ヘアレス〜毛が少ない”裸の犬”はなぜ生まれるのか

犬のカラダ
この記事をシェアする

犬といえばみなさん、長い短いにかかわらず毛におおわれたワンコを想像すると思います。しかし犬の中にはヘアレスと呼ばれる体に毛のない(あるいは一部にしか生えていない)犬がいます。

可愛らしいけどちょっと違和感を覚えるへアレス犬の誕生にも、遺伝子は大きく関わっています。

体に毛がない犬がいる

  • Chinese crested dog- Anna_Bondarenko / Shutterstock

現在世界中に400種以上の犬種が存在するなか、全身ほぼ毛がない、あるいは頭部や尻尾など体の一部にしか毛が生えてこないヘアレス(hairless)の犬たちが4犬種存在しています。チャイニーズ・クレステッド・ドッグ、メキシカン・へアレス・ドッグ、ペルービアン・へアレス・ドッグ、そしてアメリカン・へアレス・テリアです。

これらの犬たちは、同じヘアレスという見た目を持ちます。ヘアレスであることに目が行ってしまいがちですが、いずれの犬種もヘアレスタイプの個体だけでなく、全身に毛が生えているパウダーパフ、コーテッドなどと呼ばれる個体の両方が存在しています。

4犬種しかいないヘアレス・ドッグですが、チャイニーズ・クレステッド・ドッグ、メキシカン・へアレス・ドッグ、ペルービアン・へアレスの3犬種とアメリカン・へアレス・テリアとでは、ヘアレスになる遺伝背景が異なることが明らかにされています。

起源の古いヘアレス・ドッグ3犬種

チャイニーズ・クレステッド・ドッグ、メキシカン・へアレス・ドッグ、ペルービアン・へアレスの3犬種はいずれも起源が古く、共通したヘアレス遺伝子を持ちます。そのことは、この3犬種が誕生するより前に存在していたヘアレス・ドッグが共通の祖先になっていることを示唆しますが、どのようにして世界各国で誕生したこれらのヘアレス・ドッグたちにヘアレス遺伝子がもたらされたのかは分かっていません。

これら3犬種は、FOXI3(forkhead box transcription factor)と呼ばれる、外胚葉がさまざまな組織に分化していく際のレギュレーターとして働く遺伝子に変異が起きています。外胚葉とは胚発生のごく初期に存在する層で、おもに神経系や歯や爪、体の表面に存在する皮膚や汗腺といった組織へと分化していきます。FOXI3に変異が起こると正常に各組織を作っていくことができないため、ヘアレスという体に毛が生えない状態になるばかりか、歯の数が足りず(欠歯)、歯の形や歯並びにも異常がある状態で生まれてきます。

この遺伝子変異は優性の形質のため、両親いずれかからヘアレス遺伝子を受け継げば子はヘアレスとなります。しかし問題なのは、両親それぞれからヘアレス遺伝子を受け継いでしまうと、胎内で正常に成長することができずに胎生致死となる点です。つまり、FOXI3変異遺伝子は致死遺伝子だということです。


Mexican hairless dog – image by dogboxstudio / Shutterstock

そのため、これら3犬種には必ず毛の生えるタイプの個体が存在しています。ヘアレス同士の交配を続けていけばいずれこれらのヘアレス犬種は絶滅してしまうことにもなりかねません。しかし裏をかえせば、先人たちはヘアレス・ドッグの繁殖における状況を経験的に知っていたのでしょう。だからこそ、毛の生えるタイプの犬も同時に大切にしてきた結果、ヘアレス・ドッグは今もなお犬種として存続することができているのだと思います。

たとえば過去の秋田犬のように、むく毛(長毛)で生まれてきた子犬が淘汰されてきたのとはまた違い、これらのヘアレス・ドッグは交配に気をつけないと、生まれてくることすらできない状況を作ってしまう可能性があります。ヘアレス・ドッグですので、ヘアレスであることが珍重され、好まれてきたことは想像に難くありません。ですが、ヘアレスの健康を支えてきたのは毛の生えるタイプの犬たちの存在があってこそだということを忘れてはならないと思っています。

