自分を傷つけないで〜自閉症に苦しむご主人のパニック発作を止める介助犬のお話

お仕事ワンコ
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補助犬は、しょうがいを持つ方の手助けをするパートナーです。

視力に障害がある方のためにドアの開閉をしたり、特定のものを手元にもってくるなどの活躍は、多くの方がメディアを通じて目にしたことがあるかと思います。

このお仕事犬たちですが、最近では身体だけでなく精神や感情に問題を抱える方のお手伝いをしていることはご存知ですか?主に米国などで注目されつつあります。

様々な分野で活躍する介助犬

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Samivest” by Crjs452Own work. Licensed under CC BY-SA 3.0 via Wikimedia Commons.

近年、日本でも補助犬として活躍する犬は増えています。厚生労働省によれば、2015年7月1日現在の補助犬の実働頭数は1,122頭[1]。1000頭を超えるワンコたちが、毎日わたしたち人間のために汗を流して(実際に汗は流さないけれど)いるんですね。補助犬の種類は、「盲導犬」「介助犬」「聴導犬」の3つです。2002年に施行された身体障害者補助犬法で定めらる、身体にしょうがいのある方を助ける役目を果たす犬のことです。

日本では身体にしょうがいの補助に限定されている補助犬ですが、特に米国などではその役割や活躍の範囲が広がりつつあります。たとえば介助犬については、糖尿病患者の低血糖検知やグルテンアレルギーのある患者の食事からグルテンを検出する犬もいます。

さらに近年は、精神に問題を抱える方を助ける「精神科サービスドッグ(精神障害者補助犬、Psychiatric Service Dog)」が注目されつつあります。たとえば、心的外傷後ストレス障害(PTSD)や統合失調症、アルツハイマー病や認知症、さらには自閉症の介護分野にも犬が進出しているのです。

自閉症に苦しむ人の傍に寄り添う

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やさしい眼をしたロットワイラーさん © Daisyree Bakker / Flickr

最近、介助犬がアスペルガー症候群患者のパニック発作(メルトダウン)を止める様子を記録した動画が話題になりました。

アスペルガー症候群(アスペルガー障害、自閉的精神病質、autistic psychopathy)は、小児期の発達障害のひとつで対人関係障害と情緒障害を主とするもので[2]、知的発達は保たれ言語力に優れていますが、社会的交流が難しく、興味・関心を示す範囲が極端に限られます。同じ行動を繰り返すこともあり、動き・動作にちぐはぐした感じが見えることもあるといいます。

患者さんの家族や介護者が直面する最も深刻で難しい問題の一つに、自傷行為があります。自分を叩く、殴る、頭を何かにぶつける、自分を咬む、火傷する、切り傷をつけるなど、実に多くのケースがありますが、彼らは知的に劣っているわけではないため、こうした自傷行為は見逃されがちです。人の目から行為を隠すことを知っているので、誰もいないところで行われます。

この問題に苦しむ方に寄り添い、救いの手(暖かい肉球)を差し伸べているのが、介助犬なのです。

苦しむ人、彼らを支える犬


Service dog alerts to self harm (aspergers) 投稿者 rafamarquezmx

動画は、アリゾナ州に住むダニエル・ジェイコブス(Danielle Jacobs)さん自身が撮影したものです。映しだされるのは、すすり泣きながら、頭や胸を叩き、そして床に崩れ落ちるジェイコブスさんの姿です。彼女が自分叩こうとすると、介助犬のサムソン(Samson、ロットワイラー)が止めようとします。何度も何度も止めに入ります。そして床に座り込んでしまった彼女をなだめるのです。

彼女は自傷発作の始まりを「コンピュータのようなもの。インプットが多過ぎ、アウトプットが十分でないと、コントロールを失い、クラッシュしてしまう。これがメルトダウン」と説明します。自傷行為は化学物質のアンバランスや、他の精神障害が根っこにあるとも考えられていますが、いまのはっきりとした原因はわかっていません。強い感情の喚起を増強するフラストレーション、感覚過負荷、拒絶された感覚などが特異的な発作の引き金となります。本当に苦しいものだと思います。そしてその苦しいときに一緒にいてくれるのがサムソンなのです。

「こころを助ける犬」はどうやって生まれたか

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© Tatiana Makotra / Shutterstock

精神科サービスドッグは、その多くがハンドラーとなる人自身が訓練をするそうです[3]。サムソンの訓練も、ジェイコブスさん自身が行いました。フェニックス(アリゾナ州)の動物シェルターから1歳のサムソンを引き取ったのは4年前。そこから、うつ症状の発作や自傷行為に警戒するよう教えたということです。以前にも保護犬のしつけを行った経験はあるいうことですが、それにしても素晴らしい訓練の成果ですよね。

そのときがきたら、サムソンは後ろ脚で立ちあがり、前脚で彼女の自傷行為を止めに入ります。自傷行為の後にはパニック発作もやってくるので、この発作が鎮まったらサムスンは彼女の上に横たわるのです。身体の上に約54kgの犬が横たわるというと「なぜ?」と思ってしまいますが、ジェイコブスさんによれば「サムソンの体重が鎮静効果になる」のだそうです。これは特殊なことではなく、他の自閉症などの患者からも、重さによる圧迫刺激がもつ鎮静効果は報告されています。

こうした訓練を、ジェイコブスさんはどうやって行ったのでしょうか。彼女は、「感情(が高ぶったことを伝えるの)ではなく動作に反応するよう教えた」のだといいます。犬のことを学び、お互いの信頼関係ができていてはじめて、ここまでできるようになるのでしょうね。

いつの日か犬の訓練の仕事について、サムソンのような介助犬を育てることが彼女の今の夢なのだそうです。


動画に映っている発作が、ジェイコブスさんのような自閉症患者には月に何度も起こります。重症を負ってしまう前に介助犬が止めに入り、患者を救うのです。

補助犬の頭数が増えてきたとはいえ、日本ではまだまだ社会的な認知度があがっているとは言い難い状況です。でもきっと近い将来には、心身の問題で苦しむ方と共に歩む犬が増え、それを社会が認めるようになるものと、強く信じています。

 

h/t to A Service Dog Stops an Autistic From a Self-Harming Meltdown | Psychology Today


[1] 補助犬の実働頭数―ほじょ犬|厚生労働省
[2] 中島義明 (Ed.). (2011). 『心理学辞典』. 有斐閣.
[3] Psychiatric service dog – Wikipedia, the free encyclopedia

 

Featured image by Marcelo Palmeira via shutterstock

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