犬は仲直りが苦手〜進化の過程で和解スキルを失った(研究)

サイエンス・リサーチ
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「1匹狼」という言葉の印象が強いオオカミですが、じつは彼らは社会的な群れをつくって暮らす生き物です。仲間と関係を築く能力に非常に長けた生き物でもあります。

最近の研究によれば、オオカミは犬とくらべても、紛争後の仲直りが上手なのだそうです。喧嘩の後、オオカミには友好的なやり取りが多く観察されましたが、犬は互いを避ける傾向が観察されたそたということです。

論文は、Royal Society Open Science Journalに掲載されました。

犬は和解せず、喧嘩相手を避ける

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image by m-louis .® / Flickr

ウィーン大学の研究チームは、犬の群れとオオカミの群れの中で行われる仲間との相互作用の様子を観察しました。

観察の対象となったのは、捕獲された4匹の野生のオオカミと、施設に保護された4匹の犬。捕獲、保護および観察は、ウィーンのthe Wolf Science Centerで行われました。

犬の集団もオオカミの集団も、仲間うちでは積極的なコミュニケーション行動がみられました。紛争の様子においては、犬はオオカミに比べると攻撃的になることは少なかったものの、犬の紛争はしばしば、肉体的暴力を伴う激しいものとなる傾向があったそうです。

オオカミと犬では、紛争後の対応にも違いがみられました。オオカミの場合、紛争後1分ほどで和解のジェスチャーがみられ、10分後には友好的なやり取りが普段の2倍以上観察されました。舐めたり鼻をすり寄せたりするほどではないにしても、いつもより接近する傾向がみられたということです。
対照的に犬は、お互いを避けようとする傾向がみられ、友情を再確認し再び確立しようという姿勢は特にみられませんでした。

紛争後の犬は、和解ではなく関わらないことを選んだのです。

なぜイヌは和解しなかったのか?

なぜ、紛争後のオオカミは積極的に和解し、犬はこれをしなかったのでしょう。そのこたえは進化の過程でうまれてきた犬とオオカミの違いにありそうです。

紛争は、集団を混乱させ力を弱める負の影響をもたらすものであり、生存のためには起こらないほうが良いものです。しかし、犬やオオカミのような社会的動物は、複数の個体が共同で生活するため、紛争や競争は必然的に発生します。

紛争による悪影響に対処する一つの方法は、「和解」です。傷ついた関係をいち早く修復できれば、集団の結束はふたたび強くなり、外敵にも対抗できるようになるからです。和解の起こりやすさ(あるいは和解できるか否か)は動物の種によって異なっており、先行研究からは、和解の起こりやすさは「協調への依存度」にかかっていることがわかっています。

「協調への依存度」とは、どれだけ生存のためにどれだけ集団に依存しているかと言い換えても良いかもしれません。たとえばオオカミは、生存するための活動の多くを集団で行う「協調への依存度」が高い生き物です。食糧の調達(狩り)も、仔の養育も、領土を守ることも、全てグループで行う彼らは、群れの結束の強さや機能性の高さが生き残るための鍵となります。

一方の犬(自由に行動するイエイヌ)は、「協調への依存度」がオオカミに比べると高くはありません。オオカミと同様に、群れを形成して協働することもありますが、生き延びるために群れでの行動が必須というわけではないのです。進化の過程で雑食となったイヌは、グループでの狩りでなくても、食料を得ることが可能です。群れの外でも交配するためスタイルの犬は、子育ての多くは母犬が行い、オオカミほど協同飼育は一般的ではないのです。

進化の過程で食性も生活スタイルも変化させてきた犬は、仲間との関係においても「より柔軟なスタイル」を貫けるようになったのではないかと研究者らは推測しています。協力関係を築くことができる一方で、犬によっては比較的独立した生活を営むこともできるというわけです。

「進化の中で”群れのメンタリティ”を失った」と言われるワンコたちは、人間との親友という新たな役割において、喧嘩した犬仲間との和解スキルは失われてしまったのかもしれません。

◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Cafazzo, S., Marshall-Pescini, S., Lazzaroni, M., Virányi, Z., & Range, F. (2018). The effect of domestication on post-conflict management: wolves reconcile while dogs avoid each other. Royal Society Open Science, 5(7), 171553.

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