股関節形成不全とは、股関節の形態的な異常のこと。痛みを伴なうことがあり、犬の生活の質を大幅に低下させる恐れがあります。
[icon name=”comments” class=”” unprefixed_class=””] この記事の監修者
みずの動物クリニック 水野範仁(みずの のりひと)
酪農学園大学獣医学科 修士課程修了 途中までちがう道を志すも若き青年の心を打ち壊す現実を目の当たりにしそこでも動物に癒され獣医学の道に進む事になり現在に至っています。
今は外科に興味を持って若い先生方に混じって実習やレクチャーなどに参加飛び回っているこの頃です。
1. 犬の股関節形成不全とは
犬の股関節形成不全は、「寛骨臼と大腿骨頭の弛緩または亜脱臼を特徴とした股関節の発育異常[1]」のような形態学的異常です。骨関節症や関節炎の原因となります。
正常な股関節は、寛骨臼(骨盤側)と大腿骨頭(大腿骨側)とがしっかりと結合していますが、股関節形成不全の場合は連結が緩み脱臼しやすい状態になります。
2. 股関節形成不全の発症はいつ頃?
股関節形成不全による痛みの症状は、サイズや年齢に関わらずみられますが、多くは成長期により発症します。約4ヶ月から1歳ごろまでに、体重25kg~45kgで多くみられます。
3. 発症しやすい犬種は?
犬の股関節形成不全は、1935年に報告されて以來、ミックス犬を含むほとんどの犬種で確認されています。セント・バーナード、ブルドッグ、コリー、ボクサー、ドーベルマン・ピンシャー、ロットワイラー、ジャーマン・シェパード、ゴールデン・レトリバー、ラブラドール・レトリバー、など大型犬での発生率が高く、かつ重篤になるケースが多いです。dogtime.comでは、大型犬の20〜40%が罹患しているとの推定が記載されています。一般社団法人ジャパン ケネル クラブのWebには、発生リスクが高いと考えられている犬種リストが掲載されています。
小型犬も発生する可能性はありますが、症状は軽いことが多いです。これは体重による関節の負担が少ないことによります。よく発生がみられる犬種はパグおよびフレンチ・ブルドッグです。
4. 股関節形成不全の原因はなに?
遺伝的な要素は確認されていますが、遺伝だけが症状を引き起こすのではないこともわかっており、正確な原因はわかっていません。生後の過剰な栄養(それに伴なう急激な成長)、エストロゲンの代謝不均衡、コラーゲンの異常など、様々な要因が影響していると言われています。また、体重増加や肥満、過度の成長と運動、栄養価の低い食事は状況を悪化させる可能性があると言われます。
5. どんな症状があるの?
股関節形成不全の犬では、以下のような症状が認められます。
- 後脚を引きずる、または小幅な歩行
- 階段登り降り、ジャンプ、ランニングが困難になる
- 活動の減少、活動範囲の狭まり
- 虫が這う、あるいは揺れ動くような歩き方をする
- 後脚を同時にあげる、うさぎ飛びのような歩き方
- 散歩の途中で座り込む
- 運動中あるいは運動後に足を引きずる
- 大腿部の筋肉量の減少
- 肩の筋肉が顕著に発達
- 変わった姿勢
- 痛み(動作するときにうめき声)
- 膝関節が内側に入るような座り方をする、など
6. 発症後でも運動していいの?
症状がみられたら、ドッグスポーツなどの運動は控えた方が良いでしょう。しかし、散歩や軽い運動は、関節周辺の筋肉を強化するのに役立つため、続けた方が良いとされます。ただし、痛みが強いときは、安静に過ごさせることも大切です。そして、長時間の運動より短時間の運動をこまめにするほうが良いです。
獣医師と一緒に運動のプログラムを検討しましょう。水泳(ハイドロセラピー)/水中トレッドミルなどは、関節への負担が少なく、筋肉の強化に効果的です。
7. 食事療法で症状を緩和できるの?
体重の管理は、犬にしてあげられる最高のプレゼントです。体重を減らせば、股関節にかかるストレスも減らせます。良質なフードは強い骨と筋肉の源になりますし、大型犬には大型犬向けのフードを与えることで、急激な成長による負担を減らすことができます。
8. 痛みの緩和のためにできることは?
痛みを感じているようなら、動物病院で検査をしてもらいましょう。適切な治療やアドバイス、そして処方鎮痛剤は、犬を痛みから救ってくれます。
- 犬の身体を冷やさないようにしましょう。寒さは痛みを強く感じさせます。冬の時期はセーターやコート、ブーツなどを活用し、関節を冷やさないようにしましょう
- 彼の股関節の周りの筋肉をマッサージしましょう。円を描くように優しく撫でる程度にマッサージをします。犬が嫌がるようならやめましょう
- 犬が滑らないように工夫をしましょう。ラグを敷く、床にワックスがけをする、爪を切る、肉球の間の毛を短くするなどです
- 整形外科用に開発された犬用ベッドは、犬を優しく守ってくれます。ぜひ検討を
◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] 泉澤康晴, 山下和人, & 小谷忠生. (1998). 犬の股関節形成不全 (異形成) の診断と治療. 獣医麻酔外科学雑誌, 29(3), 63-72.
[icon name=”heart” class=”” unprefixed_class=””] 以下の団体の協力により記事を作成しました
Team HOPEは、全国の獣医師・動物病院がTeamとなって、ペットの予防医療と健康管理の普及・啓発 活動を推進し、ペットにやさしい社会の実現を目指すプロジェクトとして2013年12月に発足。Team HOPEの「Team」には、獣医師同士のTeam、業界全体でのTeam、そして、ペットオーナーと獣医師とのTeamづくりを願う気持ちが込められています。