皆さんこんにちは!!元東京在住・読書犬、パグのぐりです。お元気ですか?
僕はちょっと急な病気のため、地上を離れて、天の上に引っ越しました。地上の家族と離れてしまうのは悲しかったけれど、こちらに来てみたら、僕より少し前に天国入りしていた友だちの、チワワのマロンちゃんと再会できたの。僕も初めての場所で、ちょっと心細かったから、マロンちゃんに久しぶりに会えて、すごくホッとした。
こちらでの生活もだいぶ落ち着いてきたので、また原稿を再開したいと思います。どうぞこれからも、よろしくお願いしますね。
ある家族の軌跡
この4月、東京は桜もきれいに咲いて、お花見もみんな楽しそうだったね。
今月は、まさにこの春を象徴する花、”さくら”が書名の本をご紹介します。『さくら』(西加奈子著 小学館 2005年)は、サクラという名前の犬と、その家族を描いた小説です。
物語は、この家の次男、長谷川薫の語りで進みます。冒頭、一人暮らしをしている大学生の薫のもとに、スーパーの広告の裏に書かれた手紙が届きます。年末は帰る、という父親からのメッセージでした。驚いた薫は、年末一緒に過ごす予定だった彼女に「飼い犬に逢いたくなったから」という理由をつけて、実家に帰省します。
なんとも不思議な幕開けです。だいたいなぜ父親が「年末に帰る」ことを、息子に知らせるのか? なぜ、それが広告紙に書かれているのか? 「?」だらけです。その「?」を解決したいがために、読者はあっという間にこの本の世界にひきこまれるのです。
兄が選んだサクラ
さて、雑種犬のサクラは、生まれてまもなく、この薫の家族のもとにやってきました。近所の家で生まれた5匹の子犬のところへ、1匹もらいにいった薫とその妹のミキ。ミキは別の子犬を欲しいと思ったのですが、薫はほかの子が気になった。
ミキは丸々太って真っ白い、特別可愛らしい一匹を欲しがったのだけど、僕は、何故かサクラのことが気になった。僕が近くに行っても動かないし、抱き上げても、不安げに僕を見上げるだけで、尻尾もふらない。(中略)ああこの犬は、とっても寂しいんだ、そう思った。サクラの目は濡れて、変な具合に光っていた。(p23)
それで、妹の意見は横に置いて、薫はサクラを家に連れて帰ることにしました。まあその帰り道に、ミキもサクラが好きになるんだけどね。
サクラがこの家に来たのは、まだ薫とミキが小学生や幼稚園生の頃。物語は、それから十数年のこの家族の軌跡を、辿っていきます。
1人、欠ける
さて、この家族、小説を読み始めると「たぶん4人家族なんだろうな」と思います。でも途中で、実は5人家族「だった」ことが判明するのです。結構な衝撃。じゃあ、もう一人いた人は誰? と、ここでまた「?」が。
この、欠けてしまって今はいない1人が、小説の中でかなり重要な位置をしめます。それが誰なのか、は本書で確かめてみてくださいね。
サクラは、(かつての)新興住宅地に住むこの家族に、いろいろな事件が起こるたびに、彼らの話を聞く役を担っていました。そう、犬はそういう役目、大好きだよ。僕も地上にいたときは、Nさんの話、よく聞いたよ。懐かしいなあ。
それで、きょうだいそれぞれに恋人(や、恋人らしき人)ができたり、ある重大事件後に、家族がちょっとずつ崩壊していったりと、いろいろなことが起こるんだけれども、でも、いつもそこには、静かに、でも確かに、サクラがいるんだ。
そして小説の最後は、年をとったサクラの調子が悪くなり、家族全員でサクラを病院へ運ぶ顛末が描かれているのですが、物語は最後、幸せな終わり方をします。
だから僕、この小説が好き。
西加奈子さんの作品は今回初めて読んだけれど、「面白いな」と思う表現が何カ所も出てきたよ。犬とは関係ないのだけれど、お母さんが小さなミキに、「どうやって人は生まれるのか」を話したシーンなんて、秀逸だったなあ。感動的ですらありました。
ぜひ皆さんも、長谷川一家の物語を、楽しんでくださいね。