犬を飼うことと子供が健康であることに直接の関連はない(研究)

サイエンス・リサーチ
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「犬を飼うことは子供の健康に良い」は、単なる犬好きの思い込みではなく、複数の研究成果がサポートする言説。これまでに「犬を飼っている家の子供は感情的及び身体的健康状態が良い」とか、「呼吸器系疾患やアレルギーの発症が抑制される」など、様々な成果が発表されていました。

しかし最近の研究[1]は、これとは逆の結果を示しています。「ペットの所有と子供の健康とは直接の関連性はない」というのです。これまでの言説を覆す研究とは、一体どういうものなのでしょう。

子供の健康に関係しているのは社会的経済的地位

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image by kitty.green66 / Flickr

研究を行ったのは、米国のシンクタンクRAND Corporation。研究者らは、2003年にカリフォルニア州が実施したインタビュー調査のデータを統計的手法により分析しました。州調査は毎年行われるものですが、ペットの所有について尋ねたのが2003年のみだったため、この年が選ばれたのだそうです。

対象となったのは、カリフォルニア州のペット所有世帯2,236と、それ以外の世帯2955の計5,191世帯のデータ。これを単純に統計的に分析したところ、「ペット所有世帯の子供の方が健康だ」という結果が見えきたそうです。この段階ではこれまでと同様に、「ペット所有世帯の子供は活動的で健康状態は概ね良好、親から精神状態や行動、学習能力が心配されることが少ない」という概観が得られていたのです。

研究者らはここで分析を止めることなく、高度な統計ツールを使用した次の分析に進みます。この段階では、交絡因子である可能性のある変数を考慮しての分析が行われました。交絡因子とは「統計モデルの中の従属変数と独立変数の両方に(肯定的または否定的に)相関する外部変数[3]」のこと。例えば「コーヒー飲用者に心筋梗塞が多い。コーヒー飲用者には喫煙者が多く、喫煙者は心筋梗塞発症が多い」という場合なら、”喫煙”が交絡因子となります。考慮された変数は、家計収入、言語力、住宅の種類など100以上にのぼりました。

結果、最初にみえていた「ペット所有世帯の子供の方が健康だ」という関連性は、消えてしまったということです。一方で、子供の健康に貢献するのはより高い社会的または経済的地位であることが見えてきたとのこと。すなわち、調整済みの分析からは、社会的経済的地位こそが子供の健康と関連する要因だとみえてきたというのです。

「犬を飼うことは子供の健康に良い」は根拠なき仮説

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image by Keng Susumpow / Flickr

子供の健康に貢献するのはペットではなくお金だというのは、身もふたもない結果ではありますが、納得できる結果でもあります。統計分析から研究者らは、ペット所有者の子供が学校で無料または安いランチを食べることは少ないことや、ペット所有者の方が毎月多額のローンの支払いをしていること、そして賃貸の小規模住宅ではなく”家’に住んでいることも明らかにしています。犬の存在よりこうした経済的な影響こそが子どもの健康に影響するというのは、なるほど納得です。

この結果、実は、当の研究者らにとっても驚きのものだったとのことで、ScienceDailyには「(先行研究の)因果関係を証明することにならなかったことに、全員が驚いています」とのコメントが掲載されています。ペットのいる家庭で育ち、現在も犬か猫を飼っているという研究者らは、今回の調査が先行研究の主張を強めるものにと予想を立てていたのだそう。「私たちは個人的な経験から、結びつきがあると想定していました」

しかし、逆の結果になってしまった今回の調査。研究者らは「我々は、ペットの所有が子供の健康に良い影響を与えると断言するのは時期尚早であると考えますし、これらの主張は現時点では”根拠のない仮説”だ考えます」と述べています。

さて、「犬を飼うことは子供の健康に良い」という言説の真偽は、一体どこにあるのでしょうか。今回の分析は規模が大きく一定の信頼はできそうですが、だからといってこれが絶対という訳ではありません。この研究の限界は、アメリカのカリフォルニア州という一地域でのみ行われたということにあります。もしかしたら地域が変われば別の結果が出るのかもしれません。また、ペットと子供の交流の質については特に評価がなされていません。

Rand社のParast氏によれば、「犬を飼うことは子供の健康に良い」を本気で調査しようとするのなら、「子供を持つ世帯の一部にペットを与え、他の家庭にはペットを与えない無作為試験を10〜15年実施することが唯一の方法」なのだそう。実際に行うのは難しそうですから、本当のところがわかるのはまだまだ先のことになりそうです。


ちょっぴりがっかりな結果となった今回の分析。だからといって「さぁ、犬を捨ててこよう!」という人はいないと思います。健康と直接の関係がなかったとしても、犬たちは喜びと幸せをもたらしてくれる素敵な存在。そのことは、変わるわけではないのです。

◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Miles, J. N., Parast, L., Babey, S. H., Griffin, B. A., & Saunders, J. M. (2017). A Propensity-Score-Weighted Population-Based Study of the Health Benefits of Dogs and Cats for Children. Anthrozoös, 30(3), 429-440.
[2] There Are Many Reasons To Buy Your Child A Dog Or Cat, But Better Health Might Not Be One Of Them
[3] 交絡 – Wikipedia

Featured image credit Cathy Stanley-Erickson / Flickr

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