皆さんこんにちは! 読書犬、パグのぐりです。お元気ですか?
僕は一昨年の3月から、こちら天国のWOOFOO出張所で暮らしているのですが、快適ですよ。もちろん季節の移り変わりもあるのですが、極端に寒いとか、暑いとか、体に負担のかかることはないのね。暑さも寒さも苦手な僕たちパグみたいな犬種にはありがたい限りです。
快適だから、本もたくさん読めちゃう! 今回も珠玉の一冊をご紹介します!
漫画が原作のあの名作
『小説 星守る犬』(原田マハ 原作:村上たかし 双葉文庫 2014)は、漫画『星守る犬』(村上たかし 双葉社 2009)を小説にしたものです。
原田マハさんといえば、このコーナーでも『一分間だけ』をご紹介したことがありましたね。村上さんの漫画は、西田敏行さん主演の映画『星守る犬』の原作でもあります。これだけを見ても、西村さんの漫画がいかにいろいろなクリエイターの心を揺さぶった作品であるかがよくわかるよね。
物語は、あるケースワーカーの男性が偶然目にした電光掲示板のニュースから始まります。
…原野に放置されていた車の中から、身元不明の男性の白骨体が発見された。その遺体の近くで…(p11)
…その遺体の近くで、同じく一部白骨化した犬の死体も発見された。男性の遺体は死後一年以上が経過、犬の死体は死後三ヶ月。(p12)
このニュースを見た男性は、頭からその事実が離れなくなります。それほど強烈な印象を残したのはなぜだったのでしょう。そう。男性の白骨遺体の近くに、犬の白骨遺体がまるで寄り添うようにあったからです。いったいこの男性と犬に何が起こっていたのか。小説は、その軌跡を追う物語へと移ります。
出会いと別れと出発と
犬の「ぼく」は、ある日、女の子のみくちゃんに拾われます。そして彼女の家に連れていかれて、家族になりました。みくちゃんは「ぼく」にハッピーと名前を付け、自分が世話をするから、と両親と約束して飼い始めました。
だけど、子どもの約束ってそうそう長続きしないことが多いんだよね。みくちゃんも例外でなく、だんだんお世話はお母さん、そしてお父さんが代わりにすることになったのです。特に散歩は、仕事前と帰宅後のお父さんの役目になりました。
淡々と過ぎていたこの家族の日常に影がさしたのは、お父さんの病気がきっかけでした。仕事ができなくなるほどの病気。その後、お母さんはお父さんと離婚します。詳しくは書かれていませんが、みくちゃんもお母さんと一緒に出て行ってしまったのでしょう。残されたのはハッピーとお父さんだけ。
お父さんは、家に残った数少ない自分の荷物と有り金をすべてワゴン車に乗せて、ハッピーと一緒に行く当てもなく出発します。1人と1匹。気ままな旅の始まりです。
最初はわりと調子よく進んでいたのですが、ある少年との出会いがその順調さをもぎとりました。優しくした恩をあだで返されたような形になってしまい、結果、お父さんは一文無しに。不幸は重なります。ハッピーが病に倒れたのです。お金のないお父さんのとった行動は? ぜひ本書でご確認を。
満天の星空の下で
さて、お父さんとハッピーは、ガソリンを買うお金も尽きて、山のほうに進み、最後、エンストした場所で車を降りました。その時、頭の上に広がっていたのは、満天の星空。一緒に見上げたこの星空が、この本のタイトルにもつながり、そしてその後のこの1人と1匹の物語にも大事な意味を持たせることになるのです。
物語は最後、また冒頭に登場したケースワーカーの語りに戻ります。彼がなぜ、この遺体のニュースに興味を持ったのか。それは彼自身の生い立ちにも理由がありました。幼い頃に両親を事故で亡くし、祖父母に育てられた彼は、ある日、祖父が連れてきた犬に「バン」と名付けて一緒に暮らし始めました。しばらくして祖母が亡くなり、その後祖父も亡くなります。たった一人になってしまったと思った彼の横にはバンがいてくれたのです。その時初めて、彼は祖父がなぜ犬を連れてきてくれたのか、その想いをくみとったのでした。
この2つの物語が、絶妙に絡み合って、小説が構成されています。うまいなあと、ため息がでちゃうくらいです。
あとがきによれば、著者の原田さんは、本屋で偶然漫画『星守る犬』を見つけました。この本を小説にしたいと思った理由はいくつかありました。彼女自身、11年間一緒に暮らした犬がいたこと。その犬が亡くなったと同時に作家デビューをしたこと。だからいつか、犬が登場する作品を描きたい、それが一緒に暮らした愛犬への弔いになると考えていたこと。そして、実際に何編か作品を出した後に出会ったのが、この『星守る犬』だったそうです。
原田さんは小説にする際に原作者の村上さんにも会われたそう。そこで交わされた、物語の誕生秘話はなかなか興味深いので、皆さんあとがきまで全部読んでくださいね。
僕はまだ、原作の漫画を読んでいないのですが、ぜひ読んでみたいなと思いました。小さなきっかけから物語を紡ぎだせる、作家のパワーのすごさを感じた1冊です。
Featured image creditDavide Pietralunga/ unsplash