あるおじいさんをめぐる、不思議な物語~『賢者はベンチで思索する』

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皆さんこんにちは! WOOFOO天国出張所の読書犬、パグのぐりです。お元気ですか?

秋は絶好の行楽日和。紅葉狩り、ブドウ狩り、リンゴ狩り…あれれ、ついつい食べ物に(笑)。皆さんも秋を存分に楽しんでくださいね。あ、もちろん、読書も!

大安の「アン」

賢者はベンチで思索する

今回は、犬も登場するのですが、人物描写が素晴らしい小説をご紹介します。『賢者はベンチで思索する』(近藤史恵著 文藝春秋 2005年)は、専門学校を卒業し、ファミリーレストランでアルバイトをしている七瀬久里子が主人公の小説です。

久里子は服飾関係の仕事に就きたいとその方面の専門学校に通いましたが、卒業を前にして、希望の職種にはことごとく就けず、だからといって他の仕事に就くのも気乗りせず、でも何もしないのもちょっと…ということで、実家に暮らしながら、ファミレスでアルバイトをしています。このままじゃいけないと思いつつも、現状を打破できない、そんなモヤモヤを抱えながらも、毎日、バイト。

久里子の弟・信は浪人2年目。昔は活発な男子でしたが、活発すぎて中学時代にある問題を起こし、それがきっかけで高校に上がってからはすっかり昔の面影はなくなり、大学受験にも失敗。実家に暮らしながら昼夜逆転の生活で、ほとんど引きこもり状態です。

この二人の両親は時々チクチクと娘に苦言を呈し、息子の先行きをうっすら心配しながらも、毎日を淡々と暮らしていました。しかしそこに、ひょんなきっかけから犬がやってきます。雑種の「アン」。大安の日にやってきたので「アン」。す、すごい命名。

ミステリアスな老人

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image by Michael Gil / Flickr

このアンの散歩をしていた久里子は、ある日公園で不思議な老人に出会います。国枝という名前の男性は、実はファミレスの常連客でもありました。毎日午後の店のすいた時間にやってきては、同じ席に座り、コーヒーだけで何時間も滞在するお客さんです。

ただ、久里子が不思議だったのは、店にいるときの国枝は、すごく年とって見えたのに、公園にいる国枝は、若々しく、久里子の質問にも的確に答えてくれる、まるで同一人物ではないように感じたのです。実はこの不思議、物語の重要なポイントです。でも詳しくは書けません。本書でご確認を!

公園では、散歩中の犬が毒物を誤って食べてしまったりという、残虐な事件が発生。アンもその罠にかかってしまい、動物病院へ急行。なんとか一命はとりとめましたが、久里子はこれをなんとか解決できないかと国枝にそうだんします。そして、国枝はいろいろな手を使って見事に解決するのです。

その事件解決の時に国枝がパートナーとしていた保護犬を、いろいろあって久里子が引き取ることになり、七瀬家には「アン」と「トモ」が暮らすように。そう、友引の日に来たから「トモ」なのです。

いったい彼は誰なのか?

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image by Christina Hart / Flickr

これをきっかけに、久里子は、悩みがあると公園へ行き、国枝を探すようになりました。しかし、ある時から国枝が姿を消します。

そして、久里子のバイト先のファミレスのすぐ隣の家で誘拐事件が発生し…

ここからは息をのむ展開。いったい誰が犯人なのか? 国枝か? いや、でも…。警察も動き出し、国枝の素性が徐々に明らかになっていき、久里子はびっくりの連続。国枝は、悪者なのか? 公園で会っていたときの彼は、そんなに悪い人とは到底思えなかったけれど…と、混乱する久里子。

なぜ国枝は、毎日同じ時間に同じ席に座ってファミレスでコーヒーを飲んでいたのか。なぜ、ファミレスでの彼と、公園での彼は、まったく別人のように見えたのか。久里子、そして読者がもつ謎が、最後の最後にドーンと解かれます。そして、本当の悪者が誰であったのかが明かされる。

推理小説は大好きですが、こういう読後感の小説は初めて読んだ気がしました。どんな読後感か? それは皆さんも読んでみてから味わってみてください。なんでもない日常で、どこにでもいそうな主人公なのですが、その物語は味わい深く、そして感動的ですらあります。


賢者はベンチで思索する
近藤 史恵
文藝春秋
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Featured image credit Christina Hart / Flickr

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