皆さんこんにちは！ WOOFOO天国出張所勤務のパグ犬、ぐりです。地上もだいぶ涼しくなってきたみたいですね。今年の夏は暑かったから、涼しさがうれしいね。季節の変わり目、気温差に注意して、元気に過ごしてください。
「死神」を飼う!?
さてさて、今回ご紹介する本は『優しい死神の飼い方』（知念実希人著 光文社 2013年）です。“死神”を“飼う”ってどういうこと？！ と思いますよね。僕も思いました。でも、この本面白い、と書いている人がネット上にけっこういらして、じゃあ読んでみようかなと手に取った次第です。
結局一気に読んでしまいました。
ああ、自己紹介がおくれてしまった。私は犬である。名前はまだない。
……いや、それは正確ではないな。言い直さなくてはなるまい。（p5）
なんていう、主人公（犬）のひとりごとからはじまるこの小説。そう、この主人公は、死神。ある任務を負って地上に降り立ち、ゴールデン・レトリバーに宿って仕事を始めました。その任務とは、もうすぐ命を終えようとしている人間が、地縛霊とならないよう、その人の地上での未練や後悔を取り除くこと。そうして、彼らが亡くなった後、『我が主様』の元へ確実に案内する、という任務です。
看護師に助けられて
舞台は古い洋館をリフォームして開院したあるホスピス。気難しい院長と、住み込みの看護師「菜穂」、他にも通いの医師や看護師が登場します。ある雪の日、菜穂は病院の近くの道で弱っている1匹のゴールデン・レトリバーを見つけました。そして、彼を「レオ」と名付け、病院で飼うことにするのです。
そう、この助けられたゴールデン・レトリバーは、死神が宿った犬。こうして死神は菜穂の職場であるホスピスで任務を遂行するのでした。
最初に地上での未練を断ち切らせたのは、南という老齢の男性。元警察官だったという南は、天涯孤独で、現在はガンにかかってその生涯を終えようとしていました。しかし、今は孤独に見える南にも、かつて想いを寄せた女性がいたのです。彼の未練は、数十年前の彼女との関係にありました。
それをかぎつけたレオ（つまり死神）は、ある方法をつかってその未練を断ち切らせようとこころみます。さて、結果はいかに？
南とその女性との関係が明らかになる舞台は第二次世界大戦末期。理不尽な戦争にこうして翻弄された一般市民がどれだけいたのだろうか、と思いながら読むと切なくなりました。
後半はミステリー小説
南のストーリーだけでもかなり読み応えがあるのですが、この小説はそれだけでは終わりません。続いて金村という元宝石商の中年男性が主人公となります。この人、実はかなりの悪者で、小説後半でのキーパーソンとなるのですが、それがなぜかは、ここに書いてしまうと面白くないので、本書にゆずります。
最後は内海という画家。まだ若い男性です。絵を描くのが何よりも好きで、美大を出て画家として走り出したころ、ある男の子と出会いました。その後、悲惨な出来事に遭遇し、内海は絵筆を持てなくなってしまいます。その未練を引きずったまま、ガンによってこの世を去ろうとしていました。
南、金村、内海。この3人をレオは救います。あ、病気から救うのではないよ。地上への未練を断ち切る手伝いをしたのです。これでめでたしめでたし、で終わったら、よくありがちなただの短編集と言えるけれど、この本の面白いところは、それでは終わらないところ。実はこの3人のストーリー、すべてが舞台となっている洋館に関係しているのです。
小説の後半は洋館を舞台に、息を切らさぬスピードでミステリーが展開していきます。そこが読みどころの一つです。
僕、著者がどんな方かも知らずにこの本を読んだのだけれども、読み終わってからプロフィールを見てびっくり。なんと知念さんは現役のお医者さんでした。なるほど、そう言われてみれば、病院を舞台とした内容でしたが、決してどの場面も不自然でなく、読みやすく描かれているのはそうした理由からだったのかと納得。読ませる内容ですよ。
死神といいながら、人（？）情味にあふれ、強情をはりながらも外側は犬だから、犬としての反応（特に“食いしん坊”）もしてしまう。そんなレオから目が離せないと同時に、人が生きて、そして死んでいくことが、どういうことなのかなと考えさせてくれる本でもありました。オススメです。
光文社 (2016-05-12)
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Featured image creditCeline Sayuri Tagami/ unsplash
