犬も笑うのか〜笑顔の意味はヒトと同じ?

生態・行動
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インターネット上には”犬の笑顔”が溢れていますが、あの表情は私たちがいうところの笑いの表情なのでしょうか?

犬も笑うことができるのか

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image by Sabina\Събина Panayotova\Панайотова / Flickr

人間の笑いとは、くすぐったいなどの触覚刺激や視聴覚情報刺激に対する顔の動きや発声などのこと。典型的な笑いは、口角が上がり目が細くなる「笑顔」と、「笑い声」が特徴です。

笑いは、喜び・うれしさ・楽しさといったポジティブな感情表出行動ですが、自分自身の快感情だけでなく、他人に自分の意思を伝えることにも使われています。照れくさい時の照れ笑い、人付き合いを円滑するために浮かべる愛想笑いや、つまらない冗談を言われた時の苦笑など、様々な社交機能を果たしています[1]

犬が人間のように笑うのかについては、はっきりとしたことはわかっていません。犬も口角をあげて前歯をみせる”笑顔”のような表情をみせることはありますし、嬉しい時には”笑い声”のような音を出すと言われますが、その表情や声が感情と紐づいているかはわかっていないのです。

むしろ、嬉しいときや楽しいときに見せる尻尾振りの方が、私たちの考える”笑顔”に近いものかもしれません。犬の場合は表情や声より尻尾振りの方が、ポジティブな感情と関連があることがわかっているからです。

犬の”笑顔”

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image by Jiri Vaclavek / Shutterstock

さて、本題。犬の笑顔の裏にはどんなキモチが隠れているのかというお話です。

犬も口角を上げて、”笑顔”をのような表情をみせることがあることは、前述したとおりです。このうちのひとつ、リラックスしているときに見せる、口を開けて舌を覗かせる表情は、人間の笑顔と近い表情だと言われています。

しかし、これ以外の、歯を露出させる笑顔に似た表情にはちょっと注意が必要です。

ひとつはSubmissive Grin(従順な笑顔)と呼ばれる表情で、服従の意思を表すとき(転じては親密さを示すこともある)や、恐怖や不安のほか社会的に厄介な状況に陥り混乱しているときにみせるものです。

もうひとつはSnarl(唸る)で、その名のとおりの唸り顔です。歯を見せる点で笑顔に似ていますが、鼻の上にシワが寄り全身が緊張していたりパンティングを伴います。飼い主さんは犬がストレス下にあることを理解できると思いますが、子供はこの表情を笑顔だと解釈することがあるので注意をしなければなりません。

犬たちが実際にどういう心持ちでいるのかは、前後の文脈と全身の様子から類推する必要があります。例えば「大きな犬と初めて対峙することになった」という状況で「耳を後ろに倒して身体を低くしている」のならば、嬉しさより緊張から歯を見せていると考えた方が良いでしょう。

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笑顔に似た表情だからとむやみに手を出すと、思わぬ事故にもつながりかねません。

犬の”笑い声”

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image by smerikal / Flickr

次は笑いのもう一つの特徴である”笑い声”のお話です。犬も笑い声に似た音を出すことがあります。

犬の笑い声研究で名前が上がるのは、動物行動学者のコンラート・ローレンツとパトリシア・シモネットでしょう。ローレンツは犬の唇と行動の生理学を観察し、犬の(遊びの中での)パンティングは人間の笑いと大差ないものであると考えました。彼は、著書の中で、この笑い声が遊びへの招待であると記述しています。

パトリシア・シモネットは、より実験的なアプローチで”笑い声”の存在を証明しようとしました。彼女は犬が遊びの中で発する声を多数録音して分析・分類をしたのです。その結果、通常のパンティングと”笑い声”は異なる音で構成されている(幅広い周波数の音を含んでいる)ことを発見しました。私たちには「ハァハァ」と聞こえるものの中に、感情を伴う”笑い声”が含まれている可能性というのです。

さらに2005年、シモネットは、ワシントン州の動物シェルターと協働して、犬の”笑い声”がシェルターに滞在する犬にどう影響するかを確認しました。120匹を6週間にわたり観察した結果、犬の”笑い声”を聞いた保護犬は静かになったり、遊び行動を始めたり、笑顔さえ見せることが確認できたのです。この結果からシモネットは、犬の”笑い声”が保護犬のストレスを軽減する可能性があることを示したのです。

犬の全身を使った笑い

シモネットはこの他に、犬の”笑い声”が他のボディランゲージとどう結びついているかを調査しました。人間が笑いながら目を閉じたり、頭を後ろにのけぞったり、涙を浮かべたりするように、笑いにサポート行動が伴うと考えたのです。そして尻尾を振るという行動は、人間の笑いとイコールではないものの、笑い声に随伴するものである可能性があることを示しています。

尻尾を振る犬が必ずしもご機嫌な犬であるとは限りません。恐怖や不安の現れだったり、単なる挨拶だという可能性も十分あります。しかし、リラックスして楽しい状況にある犬が尻尾を幅広に振るのなら、「幸せだよ」「嬉しいな」という意味である場合が多いようです。

やはり、尻尾フリフリが、私たちの言う”笑顔”に最も近いもののようです。


愛犬を見守りづけている飼い主さんなら、可愛い我がコの”笑顔”がどんなものかは、すでにご存知なのかもしれませんね。愛犬にいつも笑顔でいてもらえるよう、ぜひぜひリラックスできる楽しい環境をつくってあげてください。

◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] 李珊, & 渋谷昌三. (2011). 社会的笑いに関する心理学研究の動向. 目白大学心理学研究, 7, 81-93.
[2] 笑う(ワラウ)とは – コトバンク
[3] Do Dogs Laugh?
[4] Laughing Dogs | The Bark

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ゴールデン・レトリバーのコーベさん。スペルは神戸市のKobeです。 フレンドリー過ぎる犬として知られるゴールデン・レトリバー。可愛いお顔は結構柔軟で、そのせいなのか犬としては表情豊かなコが多い印象があります。 そりゃあもちろん、理不尽に顔を引き伸ばされたら怒るけど、飼い主さんのマッサージには、こんなお顔になっちゃいます。

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