【犬本紹介】『さよなら、アルマ』一枚の出征写真から生まれた物語~軍用犬アルマと家族たち

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こんにちは! ぶどうがおいしい季節ですね!

我が家のSちゃんは無類の果物好きで、この季節は特に嬉しいみたいです。手をむらさき色に染めながら、葡萄をもくもくと食べているよ。食欲の、秋ですね~。

一枚の写真がきっかけで

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アルマ from NHKドラマ『さよなら、アルマ~赤紙をもらった犬~』より / amazon.co.jp

こんなにおいしいものを、食べられる今の時代に生きられること。これってすごく幸せなことなんだな、と思わされた一冊を今月はご紹介します。

さよなら、アルマ』(水野宗徳作 pon-marsh絵 集英社みらい文庫 2015年)は、戦争の時代にあった、ある一匹の軍用犬をめぐるフィクション作品です。

今から10年以上前、作者の水野さんは、ある昔の雑誌に載っていた軍用犬アルマ号の写真を目にします。「祝出征アルマ号」と書かれたのぼりの隣に、寄せ書きされた日の丸を首にまいた一頭のシェパードがりりしく座っている写真です。その写真がきっかけで軍用犬について調べ、小説としてまとめたのがこの本です。

時は第二次世界大戦のころ。主人公は国民学校(当時小学校はこう呼ばれていました)4年生の健太。妹の千津(チッチ)と両親の4人家族です。ある日健太の父親が小犬を連れて帰ってきます。シェパードの子犬でした。健太の父親は軍人で、その後中国へ出征します。留守宅をしっかり守ろうとがんばる健太。一方アルマという名のシェパードはすくすくと大きくなり、子どもたちと大の仲良しになりました。

ある日、戦地へ行っている父親から荷物が届きます。子どもたちへのプレゼントと共に入っていた手紙の最後には、こう書いてありました。

『追伸 私はまだしばらく帰れない。アルマは、犬にくわしいかたにゆずりなさい』(p.39)

父親はアルマを軍用犬、つまり戦地で人とともに働く犬として育てるつもりでいたのです。しかし、自分の帰国がなかなかかなわないとわかった時、大きくなっていくシェパードを子どもと母親だけで面倒をみるのは大変だろうと予想し、上記のような言葉を書いて送ったのでしょう。

すでにアルマは家族の一員と思っている健太は、納得がいきません。「僕がアルマを軍用犬に育てればいい」と意気込みます。でも小学生にはなかなか難しく…。

結局健太の担任の先生の力も借りて、アルマは近所に住む犬に詳しい朝比奈太一という学生に任せることになりました。太一は小さいころから無類の犬好きで、名前の点の位置を間違えたのだと、みんなから“犬一”と呼ばれているほどでした。犬の気持ちを想像して犬と接するので、犬の信頼を得られるのです。

太一は金物屋の房子おばさんの家に下宿していましたが、おばさんも了解してくれて、アルマの面倒をみることになりました。

健太とチッチも近所なので、すぐにアルマに会いに行くことができます。太一も含めてみんなでよく河原で遊んだり、訓練をする日々が続きました。

アルマを戦地に行かせたくない

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image by USMC Archives / Flickr

その後、次第に戦況が悪化。人間の食事さえ準備するのが大変になってきたこの時代にも、シェパードは大型犬ですから、毎日かなりの量の餌を食べます。太一は餌を工面するのが大変になってきたこともあり、アルマが満足な食事を摂れるようにするため、軍用犬になるための適性試験を受けさせることを考えます。軍用犬になれば、軍から必要な食糧も支給されるからです。そして健太にもその話をするのです。

ちょうどその頃、健太の家では大変なことが起こっていました。父親の同僚から送られてきた手紙には、父親がいた部隊がほぼ全滅したこと、健太たちの父親の安否も確認できないことが書かれてあったのです。そのことを母親から聞いた健太。あんなに強いお父さんが、そんなことになるはずがない、と最初は信じられなかったのですが、母親の話にとうとう現実を受け入れざるを得なくなります。

そして、もしアルマが軍用犬の適性検査に受かって、戦地に行ってしまったら、もしかしたらお父さんのようになってしまうのではないか…と思いはじめます。そして健太は軍用犬の適性検査を受けるアルマにあることをしようとするのです。

太一の視点で書かれたもう一冊

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image by Scott / Flickr

いろいろなストーリーが重なって物語は進むのですが、アルマは戦地に出向きます。その後のことはこの本に詳しくは書かれていません。でも、あとがきを読んでいたら興味深いことが書いてありました。実は、この本は2015年に出版されているのですが、その5年前、2010年に、朝比奈太一の視点から書かれた『さよなら、アルマ』(水野宗徳著 サンクチュアリ出版 2010年)が出版されているというではないですか。

僕はさっそくその本も読んでみました。なるほど、集英社の本では、子どもの健太の視点から書かれていた小説が、学生とはいえ、大人の太一の視点から書かれているとまた違った味わいがありました。そして、出征していったアルマ号のその後についても詳しく書かれています。

2冊とも、子ども、親、学生、商売人、そして犬。彼らの暮らし、そして人生(犬生)に戦争がどんな影を落としたのかが、わかりやすい言葉で書かれた本です。今も世界各地では戦争が続き、子どもや女性、そして動物たちも命を落としています。国と国、または民族と民族の争いをどうすれば止められるのでしょうか。僕たち犬の命は、人の行動にかかっています。

アルマもそうだったけれど、生きる時代や国によって命が左右されるのは嫌。犬も人もみんなが幸せになるために、どうしたらいいのかなあ。これらの本には「戦争はいけない」「戦争反対」とは書かれていていないけれど、読み終わった時には、やっぱり平和が大事と思わされました。

少し昔が舞台の物語ですが、自分や自分の飼い犬さんに健太やアルマを重ねて読んでみてくださいね。


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Featured image credit Ronoli / Flickr

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