犬の歯周病は、人間のそれと同じように重大なお口トラブルを引き起こします。しかし、それだけではありません。全体的な健康状態にも悪影響を与えるおそれがあるのです。
歯周病は病気を悪化させる
歯周病は歯の周りの歯周組織に炎症が起こっている状態のこと。もっとも一般的な犬の歯の問題のひとつです。
犬の歯周病と人の歯周病とには、大きな違いはありません。歯と歯肉の境目(歯肉溝)に停滞した細菌により歯肉のまわりが炎症をおこして赤くなったり腫れたりします。口臭以外には明らかな兆候はほとんどなく、痛みもなくひっそりと進行していきます。
歯周病は歯茎の腫れや痛みの原因となりますが、真の問題は歯周ボケットに存在する歯周病細菌です。歯周病細菌は毒素や酸素を放出して歯周組織を破壊していきます。これらのバクテリアは動物の免疫システムも刺激します。細菌の繁殖に対抗するために、白血球が歯肉または骨と歯の間に移動すると化学物質を放出しますが、これが歯の支持組織に損傷を与えるそうです[1]。
コロラド州立大学のDr. Chad Lothamerによれば、「実際、歯の感染症に関連する組織破壊の大部分は、免疫系によって引き起こされ、バクテリア自体からの分解産物によって引き起こされるのではない」とのこと。これは、局所的な組織の喪失、痛み、および周囲の組織の感染につながる可能性があるのだとか[3]。
プラークや歯石がひどく形成された場合、自身の保護システムが働くことで、病気を悪化させることもあるのだそうです[1]。
歯周病は顎の骨折を招く
歯周病を患っている小型犬種は、骨量減少や顎骨骨折のリスクが高まります。口腔衛生状態が悪いと、特にチワワ、ラサ・アプソ、マルチーズ、およびシー・ズーなどの口が小さく歯が不揃いな犬の顎の骨が壊れるおそれがあります。
口の中で感染が進行すると、小型犬の顎を顎を弱めることがあり、ちょっとしたことが顎の骨折につながることがあります。あまり一般的にはみられないことですが、まったくない訳ではありません。しかし歯周病による骨折は、その領域に良質の骨が欠如していること、および歯が欠如していることから、適切な治癒させることは非常に困難になるといいます。
歯周病は心臓病のリスクを高める
歯周病を引き起こす細菌は、血流に入ることにより体全体に運ばれます。犬の研究では歯周病は心臓、肝臓、腎臓の疾患に関連していることがわかっています。
歯周病と心臓疾患の関連を明らかにしようとした研究に59,296匹の記録を調査したパデュー大学のLarry Glickman教授の研究があります(2009年)[4]。研究は、犬の歯周病と心臓疾患には統計的に関連があることを示しています。とくに心内膜炎では強い相関がみられ、歯周病のない犬では0.01%が心内膜炎と診断された一方、歯周病ステージ3の犬では0.15%が心内膜炎と診断されていました。
相関があることはわかっているものの、どちらが原因でどちらが結果なのかは、まだ明らかにされていません。しかし、心臓に炎症を起こす細菌が歯周病犬の口の中で確認されたそれと同じものであることを考えると、歯周病予防ケアに力を注ぐことは、心臓病予防につながることを期待しても良さそうに思えます。
歯周病は痛みと過敏性を引き起こす
歯周病は、骨や歯肉組織などの歯を支える構造を蝕む病気です。初期のころは痛みはありませんが、進行するにつれ歯根の周りの骨を破壊して歯がグラグラし、犬は痛みを感じるようになります。歯周病が進行した犬猫の多くが抜歯のための口腔外科手術を必要とします。
痛みや過敏症、そして歯を失うことは、食事という犬の楽しみを奪うことにもつながります。痛みのために食べることを拒むようになれば、十分な栄養を摂ることも難しくなり、健康を損なうことにもつながりかねません。
歯周病は糖尿病治療を難しくする
ヒトでは歯周病と糖尿病の間には関係があることがわかっています。糖尿病を患う人は歯周病になりやすく、また歯周病になると血糖コントロールが悪くなるとも言われています。
犬ではヒトほどには、歯周病と糖尿病との関係は明らかになっていません。しかし、糖尿病の犬は歯周病の罹患率が高く重症度も高いこと、さらには血糖コントロールについても人間同様悪くなるようだとわかりつつあります。どうやら2つの疾患はお互いに悪影響を及ぼしあうようで、歯周病が深刻になればなるほど糖尿病はより深刻になり、その病状がさらに歯周病を悪化させるのだと考えられています。
炎症と感染は、インスリン(血糖値の調整に関与する主要ホルモン)に対する身体の感受性を低下させる傾向があるといい、歯周病が治療されていないと糖尿病をコントロールすることが難しくなるそうです。
歯周病を完治させるのは困難ですが、幸いなことに予防が可能です。家で行う毎日のブラッシングで歯垢や歯石を予防し、年に1回の獣医師による検診とクリーニングで、裸眼では見えない歯の汚れをとることで、多くの歯科疾患のはじまりに対処することができます。
キラリと輝く歯は、愛犬の健康な暮らしにつながります。今からでも遅くありません。少しずつでも良いのです。お口のケアを続けていきましょう。
◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Periodontal Disease | AVDC – American Veterinary Dental College
[2] Pet Periodontal Disease – Dog / Cat Dental Health – AVDC
[3] 5 Scary Consequences of Neglecting Your Dog’s Teeth | petMD
[4] Canine gum disease linked to heart problems
Featured image creditEkaterina Brusnika/ shutterstock