小犬は男を裏切らない~『小犬を連れた男』

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皆さんこんにちは! 読書犬、パグのぐりです。暑い日が続いていますがお元気ですか?

驚くほど早かった今年の梅雨明け。でも、西の地方では大変な大雨で水害が。たくさんの方が亡くなられ、避難所で暮らしている方もいらっしゃいます。亡くなられた方のご冥福をお祈りするとともに、被害に遭われた方が一日も早く日常生活に戻れるよう願っています。もちろん、動物さんたちも、元気になれますように。

めずらしく、海外小説!

小犬を連れた男 【シムノン本格小説選】

さて今回ご紹介するのは、海外小説です。前にも僕、書いたかもしれないけれど、実は翻訳本というのがずっと苦手で。いかにも「訳しました!」っていう文体の場合が多くて、内容よりもその文体が気になって読み進められなかった経験が何度かあってね。だけど、今回は不思議と完読できたんです。

小犬を連れた男』(ジョルジュ・シムノン著 長島良三訳 河出書房新社 2012年)がその小説です。舞台はフランス。主人公のフェリックス・アラールはビブという小犬と一緒にあるアパートで暮らしています。中年男一人、犬一匹。アンヌレという夫人の本屋で8年働いていますが、その前は、5年間刑務所に入っていました。

「今」と「過去」を行き来する

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image by Haseeb Jamil / unsplash

この小説は、アラールの書く日記という体裁なのですが、これが「今」と「過去」を行ったり来たりするので、いったいこれがいつのなんの話なのか、を見失わないようにしないと迷子になります。ほんとに。でもちょっとそれが楽しかったりもするのですが。

アラールはなぜ刑務所に入らなくてはならなかったのか? 発端はアラールの妻がおこした行動です。そう、彼は結婚していたのです。結婚相手だったアンヌ・マリーと出会ったときのこと、その前の学生時代のこと、自分の父親が亡くなったときのこと、父親の仕事を継いだこと、いろいろな場面がバラバラと出てくる。それをパズルみたいにはめていくと、アラールのこれまでの生涯がわかる、という仕組みです。

こうして日記を書いていくアラールに寄り添っているのが、小犬のビブ。ビブについては、物語の冒頭のほうに詳しく紹介されています。アラールは「野良犬の収容施設」へ行って、この犬と出会いました。

ぼくの目が一種の小型のプードルと思われる犬に向けられると――純血種じゃない、褐色の混じった灰色の毛に、短すぎる脚をしている――、さきほどわが家でしたように、仰向けになって横になってみせた。目を閉じ、四肢を強張らせ、死後硬直のまねをしつづけるのだ。(p17-18)

何度も登場するかといえば、それほどでもないけれど、ビブの存在はこの不思議な小説の中でどこかホッとさせてくれる要素を持っています。著者のシムノンは犬が好きだったようなのですが、たくさん書いた作品の中で、犬を登場させたのは本作のみだったそうですよ。

ビブの動きの描写は詳しくて、犬を飼ったことのある人なら「そうそう、そうなんだよね~」と思える部分が満載。確かに犬好きの作家が書いたと言われれば納得です。

交通整理は「あとがき」に

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image by Frederik Trovatten / unsplash

刑務所に入った理由は最後の最後にわかるのですが、逆に、最後まで読まないとわからないから、読者は頑張って(!?)今と昔を行きつ戻りつしながら読み進めていきます。また、アラールは刑務所から出所した後、医師からそう長くは生きられないと病気の宣告を受けているのですが、読者はアラールが病気で死んでしまうのだろうか、それともだんだん行動も文章もおかしくなってきているから、自殺してしまうのだろうか、と頭のどこかで気をもみながら読んでしまうのです。

と、まあ、なんとも複雑なつくりの本なのですが、もし迷子になりそうになったら、最後の「訳者あとがき」から読むと、頭の交通整理ができて読みやすくなるかも。訳者も、この小説のパズル的な部分を認めていて、だからかな、最後のあとがきで、物語の筋をわかりやすく簡潔に紹介してくれているのです。

たまには海外小説を読むのもいいなと思いました。なんといっても舞台が海外だから、なんとなく海外映画を観るときのあのワクワク感があるんだよね。想像する情景も外国だし。本は、いながらにしていろいろな体験をしたようなつもりにさせてくれるけれど、たまには外国を舞台にしてみてはいかがですか? 表紙写真の小犬も最高です。


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Featured image creditClem Onojeghuo/ unsplash

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