読書犬”ぐり”はこれを読む!『犬部!』〜北里大学獣医学部、全力動物保護の記録

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みなさんこんにちは! もう初夏といっても良い季節。お弁当持ってピクニックなんて、いいですね~。

最近はキャンプもはやっているみたいですが、僕は未経験。いつか行ってみたいな。自然の中で、ゆったりするのって、いいんだろうなあ…(遠い目)。もちろん本を持って行って、ゆったり読むんだ。至福の時間になりそう。

実はノンフィクション作品

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現在は新しい家族のもとで暮らしています © 北里しっぽの会愛好会
キャンプに行けなくても、家で読書、していますよ。最近も面白い本に出合ったので紹介しますね。今回は『犬部!』(片野ゆか著 ポプラ社 2010年)です。この本、表紙右上に、”北里大学獣医学部”って書いてあるの。だから最初、「もしかしてあの、『動物のお医者さん』とちょっと似た感じなのかな?!」と思ったりしました。『動物のお医者さん』も大学の獣医学部が舞台だったから。

でもね、まったく違ったの。まずこの本はノンフィクション。北里大学獣医学部・青森県十和田キャンパスで動物愛護活動をしているクラブの記録です。発足当初の正式名称は”北里大学犬部愛好会(のちに北里しっぽの会愛好会に名称変更)”。行き場のない犬や猫、うさぎなどを保護して新しい飼い主を探す活動をしていました。僕はこれまでも、動物保護活動をしている団体や個人の本をいくつか読んできましたが、大学が舞台の物語は初めて読みました。

犬部の設立は2004年。初代代表の太田快作さんは、この十和田のキャンパスに来てから、困っている犬や猫に何度も遭遇します。そのたびに自宅に連れ帰り、世話をして新しい飼い主を探したそうです。

でも犬部を設立する以前の大田には、動物保護活動をやっているという意識はほとんどなかった。
目の前の動物を救いたい。
動機は、ただそれだけだった。(同書 p29)

そう、もともと保護活動を目的として犬部を設立したというよりは、太田さんがこういう思いで動物たちを助けていて、自宅で大事に世話をし、元気になった犬や猫が新しい飼い主と出会って新生活を始めたり、偶然元の飼い主のもとへ返すことができたりという経験を重ねて、獣医学部の他の学生ともこういう経験を共有したいと思い、犬部を設立しました。

多くの賛同者の協力を得て

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困っている動物を見過ごせない © 北里しっぽの会愛好会
犬部で保護する動物は、50~80匹にのぼります。犬部を知る人から「道端で迷い犬を見つけた」「子猫が捨てられている」などの連絡を受けると、学生部員が動物を保護し、その動物の担当部員を決めます。大学付近のアパートは動物が飼えるところが多く、学生たちは自宅で、可能な頭数の動物を世話するのです。獣医を目指しているといっても、全員が犬や猫の飼育経験があるわけではありません。犬は飼ったことがあるけれど、猫はない、またはその逆、というパターンも多く、中には実家が集合住宅だったため、これまで飼育経験がまったくない、という部員もいました。でもみんな、1匹でも多くの動物に幸せになってもらいたいという気持ちがあり、どんなに難しい子でも親身になって世話をするのです。

そして、保護活動と共に譲渡会を開催し、新しい飼い主を探す活動もしています。そうそう、この譲渡会、大学近くのコンビニの駐車場でも定期的に開催するのですが、それもコンビニ店主が犬部の活動に理解を示し、応援してくれているから出来るものなのです。いろんな人の協力あっての活動なのですね。そうした譲渡会に自分が世話をしている子を連れていっては、「新しい飼い主が見つかってほしい」「でも、見つかったら見つかったで、ちょっと寂しい」という複雑な思いを抱える部員も少なくありません。そのくらい真剣に面倒をみているから。

犬部では新しい飼い主と出会い、その飼い主に引き取られることを”卒業”といいます。ただ、面倒を見続けて、最終的に自分で飼うことを決めるパターンも少なくありません。

すわ!廃部か!?

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説明にも力が入ります © 北里しっぽの会愛好会
こうした犬部の活動は年々活発になっていき、部員数も増えていきます。ですが、そのまま順風満帆に続いたわけではありませんでした。ある時、部員が世話をしていたムックという保護犬が部外者を咬んだというメールが部員全員に流されました。しかし、そのムックがどういう経緯で保護され、今までどのように世話されてきたのかが記録されていないことが発覚したのです。

当時の部長は獣医学科3年の名護真由美さん。彼女はこの事件後、犬部内の運営体制に大きな欠陥が出て来ていると感じ、活動を無期停止にします。そして、なぜこのようなことが起こったのか、犬部をこれからどうすればよいのか。部の目的や、継続するのであれば、活動態勢の整備を、部員と話し合いながら考えるのです。

こうした出来事は、一般の動物保護団体ではあまりないことかもしれません。つまり、創設者がいなくなる(卒業していく)というのは大学ならのことだからです。創設メンバーがいた頃は部員数もそれほど多くなく、各個人が使命感を持って活動していたものの、年数がたつにつれて組織が大きくなり、意思疎通が困難になった部分もある。また、全生活を投げ出してでも、と保護活動に力を出してきた世代とは違い、保護活動もしたい、でも自分の生活も犠牲にしたくない、と考える部員もいる。いろいろな状況にぶつかり、頭を悩ませた犬部員たちが、最終的に出した結論は? ぜひ、本書で確かめてみてください。

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会場には笑顔がいっぱい! © 北里しっぽの会愛好会
この本の大部分は、犬部の人と保護された動物のいくつものストーリーであり、それはそれでとても読み応えがあるのですが、僕が興味を持ったのは、こうした部活動の組織運営や大学生たちの思いの部分でした。

目的がよくても、どうやって実行していくかを十分に練ることがどれほど大事なことか。情熱だけでは解決できない問題に直面したとき、学生たちがどう動いたか。筆者の片野さんは、まさか犬部が活動停止になることなど予想もしていなかったそうで、ある意味この本はこうしたことも包み隠さず記録した、貴重な読み物であるとも言えるでしょう。


犬部!

犬部!

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※ 写真はすべて北里しっぽの会愛好会よりご提供いただきました。この時の譲渡会の開催場所は道の駅とわだ。しっぽたちを支える力強いサポート組織の一つです。

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