「犬は飼い主に似る」とはよく言われることですが、広く考えられているよりも正確なのかもしれません。
ヨーロッパの研究者らは犬の腸内細菌叢を評価し、イヌの腸内細菌叢の遺伝子が、ヒトのそれと多くの類似点があることを発見しました。研究者は「この結果は、私たちが思っていたよりも、我らが親友(=犬)に似ていることを示しています」とコメントしています。
ヒトとイヌの腸内細菌叢は似ている
研究を行ったのは、欧州分子生物学研究所のLuis Pedro Coelho博士らと、ネスレリサーチの研究チーム。実験協力犬64匹について、腸内細菌叢の評価が行われました。
協力犬は、半分がビーグル、半分はレトリバーであり、痩せている/太っているなどの体型も犬種間で同数となるよう調整されました。最初の4週間は全ての犬に、市販のドッグフードが与えられ、その後、犬たちは無作為に2つのグループに分けられ、1つのグループには高タンパク低炭水化物食が、もう一つのグループには高炭水化物低タンパク食が4週間にわたり与えられました。
研究者は8週間で129の便を採取し、DNAの抽出して、1,247,405個の遺伝子を含むイヌの腸内細菌叢遺伝子カタログ(the dog gut microbiome gene catalogue)を作成しました。そしてこのカタログを、ヒト、マウス、ブタのカタログと比較して、遺伝子含量の類似性と食餌の変化にどう反応したかを評価したのです。
これによりわかったことは以下のとおりです。
- イヌの腸内細菌叢の遺伝子含量は、ブタやマウスのものよりヒトの腸内細菌叢と多くの類似点をもつ
- 食餌中のタンパク質含量および炭水化物含量の変化は、イヌおよびヒトの細菌叢に同じような変化をもたらす
- 痩せたイヌの細菌叢と比較した場合、過体重または肥満のイヌの微生物は、高タンパク食に敏感に反応する
イヌはヒトの健康モデルになる可能性
さてここで、「腸内細菌叢(gut microbiome)とはなんぞや?」「なにがそんなに重要なのさ?」ということを振り返ってみたいと思います。
「あなたの体には、”自分ではない細胞”が住んでいる」と言われたら、ちょっとびっくりしてしまうかもしれませんね。でもこれは本当で、私たちは実は、膨大な数の微生物と共生しています。微生物には細菌、ウィルス、真菌、原虫や寄生虫が含まれますが、この中でももっとも多く、もっとも関係が深いのが細菌です。
私たちの体には、重さにして1〜2kg、約100兆個の細菌が常在しており、彼らは私たちの体や細菌同士で相互作用しながら、生態系を構成しているのです。細菌はありとあらゆる器官に定着していますが、もっとも豊富に細菌が暮らしているのが消化管で、ヒトに定着する細菌の90%は消化管に生息し、これが腸内細菌叢と呼ばれるものです。一般的には「腸内フローラ」という言葉で広がったものですが、フローラが植物の意味であるために近年はmicrobiota(微生物叢、細菌叢)や、microbiome(常在微生物叢、常在細菌叢)と呼ぶことも多くなっています。
これまでの研究から腸内細菌叢は、栄養素の生成や食物の消化率を向上させるなど、栄養において重要な役割を果たすことがわかっています。また、腸内細菌叢を変化させることによって身体のはたらき(あるいは健康状態)を変化させることもわかっています。腸内細菌叢のコントロールにより、肥満の管理や疾患リスクの軽減などが可能になるかもしれないと大きな期待を寄せられているのです。
今回の研究結果は、イヌが他の動物(マウスやブタ)より栄養学のモデルとしての優れている可能性を示したということができます。腸内細菌叢は非常に複雑で、まだ多くのことがわかっていない段階ですが、イヌの研究がこれらの知見を大きく前進させてくれるかもしれません。
なお、研究者らは「ヒトとイヌは非常によく似た微生物を宿すが、まったく同じ微生物ではない」点を強調しています。全く同じではない、とはいえ非常に密接に関連する菌株とのことで、やはり「ヒトとイヌはよく似ている」ようです。
◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Luis Pedro Coelho, Jens Roat Kultima, Paul Igor Costea, Coralie Fournier, Yuanlong Pan, Gail Czarnecki-Maulden, Matthew Robert Hayward, Sofia K. Forslund, Thomas Sebastian Benedikt Schmidt, Patrick Descombes, Janet R. Jackson, Qinghong Li, Peer Bork. Similarity of the dog and human gut microbiomes in gene content and response to diet. Microbiome, 2018; 6 (1) DOI: 10.1186/s40168-018-0450-3
[2] Dogs could be more similar to humans than we thought — ScienceDaily
[3] 平山和宏, 『腸内細菌叢の基礎』(2014) モダンメディア60巻10号
[4] 食事、栄養素、腸内微生物叢 – Nutri-Facts
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