬を叱らずにいい子にしていくのでしょうか。

愛犬を叱りたくなる原因をいくつか紐解いてみましょう。

・教えたことをやらない
「オスワリ」や「マテ」を教えて家で出来るようになったのに、散歩中に言ったらやってくれなかった。ちゃんと教えたはずなのに。

・悪戯をする
留守中キッチンのゴミ箱を漁って部屋を散らかした。

・トイレの粗相をする
トイレでない場所でトイレをしてしまった。

・飼い主にとって好ましくない行動をとる
散歩で出逢った犬に吠えかかった。

このような場面に遭遇した時、「ダメ」「どうして出来ないの!」と声を荒立てる前に、以下のことを自問自答してみましょう。

・愛犬に教えたことが身についているか確認しただろうか
家の中で出来るようになったからと言って、周囲に多くの刺激がある外でも同じように飼い主の話がちゃんと聞こえているか練習はしてみましたか?

・愛犬が勝手にキッチンに入らないよう環境を整えていただろうか
美味しいにおいのするキッチンは犬にとっても魅力的。入らないようにゲートを付けるなどの工夫はしてありましたか?

・トイレの場所は愛犬にとってわかりやすかっただろうか
生後2~3か月の子犬であれば、トイレの回数は一日10回以上。間に合わずにトイレシーツにたどり着けない可能性も考えて、部屋の中に数か所用意してありましたか。
成犬であっても、トイレの場所をきちんと認識しているか確認してみましたか。

・なぜ吠えるのか理由を考えたことがあっただろうか
犬はしゃべる代わりに吠えて気持ちを伝えようとするので必ず理由があります。遊びたいから?怖いから?理由がわかれば対処することもできるはずです。

実際のトレーニングの場面では「繰り返しが足りなくて、犬が正しい行動を身につけていない」とか、「環境刺激が犬の行動を妨げている。」ということがよくあります。

犬を叱る前にまず、「犬が正しい行動を取りやすくしているか」を確認してみましょう。不十分だったところがあったのではないでしょうか。そうであれば、犬を叱ることはアンフェアなこと。実際には、愛犬を叱る必要はほとんど無いものです。

褒めるってどういうことなの?

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ここまで「褒める」ということについて書いてきましたが、「褒める」ということもきっちり理解されていないなと感じることがあります。

犬にとって褒められるということは、「君のやっていることは合っている。正解だよ。すごいね!私は嬉しい!」と言ってもらうことですが、人間と異なり言葉だけでは不十分です。

人間の言葉を正確には解さない犬たちは、単語の意味を正確にはつかんでいません(1000語も以上も記憶するチェイサーなどのスーパー・ドッグは除外します)。「イイネ」と言っても「ダメ」と言っても、褒められているのかわかりません。言葉だけでなく、声のトーン、表情、動き、オヤツなど、犬が理解できるシグナルを組みわせて、犬に「正しいよ」ということを伝えなければなりません。

たとえば、飼い主が嬉しそうなトーンをつかえば、言葉で褒められていることを理解しますし、そのとき犬にとって好きなもの、例えばオヤツやおもちゃが出てくれば、「正解」を出したことを確信するでしょう。

しかし、そのときの飼い主の言葉のトーンが低かったり威圧的であると、犬は褒め言葉と理解しないこともあります。また人間は褒めているつもりで頭を撫でようとしても、その犬が撫でられることを嫌っていればそれは褒めたことにはなりません。

「ご褒美」もおんなじです。愛犬にとってのご褒美は、一緒に遊ぶことだったり、散歩に出かけることかもしれません。愛犬が好きなものや好きなことを知ることではじめて、正しく「ご褒美」をあげることができるのです。

「褒めること」「ご褒美」の理解が不足していても、犬に正しい行動は伝えられません。何がご褒美になるのかは犬によって異なりますので、ぜひじっくりと振り返ってみてください。わからないときは、犬の専門家に相談してみると良いでしょう。


褒めるトレーニングは人間にとって好ましい行動を愛犬が取りやすくする環境を作り、結果愛犬が好ましい行動をとった時にすかさず褒めてあげることです。

体罰や怒号のようなネガティブな行動で愛犬の学習意欲を伸ばすことはなかなかできません。自分に置き換えてみてください。来るべきボーナス(お金とは限りませんが)があればこそ、働く意欲がアップしたりしませんか?

「褒めれば伸びる」は本当のこと。褒めて讃えて、愛犬をよきパートナーに育ててくださいね。

◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] 『ドッグトレーニングパーフェクトマニュアル』(2011)太田 光明, 大谷 伸代, チクサン出版社

Featured image credit 三井 惇 CPDT-KA, WanByWan

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