悲しい出来事があるとホロリ。感情が高まるとポロポロと、私たちは涙を流します。
犬たちはどうでしょう?辛いときや悲しいとき、涙をこぼすことはあるのでしょうか?
悲しみにくれるシェルターの犬
動画の主人公は、殺処分率の高いシェルターで保護されているピット・ブルのブルー・キング(愛称:ブルー)。彼は引っ越しする家族に捨てられ、このシェルターで暮らすことになりました。
長く暮らせば暮らすほど死が近づくシェルターで、ブルーは家族を待ち続けました。それを見たボランティアは、ブルーの動画を撮影しFacebookに掲載する案を思いつきます。ブルーはいつも元気がなく、まるで悲しみにくれているかのように涙が浮かんでいたからです。
「彼の様子を見て心を動かされる人はきっといる」そう信じたボランティアの願いは、すぐに叶えられました。動画をアップした直後に、新しい家族候補から連絡があったのです。
何回かの面談や検査ののち、ブルーは新しい家族に引き取られました。現在、ブルーは幸せいっぱいに暮らしています。お散歩やトレーニングに忙しく、悲しみの涙を流す暇などないようです。
では、本題。ブルーは悲しみから涙を流していたのでしょうか?
犬は悲しみの涙を流すのか?
私たちは、悲しみや苦しみなどのために涙を流すことを「泣く」と言います。「泣く」ためには、その人の中に、喜びや悲しみなどの強い感情が湧き上がることと、そのような感情に反応して涙を流す目が必要です。
すなわち犬に(1)感情があり、(2)涙管があって、(3)それが紐づいていることがわかって初めて「ブルーは悲しくて涙を流した」と言えるのです。一つひとつ見ていきましょう。
・犬に感情はあるか?
まず、犬にも感情はあるのかという点です。
飼い主たちの答えは一つ「あるに決まってる!」ですよね。ブリティッシュ・コロンビア大学のコレン博士も同じ意見で、著書には「犬にもまた、私たちのものと似た感情があると考えるのは理に適っているように思える」とする記述があります。
ただしこれには、人間と同じような感情の幅をもつ訳ではないという但し書きがつきます。「犬がもつことのできる感情の種類は、2歳から2歳半の人間の子供のそれを超えることはない」として、喜び、恐れ、怒り、嫌悪、愛の感情はあるとする一方で、罪悪感や自尊心、恥といった社会的感情はないとしています。
・犬に涙管はあるか?
犬の目には涙管があって、涙を分泌しています。涙は、角膜を覆うことでホコリやバイ菌から目を守り、滑らかさを保って視界を良好に保ち、ときには異物や老廃物を洗い流す重要な役割を果たします。
・感情と涙は紐づいているか?
感情により引き起こされる涙のことを「情動性分泌」といいます。情動性分泌は、共感性を高める、攻撃を低下させる、有害物質を洗い流すなどの理由でおこると言われていますが、正確な理由はよくわかっていません。わかっているのは、動物の中でヒトだけ特有の生理反応であり、犬を含む他の動物には見られないということです。
つまり、犬は感情もあり涙も流すけれど、感情によって涙を流すことはないということです。犬は悲しいときや悔しい時は、別の方法で感情を表しします。涙は、より実用的な理由で流れるのです。
なぜ犬は涙を流すのか?
涙をホロリと流したブルーには、何が起こっているのでしょう。
ウルウルではなく、ポロポロと涙を流している場合は、以下の問題の発生が考えられます。
- アレルギー(季節性、食物または環境要因)
- 鼻炎または副鼻腔炎
- (顔の骨の)骨折または損傷
- 結膜炎
- ブロックされた涙管
- 角膜潰瘍
- 眼の感染症
- まつげの異常
- 目の病気(緑内障など)
「悲しみで涙を流す」ということは、犬については起こりません。涙は、もっともっと現実的な理由で流されます。
動画を使って新しい家族を惹きつけた施設の職員さんは”Goog Job!”ですが、ブルーの涙は悲しみのためではなかったのです(病気などの可能性は検査され、結果は家族候補にも知らされています。騙したわけじゃないよ!)。
犬は、悲しみや恐怖から涙を流すことはありません。過剰な涙の原因はアレルギーなどの病気の可能性が大なのです。愛犬がポロポロ涙を流したら、まずは動物病院に連れて行きましょう。
◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Can Dogs Cry Tears Of Sadness? | Cuteness
[2] Dog Eye Problems: Infection, Discharge, and Tear Stains
[3] Watery Eyes in Dogs | petMD
Featured image credit Kirt Edblom / Flickr
犬は仲間の死を悲しむのか? | the WOOF イヌメディア
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