おうちの中での愛犬の居る場所は決まっていますか?
ソファ?お気に入りの床の上?自分のベッド?それともハウスやクレートでしょうか。どこが愛犬にとって一番くつろげる場所でしょう?
今日はそんな愛犬の居場所についてお話してみようと思います。
「ハウス」はいらない?
パピートレーニングでお宅にお伺いすると、どこのお宅にも必ずサークル(囲い)があり、その中にハウスや寝床とトイレスペースが配置されていて、子犬がトイレの失敗をしづらいように考えられています。とてもいいことなのですが、せっかく子犬のために用意したスペースなのに、なかなかサークルに入れたがらない飼い主さんがいます。いつも子犬をフリーにさせていたいということです。
また、トイレの失敗などがなくなってくると、サークルを外した後にハウスもなくしてしまい、ドッグベッドだけにしてしまうお宅もあります。
ハウスは本当にいらないのでしょうか?
住環境の変化とともに消えつつある「ハウス」
私が子供のころ(半世紀前)は、犬は庭(外)で飼うものという考え方が主流でした。
もちろん当時でも小型犬などは家の中で犬を飼われていましたが、中・大型犬のほとんどは庭で飼われていて、そこには当たり前のように犬小屋が置かれていたり、あるいは囲いの中に犬小屋があったりしました。
日中は庭の中を自由に動いていたり、あるいは犬小屋に繋がれた鎖の範囲を行き来していた犬たちも、夜になると誰に言われるわけでもなく犬小屋に入って寝ていました。
つまり、犬小屋は今でいうところの「ハウス」の役割を果たしていたのです。
時代はかわり、住環境の変化と共に犬の飼育環境も外飼いから部屋飼いへと様変わりしました。それにつれて犬小屋もあまり見かけなくなります。庭に犬小屋がなくなるのはもちろんのこと、”犬小屋”を室内に置く人はほとんどいなくなりました。
住環境の変化は、犬たちが自ら入って寝ていた場所(≒ハウス)の存在も脅かす大事件となったのです。
「ハウスに入れるのはかわいそう」は大きな間違い
家の中に犬の「ハウス」を置く人ももちろんいますが、ここではハウスの存在意義を考えるために、「犬はハウスに入れたくない」という飼い主さんに声に耳を傾けてみます。
犬をハウスに入れたくないとおっしゃる飼い主さんからは「隔離するのはかわいそうだから」という声が多く聞かれます。
確かに、人にかまってもらいたい子犬たちは、サークルに入れられて飼い主さんから隔離されると泣いたり吠えたりしながらアピールしてきます。子犬の場合は、(その家に迎えられるまでは)母犬や兄妹犬たちといつも一緒にいられたのですから当然と言えるでしょう。鳴かれてしまって「かわいそう」と思う気持ちはよくわかります。
ですが、人間と生活をしていく中では、犬はいつも人間と一緒にいられるわけではありません。たとえ飼い主さんが日中いつもおうちにいらっしゃる生活であったとしても、これから先片時も離れないでいることはできません。犬をおいて出かけることもあるでしょう。いつも犬の自由に任せて人と一緒にいられることを学習してしまったら、犬は一人でおいていかれることに大きなストレスを感じ、分離不安にならないとも限りません。その方がかわいそうではないでしょうか。
また、「狭い場所に入れるのがかわいそう」とおっしゃる方もいます。
人間目線からみれば確かに、「ハウス」は狭くて暗い場所です。かわいそうという思う気持ちもわかります。しかし、狭い場所は子犬にとっては全然かわいそうな場所ではありません。犬は狭くて暗い場所を好むものです。
我が家で繁殖した子犬たちは、昼寝の時間になると、ソファの下やピアノの下、ワゴンの下段など、狭くて暗い場所を選んで寝ていました。子犬の時期だけではありません。成犬になっても暗くて狭い場所は犬たちにとっては安心できる場所です。なぜなら出入口だけを見張っていればいいからです。
ハウスやクレートなどは犬たちには安心して寝られる場所でもあります。
我が家で母子3頭のボーダーコリーと暮らしていた時のこと。あまり広くはない我が家ですので、部屋に大きめのハウスを一台だけ置いてみました。うちではハウストレーニングをしたことはなかったのですが、愛犬たちは自然にハウスに入るようになりました。必ず誰かがその中で寝ていて、水を飲みに出てくると、その隙に別の犬がハウスに飛び込むといった具合にハウスが大人気でした。
犬にも、ひとりで静かに休む時間が必要です。
