一般に探知犬というと、爆弾や麻薬を探す犬を指しますが、中にはちょっと変わったものを探知する犬もいます。野生動物のフンを探す犬もいれば、トリュフを探す犬もいます。お札を探知する犬もいれば、古代のお宝を嗅ぎ当てる犬もいます。
”K-9 Artifact Finders”で働くモキシは、インディ・ジョーンズさながらに考古学的な価値を持つ宝物を探知するお宝探知犬。密輸された宝物を嗅ぎ当てて、違法取引を未然に防ぐべく訓練に励んでいます。
シリアやイランなどの紛争地では、古代遺跡での盗掘が横行しています。盗掘品は市場に出回り、テロリストや過激派組織などの資金調達源となっているのです[1]。2003年から05年までにイラクの博物館や遺跡から盗まれた遺物は約50万。全世界で流通する額は年間30億ドル[2]とも言われています。
古代遺跡の破壊や遺物流出を抑止するための方策は様々に提案されていますが、実現性・実効性は低く、違法取引を取り締まることこそ盗掘を防止する最善策だと専門家は口を揃えます。取引抑止のためには、違法な”ブツ”を取り押さえる必要がありますが、その大役をイヌに担ってもらおうとするのが、”K-9 Artifact Finders”で行われているプロジェクトの目指すところです。
犬に古代のお宝を探知してもらおうとするこのプロジェクトは、人身売買や遺物の略奪を調査する非営利団体”Red Arch”の創業者、リック・セント・ヒレール氏の思いつきから始まりました。電子機器を探知する犬のニュースを見たヒレール氏は、「骨董品も探知できるのではないか?」と思いつき、研究機関であるPenn Vet Working Dog Centerに相談したのがコトの始まりだそうです。2017年12月には、ペンシルベニア大学考古学人類学博物館を巻き込み(訓練に使用する遺物を提供する役割)、”K-9 Artifact Finders”を設立。翌年1月には、モキシを含む5匹の訓練を開始しました。犬たちが現在取り組んでいるのが、古代の陶器の匂いを学ぶことです。
訓練の難所は、お宝を損なうことなく、犬に探知させるという点です。研究者はコットンボールで包んだ古代シリアの陶器をビニール袋に入れたものを使って、犬たちに訓練を施しています。犬はコットンボールやビニール袋、あるいは現代の陶器の匂いを無視するよう訓練され、古代のお宝を検出するよう学んでいきます。
探知犬の研究を専門とするPenn Vet Working Dog Centerのシンシア・オットー氏によれば、「犬たちはうまく反応している」とのこと。今後9ヶ月続けられる訓練の中で、犬たちの鼻はさらに鋭敏になっていきそうです。
選抜された犬は、いずれも物静かで好奇心が強く、鋭敏な鼻を持っている犬たち。訓練の最終段階では、現場の最前線に出ることもあるかもしれないとのことです。
今回の取り組みは、過去に例のない画期的なもの。しかし、これが成功すれば、空港などに”お宝探知犬”が常勤することになるかもしれません。そして日本からは、徳川埋蔵金発掘を目指す人から、引き合いがあるかもしれませんね。
◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Historical sites in Syria are being looted ‘on an industrial scale’ | World news | The Guardian
[2] New Program Trains Dogs to Sniff Out Art Smugglers | Mental Floss
[3] A Nose for Loot? Dogs Training to Sniff Out Stolen Artifacts
【お仕事犬】児童ポルノを撲滅せよ!隠された電子記録メディアを発見する警察犬 | the WOOF イヌメディア
アメリカには、児童ポルノ撲滅に立ち向かおうとする犬たちがいます。猥せつ画像が保存された電子記録メディアを嗅覚で発見し、摘発や逮捕につなげようとする試みがスタートしているのです。 …