皆さんこんにちは~。秋ですね。よいお天気が続くと、散歩がますます楽しくなっちゃう読書犬・ぐりです。僕、パグだから、夏はちょっと苦手。そして寒い冬もちょっと苦手。だから秋は大好き。
人と犬がいる景色を切り取って
よい気候にウキウキしながら、本を読んでいますが、またまた素敵な作品に出合えたのでご紹介しますね。『犬がいたから』(石黒謙吾著 集英社 2007年)は、7つの短編小説が収められた一冊。もともとはwebで連載した作品に、加筆修正をしてまとめたものだそうです。
犬と人との物語って、出会いや別れ、またはなにか事件や事故、いろいろな印象的なストーリーの中で描かれることが多いですよね。でもこの本は違うの。なんというか、日常にある、人と犬がいる景色を、そのまま切り取った感じなのです。だから話の起伏はそれほどないのですが、なんとなく、じんわりと、忘れがたいストーリーとして自分の中に残るの。不思議だよね。
音楽と小説の出合い
なぜ忘れがたいストーリーなのかというと、犬がテーマではあるのですが、もう一つ、多くの話に「音楽」が出てくるということが挙げられます。たとえば、第1話「裏口にいた犬」には、クラシックの名曲、パッヘルベルのカノンが出てきます。美大合格を目指して予備校に通い、夜は名曲喫茶でウェイターのアルバイトをする主人公。喫茶店のゴミ出しの合図として流れるのがこの曲なのです。そして、その曲がかかると、ゴミ出しをするために外に出て、1階で飼われている柴犬と会うことができる。そのひとときが、主人公をいろいろな意味で支えている。そんなお話です。
第4話「展覧会の犬」は不思議なお話。美術館で絵を見ることが大好きなOLさんが主人公なのですが、ある展覧会で、彼女の実家で飼われていたジャック・ラッセル・テリアとそっくりな犬が描かれた絵に出合います。その絵を見たことで、不思議な現象が起こるのですが、それはぜひ本書で確かめてみてくださいね。彼女は昔からムソルグスキー作曲の「展覧会の絵」という組曲が大好き。オリジナルのピアノ版ではなくて、ラヴェルが編曲したオーケストラ版がお気に入りなんだって。この曲がたびたび登場するのもこの物語の魅力です。
他にも、森高千里の「Hey! 犬」とか、クリスマスによく歌われる讃美歌「あら野の果てに」とか、ジャンルを問わず、いろんな曲が登場すします。具体的な曲名が出てこない話もあるのだけれど、実はこの本の最後に、それぞれの物語を書くときにイメージしていた曲の曲名が出ているの。最後にこれを見ると「なるほどー」って思うよ。その曲をかけながら読んでみるのもオツかもしれません。
人と犬が見つめ合う
僕の飼い主さん、趣味でチェロを弾いているんだけれど、学生時代はオーケストラにはまっていたんだって。オーケストラの団員になって初めて弾いたのがムソルグスキーの「展覧会の絵」だったらしいよ。パッヘルベルのカノンは、チェロの発表会でチェロ8本で合奏したって。ラヴェルのボレロも登場するんだけれど、これもオーケストラで弾いて楽しかったって。そうかー、だから僕にも「この本読んで。ぐり、絶対に読んで!すごくいいよ!」ってゴリゴリ押してきたんだね(笑)。でも確かに、よかった。音楽は、聴くの専門の僕でも、へえーこういうお話もあるんだって思ったもの。
出てくる犬は、雑種だったり、日本犬だったり、そんなに特別な種類の犬が出てくるわけではないんだけれど、どの犬も、ものすごーく主人公の心に強く、何かをもたらす力を持っているんだ。
第7話に出てくる郵便局員のお父さんが飼っている「さぶ」は、ある時ふっと姿を消してしまうんだけれど、それをさがしてさがしてさがし抜くお父さんが、最後にこうつぶやきます。
人は犬を見て、犬は人を見る。 そして、人と犬の気持ちは、同じになっていくんだな。さぶも、な。楽しかったな。さぶ。(p.152)
犬を飼っている人はみんなどこかでこう感じているのかもしれない。見つめ合って生きている犬と人の気持ちが、同じになっていくって、なんだか素敵だよね。
こういう宝石みたいな言葉がちりばめられているから、ぜひ読んでみてくださいね。
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