皆さんこんにちは! 読書犬のパグ・ぐりです。あけましておめでとうございます。
今年もたくさん犬本や犬DVDをご紹介していこうと思いますので、どうぞよろしくお願いいたしますね。お正月休みはいかが過ごされましたか? 僕はのんびり本読んだりテレビ見たり、新聞読んだりしていました。
大人向きの絵本?
お正月第一弾は、絵本です。でも、絵本といっても内容がとても深いので、どちらかというと大人向きかなと思っています。
『あっ!』(原案:宮本亜門 文:松堂今日太 絵:今中信一 講談社 2005年)は、海辺に置き去りにされた一匹の雑種犬が主人公です。この犬は、「ごしゅじんさま」を探して、ずっと、ずーっと歩き回ります。町にいるのかな? いない。あのアパートには? いない。
歩きながらこの雑種犬はいろんな犬に出会います。ドレスを着た犬は、おとこのこ。筋肉隆々のおんなのこ。ごしゅじんさまには会えないけれど、こういう犬たちには出会えました。
常識を疑ってみて
おとこのこもドレス? それもいいね(p.13)
ドレスを着た犬に出会った主人公はこう言います。べつにおとこのこだからといってドレスを着ちゃいけない、っていう決まりはないもんね。筋肉質なおんなのこだって素敵だよね。そう、この本にはちょくちょく、今まで何も考えずに信じていたことを問い返してくる部分が出てきます。
常識と思っていたことへの問い返し。これは結構大事なことかもしれないな~って読みながら思いました。人間の世界でも、LGBTが話題にのぼることが多くなってきたけれど、誰もがみんな同じではなくて、人それぞれにいろんな特性を持っている。それは犬の僕たちも一緒。だから、自分が「常識」と思っていることが他の人にとっても常識だとは限らないって、肝に銘じなくちゃいけないんだろうね。
主人公はいくら探し回っても「ごしゅじんさま」には再会できません。でも、とうとう自分の家を見つけるの。そしてその家に入ろうとしたその時、自分がどうして海辺に置いてけぼりにされたのかを、急に思い出すのです。
それは悲しい記憶でした。二度と自分の家には戻れないくらい、辛い記憶でした。詳しくは本書で確認してくださいね。
そうしてトボトボとまた海辺に戻ってきた主人公。そこで前に会ったことのある、自分によく似た雑種犬に再会します。この犬は自分がきたない雑種だからいじめられていたと告白。それを聞いた主人公は思わず言うのです。
そんなことないよ きみの このままが すてきだよ!(p.30)
そして自分のこの言葉にハッとするのです。
ありのままを受け入れる
自分が欠点だと思っているところが、実は素敵な個性だったり、嫌だと思っている部分がチャームポイントだったり。そういうことはよくあるのだと思います。でも犬も人も、ついつい悲観的にとらえてしまうのが悪い癖。この本に出てくる雑種犬たちもそうでした。
だけど一方で、自分が着たければ男でもドレスを着る。女で筋肉質だっていいじゃない。「かっこいいでしょ?」と言えるくらいの自己肯定感をもつ犬たちは、なんというか、その気持ちが本当にかっこいいよね。自分のありのままを受け入れて、進んでいくのって素敵なことだなと思わされました。
主人公が探していたのはごしゅじんさまではなかった。ありのままの自分を受け入れるっていうことだったんだね。この絵本の大きなテーマはそこでした。
この本の原案を考えたのは宮本亜門さん。実話に基づいているそうで、そのストーリーがカバーの折り返し部分に書いてあるのでそちらも必読です。そして、原案、文、絵、それぞれを担当した人たちが、プロフィールの最後に「自分を犬にたとえると・・・・」というのを書いています。これがなかなか面白いよ。犬本書く人たちみんなに、これ書いて欲しいな~って思いました! 読者の皆さんは、自分を犬にたとえると、何犬だと思いますか? そんな想像も楽しみながら、読んでみてくださいね。
・追伸
実は、この絵本を読んだ直後に、『にじいろガーデン』(小川糸著 集英社 2014年)という本を読んだの。レズビアンカップルとその家族が主人公なのだけれど、これがまたすごくよかったんです。この『あっ!』と通じるテーマで、こちらもぜひ読んでいただきたいです。ちなみに、犬は、ほんのちょっとだけ出てきます。3匹。どこで出てくるか、楽しみに読んでみてくださいね。
講談社
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