一般に子犬の睡眠時間は18時間ぐらいと言われています。最低でもそれぐらい寝ていないとちゃんと育たないということです。成犬でも15時間前後の睡眠時間が推奨されています。
元々、人間と比べて眠りの浅い時間の方が多い犬たちが、いつも人間のそばで過ごしていれば、当然満足な睡眠時間は得られないでしょう。
人間も睡眠時間が少ないとイライラしたり、集中できなかったりと弊害が出ます。犬も同じです。
ハウス利用は飼い主にもメリットがある
このようにハウスは、犬たちにとって安全で快適でゆったりできる大事な場所なのです。犬にとって良いだけではありません。飼い主にとってもとても非常に都合のいいものです。 例えば人間が食事をしているとき、元から人間の食べ物は関係ないものだと犬に教えてあればいいのですが、食卓からついつい食べ物を与えてしまったりすると、犬はいつももらえるものと学習し、テーブルの横で待つようになります。
待っていても何も出ないと学習すればいいのですが、そうでない場合、よだれで床が水浸しになったり、そばで要求吠えをされたりと、犬にも人にもストレスが増大します。
そんなときこそハウスの出番!ハウスに入れてあげることで、お互いのストレスを軽減させることが出来ます。
また、チャイムで興奮する犬のトレーニングにも、ハウスは大活躍です。インターホンが鳴った時に我先に玄関に吠えながら飛び出していく犬に「ハウス」を教えてあげれば、来客への飛びつきを防ぐこともできます。
旅行先でも活用できます。ホテルの部屋において出かける場合も「ハウス」を活用することで、悪戯をされるのではないかと心配する必要がありません。
ここ数年は、災害時の同行避難の準備としても「ハウス」に慣れさせてあげることはとても有効になってきています。
つまり「ハウス」はメリットばかりでデメリットはないのです。
単に人間の思い込みで「かわいそう」と決めつけてしまうのではなく、犬にとっての「ハウス」の重要性と日常生活でのメリットをもう一度考えてみていただきたいなと思います。
ハウストレーニングは難しくない
ハウスの有効性はわかっていても、ハウストレーニングがうまくできないというお話をよくお聞きします。
確かに、犬たちは隔離されてしまうのではないかと尻込みしたり、初めての場所は警戒したりするでしょう。
そういう場合は、犬が自分から入りやすいような環境を作るところからスタートしてください。まずは「ハウス」に慣れさせることから始めましょう。
- オヤツやフードをハウスの中に入れて、ハウスに興味を持たせましょう
- はじめのうちはドアを閉めずにハウスの中に食べ物を継続的に入れて自分から入っていくように仕向けます 中に入ってぐるっと回れるようになったら、ハウスの中の犬に直接食べ物をあげます
- 中でごはんを食べさせるのも良いでしょう。慣れてきたら食べている間に、一瞬ドアを閉めて様子を見るチャレンジをするのもオススメです
「ハウス」がなんとなくいい場所だと認識するようになったら、
- 散歩のあとやトレーニングのあとなど、犬が疲れたタイミングを見計らって、少しの食べ物と一緒に犬を中に入れてドアを閉めてみます
- ハウスの外が気になるようでしたら、ハウス自体にカバーのように何かをかけて目隠しをしてもいいでしょう
- 少しずつ滞在時間が伸びてきたら、中に入っているときに食べ物を追加で渡してみたりするのもいいでしょう
要はハウスが落ち着いて寝られる場所と犬に認識してもらうことですから、ストレスを感じていそうなときは早めにドアを開けて、少し時間をあけてからまた練習します。
ポイントは、「ハウス」を嫌な場所にしないこと。「ハウス」に追い詰めたり、悪戯をした罰に「ハウス」に閉じ込めたりしないことです。
ハウスが安全とわかれば自分から入って休めるようになりますし、犬たちが集まるようなイベントのときでも、ハウスの中で落ち着いて過ごさせてやることもできるでしょう。
ハウストレーニングは多少の根気と時間は必要ですが、一度ハウス好きになってしまえば、犬は自分から中に入って落ち着くことが出来るようになります。
一人で留守番をするときも、家の中すべてを警戒する必要がなくなります。そして、犬の「ひとりでいたい」という気持ちを尊重することもできます。
愛犬のために、是非ハウスを活用してみてください。
Featured image : 三井 惇 – WanByWan