犬に話しかけるとき、「かわゆーでちゅねぇ」「もうネムネムでしゅ?」などと、甲高い声を出してしまうというのは犬親あるある。側から見ると気味が悪いであろうこの声は、どうやら”普通の行動”によるものであり、しかも子犬たちにしっかり届いているようなのです。
愛犬家をちょっとホッとさせる論文は、”Proceedings of the Royal Society B”誌に発表されました。
甲高いトーンの話しかけは、自然な行動
研究を行ったのは、米国、英国、フランスの心理学者(脳科学者)たち。私たちがペットに語りかける言葉やトーンが、幼児に話しかける方法と似通っていることに着目し、なぜこうした話しかけをしてしまうのか、また犬たちにどういう影響を与えるのかを明らかにしようとしました。
研究は2つのパートに分かれます。最初の実験では、女性の研究協力者に犬の写真に向かって話しかけてもらい、これを録音するというものです。犬の写真は(1)子犬、(2)成犬、(3)老犬、の3種類で、「イイコ!」「こっちおいで、かわい子ちゃん」などの決まったセリフを語りかけます。このほか対比のために(4)普通のトーンでも語りかけをしてもらい、これも録音しました。
結果、(4)の普通のトーンと比較して、犬の写真に向けた語りかけは、話すスピードはゆっくりで声のトーンは高いことがわかりました。とりわけ(1)の子犬に向けた語りかけでは、声のトーンが21%も高くなったそうです。話者が自然に話し方を変えるという結果について研究者らは、「言葉の通じない聞き手とのやりとりを促進するための自発的な行動ではないか」と推察しています。言語理解が不十分な者(老齢者や自国の言語を理解しない外国人など)と相対したとき、私たちは、相手に理解してもらおうと自然にこうした話し方になるのではないのかと考えることもできそうです。
なぜだか甲高い声で話しかけてしまう…。ちょっと赤面なこの行動は、どうやら誰もが自然にしてしまう行動のようですね(実験対象は女性だけではありましたが)。ちょっと安心です。
子犬は”赤ちゃん言葉”に大きく反応した
さて、この”赤ちゃん言葉”は、犬たちに影響を与えるのでしょうか。
研究者らが録音した音声を子犬、成犬、老犬に聞かせてみたところ、子犬たちは大きな反応を見せた一方、老犬は無反応だったという結果になりました。子犬たちはスピーカーに向かって吠えたり、キャッキャと跳ね回ったりしましたが、老犬たちはほぼ反応無しだったということです。
年齢について違いが見られた理由について、予測していなかった結果でありはっきりとはわからないとしつつ、「見知らぬ人の声への反応が年齢により異なる可能性」を示唆しました。すなわち年齢を重ねるごとに、知っている人の声により反応を示すようになるというのです。そのほか、子犬の方が高音域に反応しやすい性質を持つが、成長により消失したという可能性もあるとしています。
ゆっくりハッキリ甲高い声で語りかける、いわゆる”赤ちゃん言葉(Baby-talk)”の語りは、赤ちゃんたちの言語学習に効果を発揮していると言われています。これと同じように、成長期にある子犬の学習に影響があるという話であれば極めて興味深いのですが、その点については全く明らかになっていません。
子犬たちの注意を引きたければ”赤ちゃん言葉”の甲高いトーンは、役に立つのかもしれません。ただ、どんな年齢層の犬にとっても好印象なのは、喋りすぎない飼い主さん。分かりやすいボディランゲージで語りかけるニンゲンなのだということはどうぞお忘れなく。
◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Ben-Aderet, T., Gallego-Abenza, M., Reby, D., & Mathevon, N. (2017). Dog-directed speech: why do we use it and do dogs pay attention to it? Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences, 284(1846).
[2] Puppies’ response to speech could shed light on baby-talk, suggests study | Science | The Guardian
Featured image credit Les Chatfield / Flickr
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