NYブルックリンの地元紙が報じた「ワクチン接種を拒否するペットの飼い主が増加」というニュースが、米国で注目を集めています。”自閉症の原因はワクチン接種だ”という虚報が影響を与えているとして、懸念されているようなのです。
”自閉症の原因はワクチン説”
ワクチン拒否問題を報じたのは、NY州ブルックリンの地元紙Brooklyn Paper。ブルックリンの一部の飼い主に、飼い犬へのワクチン接種を拒否する動きが見られることを報じています。記事には、「ペット用ワクチンへの懸念は、最近盛り上がっている”子供の自閉症の原因はワクチン説”に影響されている」とする獣医師の見解が寄せられています。
”自閉症の原因はワクチン説”は、1998年にイギリスの研究グループが行なった研究報告と、これを受けて唱えた「MMR(麻疹,おたふくかぜ,風疹の混合ワクチン)が自閉症の原因である」仮説が元になっています。その後の研究の蓄積により、MMRが原因となる根拠は薄いのではないかという意見が大勢となっている(専門家や団体からは科学的根拠がないとする公式発表は多数ある)ものの、現在も論争はおさまっていません[1]。
こうした中、「ワクチン接種が自閉症の原因だ」という持論を持つ大統領が誕生したことが、米国での”ワクチン原因説”に勢いを与えました。トランプ大統領はTwitterやテレビのインタビューなどで、自閉症とワクチン(大量接種)に関連性があるという持説を公にしています。
Brooklyn Paperは、”ワクチン原因説”の盛り上がりが飼い主の注射の副作用への懸念と疑念を後押し、拒否の流れができたのではないかと分析しています。
”科学的根拠なし”が大勢
近年の”ワクチン反対運動”についてNewsweekは、「接種が自閉症を引き起こす科学的根拠はない。ワクチン接種の危険性を警告し、接種の不振を引き起こした1998年の研究は、掲載誌(英国の医学雑誌The Lancet)から取り下げられ、後には詐欺的な研究であることが判明した」と報じています。
Timeでは、ワクチン接種を拒否するペットの所有者が潜在的に広範囲に害を及ぼすとしています。「ワクチン接種を受けていない子供は、麻疹、流行性耳下腺炎、百日咳、咳、ポリオなどの予防可能な病気に罹患するだけでなく、その病気の潜在的キャリアとしての役割も果たす。ワクチン接種ができない人(乳幼児、非常に老いた人、免疫システムが損なわれた人を含む)は集団免疫(herd immunity)により病気から守られるべきだが、このためには95%という高いワクチン接種率が必要だ」
犬のワクチンも、イヌパルボウイルス、ジステンパー、イヌ肝炎、および狂犬病予防可能な病気を防ぐことに繋がります。犬が罹患し媒介する病気の中には、人間にも広がる懸念がある感染細菌性疾患も含まれています。
接種拒否は犬の健康を脅かす
仮に、人間のワクチン接種に対して自閉症の原因であるとわかった場合には、動物へのワクチン接種もやめるべきなのでしょうか?
そもそも「犬に自閉症という診断を下す」ことが(少なくとも現時点では)難しいということがあります。獣医師のLiff博士はBrooklyn Paperに「私たちは犬で自閉症を診断したことはありません。誰かが(自閉症だと診断)できるとも思わない」と答えています。これを根拠に拒否をするというのは、論拠に乏しいと言わざるを得ないようです。
ワクチンの頻度や必要性、副作用については、わかっていないことが多く不安に思う飼い主さんも少なくはありません。しかし、いきなり”接種拒否”に振れてしまうことは、愛犬や周囲の健康を損なう可能性を高めますし、時には命を奪うことにも繋がりかねません。デューク大学のHare博士はTimeのインタビューに「ワクチン接種を受けていない犬の病気は、コミュニティにとって壊滅的な打撃を与えることがある。犬や周囲の人を愛しているのであれば、ワクチンを接種すべき」と答えています。
◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] MMRワクチンの中止は自閉症の発生率に影響を及ぼさず -横浜市港北区の全人口調査による-
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犬とワクチン(1)〜WSAVAガイドラインに沿ったワクチン接種の頻度 | the WOOF イヌメディア
春の足音が聞こえてくると、ワクチン接種についての悩みが深くなる飼い主さんは多いかと思います。「どんなワクチンを、どのくらいの頻度で受けるのが良いのか」は、悩ましいところですよね。 今回はこの悩ましきワクチン接種についてお話します。近年改変されつつあるワクチン接種の”新常識”とは、どういったものでしょうか。