一所懸命訓練した「お座り」や「待て」。家では完璧なのに、外では全く聞く耳を持たない…なんてことはありませんか?
もちろん、家でできるだけでも十分に素晴らしいものですが、理想をいえばいつでもどこでもどんな場所でも成果を出せるようになりたいものです。
犬に人間の指示どおりの動作や行動をさせる訓練(服従訓練)においては、3つのDを考慮することが大事だと言われます。3つのDとはDuration(時間)、Distance(距離)、Distraction(気をそらすもの)のこと。これらはすべて、犬が指示に従ううえで難しさや複雑さを増す要因になると言われるものです。
[icon name=”comments” class=”” unprefixed_class=””] この記事の監修者
WanByWan 三井 惇(みつい じゅん)CPDT-KA
1997年ボーダー・コリーを迎えてからドッグトレーニングの面白さを知り、ドッグダンスを始めてから、ドッグダンスを広めたいとドッグトレーニングのインストラクターになる。
現在は二頭のボーダー・コリーと共に、一般家庭の愛犬のトレーニングやドッグダンスのレッスンに携わる。本人も競技者としてオビディエンス競技やドッグダンスコンペに出没中。
この記事には、こんなことが書いてあるよ!
ドッグトレーニングの3つのD
3つのD、すなわち距離、時間(コマンドに従う時間)、気をそらすものの3つは、すべて行動に影響するものです。
犬は、「人間が目の前で”sit”と言ったときは座る」ことを学んでいたとしても、人間が遠く離れた場所から”sit”と言った場合にできないことがあります。犬は一般化をしませんから、違う状況で言われた”sit”が同じ意味をもつことを自動的には理解しないからです。
上記の例では「人間が目の前で”sit”と言ったときは座る」という基本形に「距離」という要素が加わっていますが、「時間」や「気をそらすもの」という要素が加わったときもおんなじです。これらが加わることで、犬にとってはまったく別のものに変わってしまうのです。すなわち、3つのDが加わることで複雑になり難易度があがるため、犬にとっては理解が難しくなるのです。
教えたことを完璧にこなせるようになってもらうためには、それぞれのDを考慮した練習をしなければなりません。これができていないと、環境がちょっと変化するだけで犬はあなたのコマンドに従うことができなくなってしまうでしょう。
では、3つのDを少し詳細にみていきましょう。
Duration(時間)
Duration(時間)は、犬がコマンドに従う時間の長さです。コマンドの中には「持ってこい」や「ハードルを飛び越える」など時間という要素と関係ないものもありますが、「お座り」「伏せ」などのコマンドでは持続する時間が関係してきます。
- コマンドに従っている時間が長くなればなるほど、犬たちにとっての難度はあがります。
- 新しいコマンドの訓練をはじめるときは、秒レベルの非常に短い時間から始めるようにしてください
- 少しずつ時間を長くしていきますが、犬が間違えたり混乱したら、短い時間に戻ってください
- 何度も何度も繰り返しましょう
報酬は出来るだけ、理想の行動ができているときに与えます。数秒しかできないときでも、出来ていることへの報酬は必ず与えながら、少しずつハードルをあげていきます。
Distance(距離)
Distance(距離)は文字どおり、あなたと犬とがどれくらい離れているかのこと。犬との距離が増すにつれて、犬への影響力は減少します。
犬はあなたが隣にいるときに与えられたコマンドが、遠くから与えられたときも同じであることを自動的には理解しません。どこから発したコマンドでも同じ意味をもつことは、教えなければわかりません。
- 犬と向かい合ったまま、距離を伸ばしていきましょう
- 十分に距離をとれるようになったら、犬の横や背後からコマンドを発する練習にうつりましょう
- 飼い主の姿が目視できない状況でもコマンドに従えるように練習しましょう
Distraction(気をそらすもの)
Distraction(気をそらすもの)は、犬の気をそらす可能性のあるすべてのもののこと。通り過ぎる人、ドアベル、音、車、他の犬の匂いなどなどです。
「気をそらすもの」を無視させコマンドに従わせるのは、とても難しいことです。犬には周囲で起こるできごとに注意を向ける能力が備わっていますから、「周りを無視してコマンドだけに集中する」というのはとても難度が高いのです。
これができるように訓練するには、「気をそらすもの」が少ない環境で、「時間」と「距離」を長くしてもコマンドに従えるようにしておくことが大前提です。落ちついた環境で完璧にできてはじめて、「気をそらすもの」のある環境でのトレーニングを開始しましょう。
- 落ち着いた環境に、「ちょっと気をそらすもの」を加えてみましょう。たとえば、コマンドに加えて拍手をする、しゃがむなどの動作を加えてみるのです
- スタート時は、「時間」や「距離」の要素は少なめにしておきましょう。犬ができたら、そのたびに報酬を与えていきます。
- 出来るようになったら、「もっと気をそらすもの」を加えましょう。物を落とす、他の人が近くを歩く、オモチャの音を鳴らすなどです
少しずつ要素を加えるのがコツ
3つのDを考慮したトレーニングは、要素をひとつずつ増やすことにあります。難易度を一気にあげてしまうと、犬は混乱するばかりです。お座りが出来るようになったばかりの犬に、カフェでじっと座っていることを求めるのは、犬にとってアンフェアですね。
気が急いてしまったときは、「いつもの行動に3つのDが加わるだけで、犬にとっての難易度が一気に高くなる」ということを思い出してくださいね。
トレーニングを計画するときは、以下の点に注意をしてください
- 「気をそらす物」からはじめずに、「時間」または「距離」のどちらかの要素を追加することからはじめましょう
- 一度にとりくむのはひとつの要素に限定しましょう。組み合わせるのは、それぞれの要素が十分に達成できるまで待ちましょう
- 組み合わせの訓練では、3つのDをいっぺんに全て増やさないように注意しましょう。「気をそらすもの」の難易度をあげるときは、「時間」と「距離」の要素は控えめにすることが大切です
トレーナーのDawn Falk氏は、「10箇所でコマンドを成功させたいなら、100箇所で訓練する必要がある」と生徒さんに説いているそうです。いつでもどこでもどんなときでも出来るようになってもらうためには、1に訓練、2に訓練。完璧に出来ることに3つのDという要素を加え、少しずつ難度をあげてみてください。
そして、愛犬が新しいことを達成したら、たくさんたくさん褒めてあげましょうね。
◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] The Three Ds of Dog Training: Duration, Distance, and Distraction – AKC
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