皆さんこんにちは! WOOFOO天国出張所の読書犬・ぐりです。
僕、パグなんだけど、そういえばこの6月から7月頃にかけての、東京の初夏はなかなか厳しかったなあと懐かしく思い出しています。暑くてジメジメだからね。
地上の元飼い主Nさんからの情報によると、関東地方は、今年は梅雨の雨が少ないみたい。一方九州では記録的な豪雨で、被害も尋常でない規模だと。ワン仲間たちも、大丈夫かな。早く、日常生活に戻れますように。
あの「9.11」の物語
今月は、日常生活がどれほど尊いものなのかを実感した、一匹の犬と一人の男性の物語を紹介します。『サンダー ドッグ』(マイケルヒングソン・スージーフローリー共著 井上好江訳 燦葉出版社 2011年)は、2001年、アメリカのワールドトレードセンタービルで起きたテロ事件、いわゆる「9.11」のノンフィクション作品です。
主人公は視覚障害者のマイケルと、彼のパートナーである盲導犬、ラブラドールレトリバーのロゼール。マイケルは1950年にこの世に生を受けた時から、目が見えませんでした。そんな彼は、14歳で初めての盲導犬、スクワイア―と出会い、行動を共にするようになります。そして、次にリニー。その後にロゼールと出会います。
マイケルは、2001年9月当時、ニューヨークにある、ワールドトレードセンーのノースタワー、78階にあるオフィスで働いていました。9月11日も、普段通りに朝7時過ぎに出勤。その後の会議で出す朝食などの手配をし、客を迎え、パソコンに向かって作業をしていたとき、いきなり建物が大きく揺れたのです。
午前八時四十六分である。ビルが激しく身震いするように揺れ、それから唸るような音がしてそれはゆっくりと南西の方へ抜けて行く。スローモーションでタワーはなんだか六メートルくらい傾いたような気さえする。(中略)
攻撃か何かを受けたのだろうか? いや、こんな高い所に爆弾を落とせるわけがない。ガス爆発か何かに違いない(p21)
そして、ビルは確実に傾き続けるのです。マイケルはロゼールと、同僚のデイビットと共に、非常階段へ急ぎました。そして、それから長い長い脱出劇が始まるのです。
1463段の階段
78階から地上へ降りるためには、実に1463段の階段を下りなくてはなりません。目の見えないマイケルは、ロゼールと共に、確実に1段ずつを降りて行きました。でも、途中、様々な不安に襲われます。
特に、上から流れて来る燃料の臭いに、マイケルは愕然とします。まだビルがなぜ爆発し、傾き始めたのか、原因がわからなかったとき(ビルの中にいた人たちは、まったく状況がわからず、その原因は脱出後にようやく知った人が多かったようです)、ジェット燃料の臭いに気が付くのです。
そして、一番恐れていたのは、停電でした。電気がついている今は、みんなつとめて落ち着いて階段を下りている。でも、もし停電になり、ここが真っ暗になったら…。パニックに陥るに違いない。きっと階段を下りる誰もが、想像したくないけれど、「もしかしたら」と不安になっていたこと。でもマイケルはひらめくのです。
突然私はひらめいた。そうだ! なんでもっと早く思いつかなかったのだろう?自分が誘導すればいいのだ。(中略)
私は皆に声をかける、大きな声で力強く。「皆さん、心配しないでください。もし停電になったらロゼールと僕が特別に半額でここから脱出させてあげますから」周りの人達は笑っている。(p96)
たとえどんな状況にあっても、ユーモアを忘れないこと。マイケルはそれを大学時代に習得したそうです。
できないことは、ほとんどない
この物語は、ジェット機が激突したビルの78階からの脱出の一部始終が軸となってはいるのですが、その間に、マイケル自身の生い立ちが、詳しく、わかりやすく書かれています。
マイケルは生まれた時から視力がありませんでしたが、彼の両親は、マイケルを特別扱いをするのではなく、普通の環境で育てようとしました。学校ももちろん、普通学級に通わせたのです。そうした生い立ちから、マイケルは、自分は視力はないけれど、できないことはほとんどない、と言い切ります。なにしろ、小さいころ、自転車にのって近所を回っていたくらいですから。
でも、世の中は甘くなく、何度も試練にぶち当たる。それは大学院への進学のときであったり、就職活動のときであったり。また、盲導犬と一緒に入ろうとしたレストランで、入店を断られたときであったり。でも、マイケルはあきらめません。「何故だめなのだ?」。この言葉をパワーの源に、前向きに生きていくのです。
そのパワーが、9.11のビルからの脱出でも生かされたことが、全編を読むと伝わってきます。
さあ、マイケルとロゼールは、どのようにしてビルから脱出したのでしょうか。そしてその後、どうなったのでしょう。それは本書で確認してみてください。
この物語を読むと、盲導犬とハンドラーがどれほどの信頼関係で結ばれているかがよくわかります。何しろ、生死のかかった場面です。お互いを信じ、そして進んでいくしかない。
読者はドキドキしながら、でも、この1人と1匹の絆に感動しながら、読み進めていきます。人でさえパニックに陥りそうな状況で、いくら訓練を受けているとはいえ、犬のロゼールがとった落ち着いた行動は驚くべきものでした。そして、ロゼールは、マイケルだけではない、一緒に階段を下りていた他の人のことも救うのです。
2001年9月11日当時、僕の飼い主だったNさんは大学生で、家のテレビでツインタワーに飛行機が激突する場面を見たそうです。「現実に起こっていることとは、信じられなかった」と言っていました。でも、そのビルの中にいた人の物語を読んだのは、この本が初めてだったそうです。
僕も9.11で被害に遭った当事者の物語は初めて読んだけれど、その緊迫感や絶望、一筋の希望、脱出後の悲劇など、驚く事ばかりでした。
ぜひ皆さんも、読んでみてください。
燦葉出版社
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Featured image credit smerikal / Flickr