新しいヘアレス犬種、アメリカン・ヘアレス・テリア

アメリカン・ヘアレス・テリアはラット・テリアからまれに生まれるヘアレス個体をもとにつくりだされた犬種で、2016年にアメリカン・ケネル・クラブで公認されたとても新しい犬種です。


American hairless terrier – image by Zuzule / Shutterstock

アメリカン・ヘアレス・テリアのヘアレス個体は、生まれた時からヘアレスではなく、全身柔らかな毛がまばらに生えている状態で生まれてきます。生後、毛周期が1周する2か月ほどのうちにすべての毛が抜け落ちていき、その後はずっと毛が生えてくることがないという特徴を持ちます。

アメリカン・ヘアレス・テリアのヘアレスは以前より劣性遺伝するといわれていました。そして、その原因となる遺伝子がSGK3(glucocorticoid regulated kinase family member 3 gene)であることが分かったのは2017年のことです。SGK3遺伝子はこれまでにマウスの研究から、出生後の毛包発達に重要な働きをすることが示されています。SGK3遺伝子の変異により正常な働きができないタンパク質がつくられることで、アメリカン・ヘアレス・テリアは生後の毛包発育がうまく行かず、毛が抜け落ちていきヘアレスになると考えられています。

ヘアレスになる原因遺伝子も違えば遺伝形式も違い、さらにアメリカン・ヘアレス・テリアは前述したヘアレス3犬種のように歯の形成異常を見せることはありません。このように、見た目にはヘアレスという同じ特徴を持っていても原因となる遺伝子が違うことで、それ以外に及ぼされる影響も特徴も異なってきます。

コーテッドを見れば、毛質遺伝の背景がわかる


Chinese crested dog – image by Lenkadan / Shutterstock

ヘアレスタイプのチャイニーズ・クレステッド・ドッグの胴体には毛がありませんが、頭部や尻尾、足先に長くてふんわりした毛が生えています。全身に毛が生えるパウダーパフの個体を見れば一目瞭然、ヘアレス個体はパウダーパフタイプの胴体部分に毛が生えていない状態であることが分かります。ヘアレスになるかならないかとは別に、チャイニーズ・クレステッド・ドッグは長毛になる遺伝子とワイアーになる遺伝子の両方を持つ形で固定されているからです。


Peruvian hairless dog – image by marktucan / Shutterstock

一方、メキシカン・へアレス・ドッグとペルービアン・へアレス・ドッグのコーテッドの個体はいずれもスムースコート(短毛)。アメリカン・ヘアレス・テリアのコートを持つ個体は、祖先となったラット・テリアと区別がつかないくらいです。コーテッドのタイプが短毛であるため、ヘアレスタイプは額など頭部の一部に毛が生えているとしても、チャイニーズ・クレステッド・ドッグのようなふんわりした毛には決してなりません。

世界にたった4犬種しかいないヘアレス・ドッグ。古くからの犬種にもかかわらずヘアレスという表現型を持つ犬種が少ないのは、ほかの犬種に比べて血統を維持していくことが難しかったからに他ならないと感じます。ヘアレスという特徴の遺伝背景を知ると、今のように遺伝のイロハも存在していなかっただろう時代から人々が大切に守り続けてきた犬種であることをあらためて感慨深く思うものです。

◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Drögemüller, C., Karlsson, E. K., Hytönen, M. K., Perloski, M., Dolf, G., Sainio, K., … & Leeb, T. (2008). A mutation in hairless dogs implicates FOXI3 in ectodermal development. Science, 321(5895), 1462-1462.
[2] Parker, H. G., Harris, A., Dreger, D. L., Davis, B. W., & Ostrander, E. A. (2017). The bald and the beautiful: hairlessness in domestic dog breeds. Phil. Trans. R. Soc. B, 372(1713), 20150488.

Featured image creditTatyanaPanova/ shutterstock

the WOOF イヌメディア > すべての記事 > イヌを知る > 犬のカラダ > ヘアレス〜毛が少ない”裸の犬”はなぜ生まれるのか

暮らしに役立つイヌ情報が満載の「theWOOFニュースレター」を今すぐ無料購読しよう!

もっと見る
ページトップへ