犬と細菌の切っても切れない関係〜犬がいる家庭のバクテリア多様性は高い(研究)
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お散歩から戻った犬は、泥や草だけでなく細菌の大群を引き連れているって、知ってました?
連れてきた細菌たちは犬から離れ、家のあちこちに生息場所を見つけることもあるようです。犬を飼っていない家に比べ、犬を飼っている家には多くの種類のバクテリアが存在していることがわかりました[1]。
どこにでもいるバクテリア
「バクテリアの多様性が高い」というと、「ゲゲゲ、ウチって不潔なの?」と思ってしまうかもしれませんが、必ずしも不潔ということではありません。微生物は人の体や日用品、火山の周辺をも覆う、どこにでも存在する生物です。すでに1万1000種を超えるバクテリアが分類され目録に載せられていますが、これは分離培養されて登録されたものの数であり、実際には数十億種またはそれ以上いると言われています[2]。
そんなどこにでもいるバクテリアのうち、特に家の中に存在するバクテリアについて、ノースカロライナ州立大学の生物学者ロブ・ダン(Rob Dunn)らが研究を行いました。目的は、どのような変数が家庭の微生物生態系に影響を及ぼすのかを明らかにすることにありました。
研究者らは40の家庭において、あらかじめ決められた9つの場所(まな板、キッチンカウンター、冷蔵庫、便座、枕カバー、TVの画面、外装ドアのノブ、内装ドア周り、外装ドア周り)からサンプルを採取し、DNA分析を行いました。
結果、研究者らは家庭から、合計7,726種類の細菌を発見しました。それらの殆どは、私たちが触れる場所や食べ物がある場所、または埃の集まる場所で発見されました。また、どこの家庭でも同じような場所には同じようなバクテリアを”飼って”いるいることもわかりました。例えば枕カバーや便座には人の肌にいる細菌が発見され、葉っぱや野菜などのバクテリアはキッチンや外装ドア周りで発見されたということです。
犬の存在が細菌構成に影響を与えている
さて、ここまでの結果は納得できるものだと思います。水さえあれば生息できるバクテリアは、様々なもの(光、酸素、糖などなど)をエネルギーにして増殖し、生活圏を見出します。ある場所で生き残った微生物が他の家庭の似たような場所で生きる場所を見つけるというのは納得できる話です。
しかしここに、他の家と比較して、多様な微生物群を養っている家があったらどうでしょう。一体、誰がそんなに大勢のバクテリアたちを連れてきたのでしょうか。
答えは、我らがワンコたちです。研究者らが、猫、子供、絨毯の有無など、微生物コミュニティを変容させる変数を探したところ、これをなし得た唯一の存在が「犬」であったことがわかりました。
「我々は、犬の存在が家庭内の複数の場所で、細菌コミュニティの構成に大きな影響を与えていることを発見した。犬がいる家庭には、犬に関連するバクテリア分類群が比較的豊富に存在していた」とのことで、例えば家の枕カバーやテレビの画面に、犬の被毛などに住むことが知られる細菌が発見されたということです。
もちろん、家の湿度などの他要因もこの結果に影響することは十分に考えられます。しかし、この研究に関していえば、他の要素が微生物多様性に影響するという結果は得られていません。
細菌多様性は健康増進に役立つことも
なんということでしょう。愛するワンコたちは、バクテリアの多様性にも影響を与える存在なのです。
他の家より細菌の種類が多いと言われると、ウゲェと思ってしまいますよね。それでも、私たちは彼らを排除し清潔な家を守るべきかといえば、そうではないのです。
もちろん、中には健康に害を及ぼす病原性微生物も存在します(そして、犬がそれを運んでくることもあります)。しかし、「膨大な多様性を持つ微生物の中で病原性を持つものはごく少数に過ぎない[2]」のであり、微生物と私たちは共生関係にあります。悪影響を及ぼす細菌は、もちろん排除したいものですが、一方で微生物の支えがなければ私たちは健康に暮らすことはできません。
消化吸収を調節したり、血液中の資質や糖の濃さを調整したり、感染の回避や抑制をしたりと、体の中の微生物は、私たちの健康維持に役立っています。最近の研究では、人生の早い時期にペットと暮らすことは、過体重やアレルギーのリスクを減少させることも示唆されています。研究者らは、多様な微生物に晒され母親や胎児は、それらの存在に慣れるのではないかと推測しているのです。
清潔は保たなければなりませんが、必要以上に抗菌に熱をあげるのも逆効果。犬との生活は、犬が持ち込む微生物軍団とも共存するものと理解して、健康な共存関係を維持していきたいものです。
「犬は私の人生を変えた」とはよく聞く話ですが、目に見えない微生物レベルから変えているとは思ってもみませんでした。とはいえ、病原菌を持ち込まれるのは勘弁して欲しいところ。衛生には十分注意して、上手にワンコ関連細菌と付き合っていきましょう。
◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Dunn, R. R., Fierer, N., Henley, J. B., Leff, J. W., & Menninger, H. L. (2013). Home life: factors structuring the bacterial diversity found within and between homes. PLoS One, 8(5), e64133.
[2] 微生物 目には見えない支配者たち (サイエンス・パレット) (2016), Nicholas P.Money 花田智, 丸善出版
Featured image credit Eric Hacke / Flickr